MCU、配信限定の長編映画は作らない ─ マーベル社長、コロナ禍に抱えた不安を明かす

2008年『アイアンマン』に始まったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は、多数の映画が互いに繋がりあい、ひとつの巨大な物語を形成するという前代未聞の巨大フランチャイズとなった。その集大成である『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)には、世界中の観客が劇場で熱狂したのである。
それだけに、同作の直後にあたる2020年から世界を襲った新型コロナウイルス禍はMCUにとっても大きな脅威だった。マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、コロナ禍で抱いていた不安を、The Movie Business Podcastにて率直に明かしている。
「数年前、パンデミックの真っ只中にあったころは本当に心配でした。誰もがそうだったように、世界の状態や文明の未来が心配でしたし、映画業界の未来、とりわけ劇場ビジネスの未来が心配だったんです。なぜなら私は、自宅で観られることが目的であっても素晴らしい作品は作れるし、最高の物語は描けると信じているから。」
事実、コロナ禍の始まりとなった2020年にマーベル・スタジオは映画作品の公開を見合わせることとなった。これはMCUが始動した直後の2009年以来のことで、2019年7月公開の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』から2021年7月公開の『ブラック・ウィドウ』までは2年の間隔が空いたのだ。しかも、『ブラック・ウィドウ』は劇場と配信の同時リリースとなった。
もっともマーベル・スタジオは、続く『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)から一定期間の劇場独占公開を再開。以降、現在に至るまでディズニーは配信を重視する方向性に舵を切っているが、ファイギ社長らは“劇場体験”にあくまでもこだわる姿勢だ。
「知らない者同士が劇場に数百人集まり、ひとつのものを体験する、この共有経験をつぶせるものはありません。また現在の世界では、あらゆる種類の人々がひとつの経験を共有するという文化的なクロスオーバーが、今まで以上に重要になっていると思います。劇場体験に勝るものはないのです。」
なお、偶然にもコロナ禍と重なる形で、マーベル・スタジオはディズニープラスでのドラマシリーズを始動。製作の遅延などは発生したものの、2021年初頭から「ワンダヴィジョン」や「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」が長編映画の再開に先がけてリリースされた。もっとも“劇場体験”を重視しているマーベル・スタジオは、ディズニープラスで配信向けの映画を製作することはないという。
数々の作品でプロデューサーを務めてきたマーベル・スタジオ幹部のネイト・ムーア氏は、米Deadlineのポッドキャストにて「ディズニープラスで(配信向けの)映画がリリースされることはありますか?」との質問に「ノー」と回答。「私たちは劇場体験の熱心な支持者です」と強調し、「ドラマシリーズはディズニープラス、映画は映画館。それぞれが共存できるし、そのあり方をできるかぎり守っていきたい」と述べた。
Source: The Movie Business Podcast, Deadline, The Direct(1, 2)