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【インタビュー】ヒュー・ジャックマンが解説する『フロントランナー』 ─ 「この映画は答えを与えない」何が重要なのか分からない世の中へ

フロントランナー ヒュー・ジャックマン

何が重要なのかも分からない世の中で

様々な視点から複雑に描かれる『フロントランナー』では、ジャーナリズムの境界線が突かれる。大統領になり得たはずだった若き天才政治家ゲイリー・ハートとアメリカの運命は、たったひとつの不倫スキャンダルで全てが狂い出す。果たしてゲイリーの私事は、全てを葬ってしまうほど重要なことだったのか。本当にゲイリーは政治生命を抹消されるべきだったのか。劇中で語られる「面白い物事があっても、それが重要だとは限らない」というメッセージは、ヒューにとってどう響いたのか。そう尋ねられると、「それこそが、まさに本作のテーマですよ。核心を突いてきましたね」と嬉しそうに答えた。

「僕たちはみんな、センセーショナルで刺激的で、面白そうなことに気を取られてしまいます。それが人間の性(さが)ですよね。お隣さんを柵越しに覗いて”うわ!あんなことやってる!”みたいな。気になっちゃうのは分かります。でも、それが大事なことかと言われると、そうでもないですよね。」

フロントランナー
The Front Runner

語りながらヒューは、テーブルの上に置いた自身のiPhoneを手に取った。ホーム画面やロック画面を右にスワイプすると、ニュースなどを並べられる「ウィジェット」画面が表示される。ヒューは朝起きると、このウィジェットでその日のニュースをチェックするのだそうだ。実際にやって見せてくれた。

「こうやって4つのニュースが表示されるようになっているんですが、読み上げますね。トップストーリー、”トランプ大統領、政府閉鎖と貿易戦争の終了求む声 高まる ワシントン・ポスト”。ね?その下は…、”メラニアとトランプの関係は思っていたものと違う”、オッケー。それから、”ビキニの登山家、落下して凍死 台湾”。こんな風に4つのニュースが並ぶんですが、重要なニュースは一体どれだろうか?政府閉鎖のことか、ビキニの登山家か、それともアリアナ・グランデの恋愛ネタか。“気になる”ではなく、”重要である”物事は何なのか。どんどん見分けがつかなくなってきていませんか?

「本作が究極的に描いているのは、こういうことなんです。」iPhoneを置いて続けるヒュー。「忘れられ、無視され、キャッチーに仕立て上げられた物語。でも、この物語を注意深く見つめてみてください。今現在のこの状況がどのようにして生まれたのか、その鍵が描かれていますよ。

語り継ぐことの大切さ 若者にも届けたい

『フロントランナー』で描かれるのは、1988年大統領予備選挙で起こった史上最大の政治スキャンダル。もちろん、当時はまだ生まれていなかったという方も多いだろう。10代、20代の若者にとっても『フロントランナー』は観るべき映画だろうか。ヒューは「もちろんです」と自信を持って即答した。

「きっと僕には物珍しい物事も、みなさんの世代にとっては普通なんでしょう。大統領がTwitterで国民と1日40回も直接やりとりするなんて、僕たち世代にとってはすごく奇妙なんですよ(笑)。でも、今ではそれが当たり前になっている。政治が姿を変えたんですね。だからこそ、かつてはどんな姿だったのかを伝えることが重要なんです。何故なら、姿を変えたからといって、今の方が優れているとは限らないからです。

この映画が究極的に挑戦しているのは、全ての人々に非常にシリアスな問いを投げかけること。”何が重要なのか?”とね。あなたが21歳だろうが、16歳だろうが、83歳だろうが、全ての人にとって重要な問いです。」

フロントランナー
The Front Runner

健全なメディアとはインディペンデントであり、あらゆる出来事にアクセスできることが必須。民主主義においては、間違いなくそこが重要になってきます。今、僕たちはノイズに溢れた世界に生きている。リアルな情報へ辿りつけることの重要性が高まっています。」記者会見時同様にメディア論を熱く訴えるヒューだが、本作のインタビューでは自身の政治観を語ることは避けているという。「僕はオーストラリア人で、そもそもアメリカ人ではないから、(政治観を語ることは)本質的ではない。いろいろな意見があると思いますが、僕に出来ることは物語を伝えることですから。

スキャンダルと再生

#MeToo運動以前、トランプ大統領誕生以前に製作が始められた『フロントランナー』で驚かされるのは、これが1988年の出来事ながら、驚くほど今日と地続きのジレンマを捉えていることだ。現在に通ずるトピックは本作中に多数散りばめられており、たとえばヒュー演じるゲイリーは劇中、政治家とは過去の発言ひとつをも永遠に問われ続けるものなのかと問う。有力者が、過去の失敗や失言によって裁かれたというニュースは今も世間を賑わせている。政治家に限らず、エンターテインメント業界でも同様だ。「これは転落の物語です。過去の失敗は本当に咎め続けられるものなのでしょうか」と筆者が尋ねると、ヒューから返ってきた答えは安心できるものだった。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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