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【特集】ゴールデングローブ賞監督賞ノミネート、3名の女性監督クロエ・ジャオ&レジーナ・キング&エメラルド・フェネルを徹底解剖

レジーナ・キング Regina King クロエ・ジャオ Chloe Zhao エメラルド・フェネル Emerald Fennel
Photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Regina_King_by_Gage_Skidmore.jpg|Photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chloe_Zhao_(48462722666).jpg|Photo by Mark Jones https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Emerald_Fennell25-03-2013_MarkJones.jpg|Remixed by THE RIVER

近年、ハリウッドにおける女性映画監督の活躍が顕著に見られている。米Varietyによれば、映画興行収入ランキングトップ100のうち女性監督が手がけた作品が含まれている割合として、2018年は4%、2019年は12%と推移していくなか、2020年は更に上昇。2018年と比較して12%増の16%を記録している。これは映画産業における着実な進歩として捉えられるだろう。

この前向きな一歩を後押しするかのように、ハリウッドにおいて変化が形となって現れた。アカデミー賞の前哨戦として知られ、主要な授賞式の先陣を切るゴールデングローブ賞の第78回ノミネーションにて、同授賞式史上初となる映画部門監督賞で3名の女性監督が名を連ねたのだ。その3名が、『Promising Young Woman(原題)』のエメラルド・フェネル監督、『あの夜、マイアミで』のレジーナ・キング監督、そして『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督。ハリウッドで活躍する大勢の女性監督の中でも頭角を現すクリエイターだ。

この歴史的快挙の当事者として名を挙げられた3人は、属してきた環境や歩んできたキャリアは違えど、共通して見られる固い信念を持っている。そんなフェネル監督、レジーナ・キング監督、ジャオ監督への理解を深めてもらうべく、本記事では彼女たちのこれまでのキャリアやフィルモグラフィー、そしてノミネートされた監督作品を紹介していきたい。

エメラルド・フェネル『Promising Young Woman』

英ロンドン出身のフェネルは、自身のキャリアを監督ではなく女優にてスタートさせた。2006年にドラマの端役で役者デビューを飾り、その後は『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』(2015)『リリーのすべて』(2015)「ザ・クラウン」(2016-)など、複数の話題作に出演を重ねた。

監督デビューは2018年。脚本から携わった短編映画「Careful How You Go(原題)」を手がけた。「Fleabag フリーバッグ」(2016-2019)で知られる女優フィービー・ウォーラー=ブリッジが出演した本作は、サンダンス映画祭短編部門の最高賞である審査員賞にノミネートされている。そして、このたび快挙を成し遂げた『Promising Young Woman』で監督2作目、さらに言えば長編映画デビューを飾った。

『Promising Young Woman』は、強姦が原因でこの世を去った友人の死をきっかけに、女性を軽視する男性たちへの報復を誓う女性カサンドラの爽快な復讐劇を描いたスリラー作品。主人公カサンドラ役は、『17歳の肖像』(2009)『わたしを離さないで』(2010)『華麗なるギャツビー』(2013)などで知られる実力派女優キャリー・マリガンが演じている。

「#MeToo運動」をはじめ、男女平等社会を実現するための動きが活発に推進される現代に呼応するような題材である本作にあたり、フェネル監督は「激しい怒り、特に女性のなかに現れる激しい怒りについてたくさん考えてきた」と語る。そんな本作では、女性を性欲のはけ口としか見ていない男性たちのひどく滑稽な姿が爽快なタッチで描かれているのが印象的だ。

製作を担うのは、女優マーゴット・ロビーが率いる制作会社LuckyChap Entertainment。同社は女性の脚本家を育成するプログラムを創設するなど、ハリウッド業界における女性クリエイターの地位向上に努めている。そんな女性へのエンパワーメントが込められた本作が持つ存在意義は大きいのではないだろうか。

レジーナ・キング『あの夜、マイアミで』

レジーナ・キング Regina King
Photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Regina_King_(43074873134).jpg

レジーナ・キングと聞くと、『Ray/レイ』(2004)『ビールストリートの恋人たち』(2018)『ウォッチメン』(2019)など、女優としての印象が強いかもしれない。女優としてのキャリアは、なんと30年以上。演技の世界で経験を十分に積んでから、監督業に足を踏み入れた。

初監督作は2013年。自身も出演したドラマ「サウスランド」(2009-2013)でエピソード監督を務めた。以降、「シェイムレス 俺たちに恥はない」(2011-)「THIS IS US」(2016-)など、継続してドラマ作品で経験を重ね、このたびゴールデングローブ賞監督賞にノミネートされた『あの夜、マイアミで』にて長編作品デビューを飾った。

『あの夜、マイアミで』では、1960年代の黒人コミュニティを代表する4人の英雄モハメド・アリ、マルコムX、サム・クック、ジム・ブラウンが結集した一夜が描かれる男性4人に焦点を当てた本作を作るにあたり、レジーナは意識的な現場環境の構築に取り組んできた。米Insiderにレジーナが語ったところによれば、「クルーの50%以上が白人かつ男性でない」環境を実現させたという。

また、「カメラの裏側に役職のある女性がもっといるべきだと強く思います」と信念を語るレジーナ。「それ以上のことを目覚めさないといけないんです」。本作で浴びた脚光を皮切りに、今後もハリウッド業界の変革を担う女性フィルムメーカーとして注目したい。

クロエ・ジャオ『ノマドランド』

Chloe Zhao クロエ・ジャオ
photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chloe_Zhao_(48462722666).jpg

『ザ・ライダー』(2017)『ノマドランド』(2020)と、高評価作を連発させる気鋭のフィルムメーカー、クロエ・ジャオ監督。2008年より短編作品を継続的に発表し、2015年にアメリカインディアンの兄妹の絆を描いた『Songs My Brothers Taught Me(原題)』で長編デビューを飾った。

ジャオ監督といえば、長編映画監督作がたった3本という経歴で、一大フランチャイズを手がけるマーベル・スタジオの新作映画『エターナルズ(原題:Eternals)』に抜擢された注目の映画監督。ジェンダーや国籍など、あらゆる文脈を抜きに、映画業界で頭角を現す注目のクリエイターだ。

そんなジャオ監督の新作『ノマドランド』は、企業の経済破綻を機に住み始めたアメリカ・ネバダ州の企業城下町の住処を失い、最愛の夫も亡くした主人公ファーンが、思い出だけを旅のお供に車上生活者(現代の遊牧民=ノマド)としての生活を始めていく物語。主演を『ファーゴ』(1996)『スリー・ビルボード』(2017)などで知られる名女優フランシス・マクドーマンドが務めている。

本作は、ベネチア国際映画祭では金獅子賞に輝き、トロント国際映画祭では観客賞を受賞。さらに両映画祭にて最高賞を制覇するという史上初の快挙を達成した。アカデミー賞最有力候補の呼び声も高い。女性であるだけでなく、中国人でもあるジャオ監督は、ゴールデングローブ賞監督賞において史上初となるアジア系女性監督としてノミネートされた。

次回作は先述の通り、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品『エターナルズ』。いわゆる大作と呼ばれる映画作品を手がけるのは初となるジャオ監督は、これまで培ってきた自身の感性を取り入れるべく、『エターナルズ』でも脚本を兼任していることを以前明かしていた

また、壮大な世界観を持つMCUにおいても、インディペンデント作品のような小規模での製作を心がけるなど、新たな風を吹きこむジャオ監督。そんな彼女が自ら提案した『エターナルズ』には、マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギも「これまで聞いたピッチのなかで最高なもの」と語っており、その才能に驚かされているようだ。己を貫くジャオ監督は、変革が起こりつつあるハリウッドにとっての希望となるだろう。

女性クリエイターの活躍に期待

本記事で紹介してきた3人の女性監督のほかにも、ゴールデングローブ賞のノミネーションでは複数の女性クリエイターの活躍が評価されている。外国語映画賞では女性脚本家マリソン・ボヴァラズミーが手がけた『Two of US(原題)』、主題歌賞ではイタリア出身の女性歌手ラウラ・パウジーニが『これからの人生』で歌う楽曲が選出された。

こうした女性クリエイターたちの活躍は、ハリウッドを支える1つの大きな柱となっていくはずである。まずは、歴史的瞬間が誕生しうる第78回ゴールデングローブ賞授賞式を見逃さないでほしい。日本時間2021年3月1日に開催予定だ。

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Source: Variety,THR,Deadline,Insider,RollingStone

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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