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【解説】『ハンターキラー 潜航せよ』が切り拓く「潜水艦映画」の新時代とは ─ 歴史と魅力に深く潜る

ハンターキラー 潜航せよ
© 2018 Hunter Killer Productions, Inc.

星の数ほどある軍事アクション映画の中でも、潜水艦映画は傑作が多いサブジャンル。1980年代から2000年代初頭にかけての全盛期に比べ、最近はめっきりと新作が減ってさびしい限りだったが、米国防総省と米海軍の全面協力のもとジェラルド・バトラー主演で描く『ハンターキラー 潜航せよ』(2019年4月12日公開)は、久しぶりに登場した本格派の潜水艦モノと言えるだろう。


今回はそんな潜水艦映画の主要作を紹介しつつ、同ジャンルを際立たせている魅力を探っていきたい。

文:高森 郁哉(ライター、英日翻訳者)

潜水艦映画を特徴づける2つの時代要因

潜水艦を題材にした劇映画のドラマ面における定番要素を挙げるなら、ミッションを遂行する艦長以下乗組員たちの活躍、強敵との死闘、危機的状況を生む内紛など。アクション面では何より、潜水艦独特の兵器と機動性を活かした海中の戦闘をダイナミックに描写する迫力の映像が欠かせない。

時代に関しては、物語の内容に影響する「いつの時代設定の作品か」と、映像のルックを決める「どの年代に製作された作品か」という、2つの時代要因に注目したい。時代設定については、当時の国際情勢や潜水艦および兵器の性能が内容に大きく関わる。製作年については、撮影や特殊効果など年々進歩する技術が映像を特徴づけることになる。次のセクションでは都合上、時代設定を「第二次大戦時」と「冷戦以降」に分けて主要作を振り返ろう。

第二次世界大戦の戦闘を描いた作品たち

同ジャンル最初期の古典に挙げられるのはまず、ロバート・ミッチャム主演で第二次大戦期の海戦を描く米・西独合作『眼下の敵』(1957)。題名が示すように、この映画で描かれる潜水艦は敵側のUボート(ドイツ軍潜水艦の通称)。それでも潜水艦映画の古典的名作と評されるのは、双方を対等に描き、Uボート側の乗組員と戦いぶりも活写しているからだ。

『眼下の敵』に並ぶ古典が、クラーク・ゲーブル、バート・ランカスター共演の『深く静かに潜航せよ』(1958)。こちらは第二次大戦時に米潜水艦が日本海軍の駆逐艦と戦う姿を描く。ちなみに本作は白黒映画だが、前年公開の『眼下の敵』はカラー。これら2作は映画業界が白黒からカラーへ移行する過渡期にあったことを思い出させる。

ウォルフガング・ペーターゼン監督の出世作『U・ボート』(1981)は、Uボートの乗組員たちが連合軍側の船団や駆逐艦と戦う姿や、当時有力な対潜兵器だった爆雷の連続攻撃にさらされる恐怖などをリアルに描く。70年代に開発されたステディカムが、潜水艦映画としては初めて本格的に導入され、狭い船内を駆け抜ける乗組員を背後から追随する躍動的な映像が実現した。

マシュー・マコノヒーやハーヴェイ・カイテルが出演した『U-571』(2000)は、漂流中のUボートから救難信号を傍受した米軍が、奇抜な作戦で暗号機エニグマの奪取を試みるというストーリー。潜水艦映画としては珍しく、乗組員らが銃を携行して敵と撃ち合うアクションシーンで新味を出している。

東西冷戦以降、“主役”は原子力潜水艦に

原子炉を推進機関に用いた原子力潜水艦(原潜)は、米国で1954年、ソ連で1958年に初就役し、長期間にわたる海中航行が実現。当時から60年代にかけて急速に進歩した誘導兵器などの搭載も加わり、核ミサイルを含む強力な兵器を伴う攻撃型原潜が配備されていく。そのため、東西冷戦以降の時代設定の潜水艦映画では、“主役”は当然原潜ということになる。

トム・クランシーのベストセラー小説を映画化した『レッド・オクトーバーを追え!』(1990)は、潜水艦映画を語るうえで外せない一本だ。無音の推進システムを備えたソ連原潜レッド・オクトーバーの艦長ラミウス(ショーン・コネリー)が、士官たちと亡命を試みるというプロットが格別。さらに、CIA分析官のジャック・ライアン(アレック・ボールドウィン)がラミウスの意図と行動を読む知的興奮、迫りくる魚雷を多様な方法で回避する鮮やかな操艦シーンなど、潜水艦モノの魅力が詰まった大傑作なのだ。CGによる視覚効果が本格導入された点にも注目。90年代以降の潜水艦映画では、視覚効果の進歩に伴い海中の戦闘シーンなどがリアルさと迫力を増していく。

その後も、『クリムゾン・タイド』(1995)、『K-19』(2002)、『ファントム 開戦前夜』(2013)など、困難な状況に立ち向かう原潜乗組員たちの姿を描く力作が登場した。

潜水艦映画の魅力に潜ろう

潜水艦映画ならではの面白さとは何だろうか。まず、水深数百mもの海中を潜航する艦という閉鎖空間が舞台だということ。死と隣り合わせの緊迫した空間が、運命共同体である乗組員たちの濃密なドラマを盛り上げる要素になる。

ハンターキラー 潜航せよ
© 2018 Hunter Killer Productions, Inc.

もう一つの鍵は、海中の抵抗の大きさにより、潜水艦自体も、対潜戦の有力な武器である魚雷も、速すぎず“ほどよい”スピード感にとどまる点。そのおかげで、魚雷が発射されてから潜水艦に接近し命中したり、潜水艦が対抗措置と操艦により巧みに魚雷をかわしたりする過程を、たっぷり尺を取った見応え十分のアクションシーンとして描写できる。そんなほどよいスピード感は、まるでチェス名人のように敵の手を先読みし、また敵の攻撃に迅速に対処する艦長らの頭脳戦を描くのにピッタリだ。

〈潜水艦乗りたちの濃密なドラマ〉と〈見応えあるアクション〉の融合が、潜水艦映画最大の魅力と言えるだろう。

潜水艦映画をアップデートした『ハンターキラー 潜航せよ』

過去の主要作と比べても、『ハンターキラー 潜航せよ』は抜群のリアリティーを実現している。それができた理由の1つは、米原潜の元艦長ジョージ・ウォーレスが原作小説を共同執筆したこと。もう1つは、米国防総省と米海軍の全面協力を得られたこと。おかげで、2004年就役の最新艦であるヴァージニア級攻撃型原潜の実物を一部シーンで撮影できたほか、海軍顧問のアドバイスのおかげで艦内の様子を細部までセットで再現できた。当代の最新鋭艦を完璧に再現したのは映画史上初の快挙だ。なお、タイトルの「ハンターキラー」は、潜水艦を狩り出し(Hunter)これを攻撃・撃沈する(Killer)能力を併せ持つ攻撃型潜水艦を指す。

ハンターキラー 潜航せよ
© 2018 Hunter Killer Productions, Inc.

艦内セットは巨大なジンバルの上に載せられ、潜航時に艦が前傾する様子をジンバルごと傾けて実現。潜航開始の場面で、艦長役のジェラルド・バトラーらが直立したままバランスを取って後方に傾斜するショットは、カメラを傾けるだけの演出では生まれないリアルさがあり、前例のない作戦に臨む緊張感を効果的に表現している。

ストーリー上の魅力も数多い。米軍側がロシア原潜の艦長を信頼して力を合わせる展開は、『レッド・オクトーバーを追え!』に通じる胸アツの要素。潜水艦同士の魚雷戦に加え、駆逐艦や陸上基地からの攻撃が迫る場面もスリル満点だ。さらに、海中の原潜と陸上のネイビーシールズが連携して挑む高難度ミッションも刺激に満ち、それぞれのスリリングな作戦行動を並行して描くことで緊張感の相乗効果を生んでいる。

ハンターキラー 潜航せよ
© 2018 Hunter Killer Productions, Inc.

潜水艦アクション傑作群の魅力をしっかり継承しつつ、最新鋭艦の描写で新次元のリアリティーを実現し、さらに陸上戦と海上戦も加わり壮大なスケールで展開する『ハンターキラー 潜航せよ』。21世紀の潜水艦モノとして、同種の映画を今後作る際の参考にされるのは間違いないし、ジャンルのファンだけでなくすべてのアクション映画好きを楽しませてくれる必見の一本だ。

ハンターキラー 潜航せよ
© 2018 Hunter Killer Productions, Inc.

映画『ハンターキラー 潜航せよ』は、2019年4月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。

『ハンターキラー 潜航せよ』公式サイト:gaga.ne.jp/hunterkiller

参考書籍:『歴群[図解]マスター 潜水艦』白石光・著 学研プラス 2014年、『オールアバウト潜水艦』イカロス出版 2016年

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THE RIVER編集部
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