【解説】『ハンターキラー 潜航せよ』が切り拓く「潜水艦映画」の新時代とは ─ 歴史と魅力に深く潜る

星の数ほどある軍事アクション映画の中でも、潜水艦映画は傑作が多いサブジャンル。1980年代から2000年代初頭にかけての全盛期に比べ、最近はめっきりと新作が減ってさびしい限りだったが、米国防総省と米海軍の全面協力のもとジェラルド・バトラー主演で描く『ハンターキラー 潜航せよ』(2019年4月12日公開)は、久しぶりに登場した本格派の潜水艦モノと言えるだろう。
今回はそんな潜水艦映画の主要作を紹介しつつ、同ジャンルを際立たせている魅力を探っていきたい。
文:高森 郁哉(ライター、英日翻訳者)
潜水艦映画を特徴づける2つの時代要因
潜水艦を題材にした劇映画のドラマ面における定番要素を挙げるなら、ミッションを遂行する艦長以下乗組員たちの活躍、強敵との死闘、危機的状況を生む内紛など。アクション面では何より、潜水艦独特の兵器と機動性を活かした海中の戦闘をダイナミックに描写する迫力の映像が欠かせない。
時代に関しては、物語の内容に影響する「いつの時代設定の作品か」と、映像のルックを決める「どの年代に製作された作品か」という、2つの時代要因に注目したい。時代設定については、当時の国際情勢や潜水艦および兵器の性能が内容に大きく関わる。製作年については、撮影や特殊効果など年々進歩する技術が映像を特徴づけることになる。次のセクションでは都合上、時代設定を「第二次大戦時」と「冷戦以降」に分けて主要作を振り返ろう。
第二次世界大戦の戦闘を描いた作品たち
同ジャンル最初期の古典に挙げられるのはまず、ロバート・ミッチャム主演で第二次大戦期の海戦を描く米・西独合作『眼下の敵』(1957)。題名が示すように、この映画で描かれる潜水艦は敵側のUボート(ドイツ軍潜水艦の通称)。それでも潜水艦映画の古典的名作と評されるのは、双方を対等に描き、Uボート側の乗組員と戦いぶりも活写しているからだ。
『眼下の敵』に並ぶ古典が、クラーク・ゲーブル、バート・ランカスター共演の『深く静かに潜航せよ』(1958)。こちらは第二次大戦時に米潜水艦が日本海軍の駆逐艦と戦う姿を描く。ちなみに本作は白黒映画だが、前年公開の『眼下の敵』はカラー。これら2作は映画業界が白黒からカラーへ移行する過渡期にあったことを思い出させる。
ウォルフガング・ペーターゼン監督の出世作『U・ボート』(1981)は、Uボートの乗組員たちが連合軍側の船団や駆逐艦と戦う姿や、当時有力な対潜兵器だった爆雷の連続攻撃にさらされる恐怖などをリアルに描く。70年代に開発されたステディカムが、潜水艦映画としては初めて本格的に導入され、狭い船内を駆け抜ける乗組員を背後から追随する躍動的な映像が実現した。
マシュー・マコノヒーやハーヴェイ・カイテルが出演した『U-571』(2000)は、漂流中のUボートから救難信号を傍受した米軍が、奇抜な作戦で暗号機エニグマの奪取を試みるというストーリー。潜水艦映画としては珍しく、乗組員らが銃を携行して敵と撃ち合うアクションシーンで新味を出している。
東西冷戦以降、“主役”は原子力潜水艦に
原子炉を推進機関に用いた原子力潜水艦(原潜)は、米国で1954年、ソ連で1958年に初就役し、長期間にわたる海中航行が実現。当時から60年代にかけて急速に進歩した誘導兵器などの搭載も加わり、核ミサイルを含む強力な兵器を伴う攻撃型原潜が配備されていく。そのため、東西冷戦以降の時代設定の潜水艦映画では、“主役”は当然原潜ということになる。
トム・クランシーのベストセラー小説を映画化した『レッド・オクトーバーを追え!』(1990)は、潜水艦映画を語るうえで外せない一本だ。無音の推進システムを備えたソ連原潜レッド・オクトーバーの艦長ラミウス(ショーン・コネリー)が、士官たちと亡命を試みるというプロットが格別。さらに、CIA分析官のジャック・ライアン(アレック・ボールドウィン)がラミウスの意図と行動を読む知的興奮、迫りくる魚雷を多様な方法で回避する鮮やかな操艦シーンなど、潜水艦モノの魅力が詰まった大傑作なのだ。CGによる視覚効果が本格導入された点にも注目。90年代以降の潜水艦映画では、視覚効果の進歩に伴い海中の戦闘シーンなどがリアルさと迫力を増していく。
その後も、『クリムゾン・タイド』(1995)、『K-19』(2002)、『ファントム 開戦前夜』(2013)など、困難な状況に立ち向かう原潜乗組員たちの姿を描く力作が登場した。
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