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『イット・カムズ・アット・ナイト』トレイ・エドワード・シュルツ監督インタビュー ― 極限スリラーに「自分のテーマをすべて注ぎ込んだ」

イット・カムズ・アット・ナイト
© 2017 A24 Distribution, LLC

「92分、あなたは〈精神を保てるか〉」

現在最も注目される北米の映画会社A24による、挑発的なコピーが印象的な極限の心理スリラー映画イット・カムズ・アット・ナイトが2018年11月23日(金)より全国の映画館で順次公開される。

本作は死に至る謎の病が蔓延する世界で、感染から逃れるべく森の奥で生活する一家と、そこに助けを求めて転がり込んできた家族を描く物語だ。彼らは本当に感染していないのか。外部から襲いかかってくる謎の存在の正体とは。ふたつの家族が共同生活を送る家では、やがて不信感と狂気が渦巻きはじめる……。

濃密な恐怖と緊張感をスクリーンに映し出したのは、1988年生まれの新鋭トレイ・エドワード・シュルツ。このたびTHE RIVERではシュルツ監督への電話インタビューを敢行。作品のテーマや発想の裏側、撮影秘話までたっぷりとお聞きした。

イット・カムズ・アット・ナイト
© 2017 A24 Distribution, LLC

絶望の世界の家族劇

『イット・カムズ・アット・ナイト』を単純なスリラー/ホラー映画だと思ってはならない。登場人物はジョエル・エドガートン演じる主人公ポールと妻のサラ、息子のトラヴィスからなる森の中で暮らしている一家と、そこに助けを求めてくる男ウィルと妻のキム、まだ幼い息子アンドリュー、ほとんどこの6人だけだ。

感染すればどうやら死に至るらしい謎の伝染病が蔓延している、絶望的な状況下でふたつの家族は共同生活を始める。これは閉鎖空間を舞台に、最低限の登場人物と要素だけで物語が紡ぎ出される、とてつもなく濃密な“家族劇”なのだ。

シュルツ監督は本作の脚本を執筆するにあたって、「当時の自分が抱えていたテーマをすべて注ぎ込んだ」と語っている。

「人はサバイバル状態に陥った時、どのように他者と関わりあうのか、他者に対して何をしうるのか。(脚本執筆時は)父を亡くした直後でその悲しみに暮れていたり、それから僕自身、実家暮らしの期間が長すぎて精神的に参っていたりしたんですが、この映画ではそれも功を奏したと思います。」

イット・カムズ・アット・ナイト
© 2017 A24 Distribution,LLC

監督は「この作品はとても個人的な映画です」と語っている。自身のテーマを物語に落とし込むなかで、自らの家族にある人間関係や力学をも作品に取り入れながら「自分自身の恐怖を描いた」というのだ。しかし一方で、シュルツ監督は「僕が人間について考えた時に惹かれるテーマを反映しました」とも述べている。

この映画では、ふたつの家族を部族に見立てています。部族と部族が衝突した時に彼らは共存できるのか、それが無理な時はなぜ無理なのか、それはなにを意味しているのか。そういうことを常に考えているんですよ。

衝突が起きた時、人はどこで線を引くのか。人が自分の行為を正当化するにはそれだけの理由があるわけですが、理由はあっても人間性を失ってしまう恐ろしさはありますよね。それは人類が始まってから我々が繰り返していることですけど。」

ちなみにシュルツ監督は、「以前から黒死病やペストといった疫病には関心がありましたし、大量殺戮についての本もいろいろ読んでいたんです」と明かしている。自身の個人的なテーマと、社会や歴史に対する視線が、本作ではきちんと融合しているのだ。

ふたつの家族を演じる俳優たち

『イット・カムズ・アット・ナイト』には、『スター・ウォーズ』プリクエル3部作のオーウェン・ラーズ役や、主演・監督を兼任した『ザ・ギフト』(2015)が高く評価されたジョエル・エドガートンをはじめ、実力に申し分のない俳優陣とハリウッドの未来を牽引する新星が揃った。

主人公ポールの妻サラ役には、『ブルーに生まれついて』(2015)や『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016)のカルメン・イジョゴ。もうひとつの家族の夫ウィル役には『ラ・ラ・ランド』(2016)デイミアン・チャゼル監督の最新作『ファースト・マン』(2019年2月8日公開)のクリストファー・アボット。その妻キムには『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018)のヒロイン役が鮮烈だったライリー・キーオが扮している。

主に密室を舞台とする極限の家族劇には、それぞれの演技だけで物語を魅せきるほどの緻密なアンサンブルが求められる。本作はその高いハードルを見事にクリアしているが、リハーサルの様子について聞いてみると、監督は意外にも「僕は従来型のリハーサルが好きじゃないので、みんなで脚本を読んだりはしないんですよね」と言い切った。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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