【映画に登場するマニアックな格闘技:番外編】『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』サノスが披露した格闘技の正体を探れ
注意

この記事には、映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』冒頭シーンのネタバレが含まれています。すでに作品を鑑賞された方向けの内容となりますのでご注意下さい。

アベンジャーズ インフィニティ・ウォー

© 2018 MARVEL

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』最初の衝撃


映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』はマーベルヒーローを愛する全ての観客に、数多くの絶望をもたらす展開となりました。もたらされた絶望、その殆どが、今作のメインヴィラン、サノス氏によるものでしたが、観客に襲い来る最初の「もうだめだ!」展開は映画始まってものの数分、ヒーロー側の最高戦力、最強のアベンジャー」として知られる我らがインクレディブル・ハルクが、あろうことかサノスとの一対一の殴り合いバトルで、完膚なきまでに叩きのめされ敗北した場面です。

バトルの趨勢はというと、「We have Hulk」というロキの合図と同時にサノスの不意を突き、いつも通りの強大なパワーにまかせた闇雲な攻撃をしかけるハルクに対し、サノスは「洗練された」としか言いようがない動きで、ハルクの攻撃をことごとく封じこめ、的確な打撃を叩き込み、怯んだと見るや大技で勝負を決めるという、鮮やかとしかいいようがない完璧な勝ち方。その「洗練された」動きは明らかにサノス自身が身につけた「格闘技」の存在を匂わせるものでした。

本稿では僭越ながらご好評を頂いている「映画に登場するマニアックな格闘技 番外編」といたしまして、このサノスが身につけていると思しき格闘技を素人ができる範囲で分析、解明致します。なお予めお断りしておきますが、本稿の結論は、タイトルの「マニアックな格闘技」とはだいぶ離れたところに帰着致します。タイトルとの整合性は「着眼点がマニアックだった」というところでお茶を濁す所存です。ネタ記事ですので目くじらをお立てにならぬよう、ティ・チャラ国王のような広い心でお読み頂きますようお願い申し上げます。

ハルクはなぜ負けたのか

戦闘開始直後、ハルクの猛進に押されて壁を背にするサノス。通常ならばまさに絶体絶命の場面です。しかし、不敵な笑みを浮かべながら首にがっちり決まったハルクの両手クラッチ(掴み)を切ってみせるサノス。格闘技経験者ならずとも、あの芸当を実際行うには相手との大きな力の差が必要だと察することができます。装甲車をも紙のように引き裂くハルクのパワー(2008年『インクレディブル・ハルク』参照)をさらに上回る凄まじい腕力です。

ハルクが負けたのはパワーに劣っていたから? ちょっと待ってください。確かに大きなパワーの差は勝敗の決定的な要因たりえますが、今回の場合、私見ではそのパワーの差よりも大きかったのが「技術」の差でした。ハルクとサノスのマッチアップ、サノスが反撃を開始してからフィニッシュまでの20秒足らずで計11発(数えました)の打撃をクリーンヒットさせたのに対し、ハルクのヒットはゼロ。この違いはどこから生まれたのでしょう。

 

何処で習った?最先端のボクシング

対ハルク戦のサノスの攻撃をつぶさに振り返ってみますと、サノスが放った打撃11発(素人判断です)のうちまず注目すべきは2撃目と4撃目、そして7撃目です。このことだけを確認しに再度劇場へ足を運ぶ方はよもやいないと思いますが、再鑑賞の際は是非刮目してご覧頂きたい。この3発は全て近距離で、ハルクのパンチからカウンターを取る形で放たれています。

驚くべきことに、この3発のカウンターそれぞれの直前に、ハルクの攻撃をいなす手段として高度なボクシングの技術が使われています。2撃目と7撃目で使われたテクニックは「パリング(手で相手のパンチの軌道を変える技)」、4撃目は「クイックシフト(相手の打撃に合わせて体位置をいれ変える技)」といいます。

特に2撃目で披露した、相手のストレートをパリングで無効化し、相手の拳が戻るより前にそのままブロックに使った方の手でパンチを放つカウンターは、相手からすれば自分の腕や肩の影からパンチが飛んでくる「死角」からの攻撃になるので、非常に効果的です。この技術、2010年代後半、現実の地球におけるプロボクシングシーンのトレンドとなっている非常に高度なカウンターの取り方なんですが、サノスは一体どこで身に付けたのでしょう。独学だとしたらつくづく恐ろしい男です。また、4撃目のクイックシフトから無防備なハルクの背中へのパンチは、よく見ると正確にハルクの左腎臓をとらえています。背から腎臓を殴る攻撃はキドニーブローという急所攻撃で、ボクシングルールでは「命に係わる」として有名な反則です。

11撃目のニー、そしてそれに続くフィニッシュ技に目を奪われがちですが、事ほど左様に、サノスがハルク戦でみせたファイトスタイルは、明らかに「ボクシング」のもの。それもトレンドを取り入れた、最先端の「地球のボクシングスタイル」です。前述したカウンターからの連打、上下に打ち分ける重量級離れした高速コンビネーションは、現WBA・IBF・WBO世界ヘビー級スーパー王者のアンソニー・ジョシュアをも彷彿とさせます。ただの喧嘩自慢とボクシング最強王者が対戦したとしたら……ハルク対サノス戦はそういった趣の戦いでした。

 

最後の必殺技について

11発目の顔面へのニーアタックでグロッキーになったハルクの懐に入り込み、胸と腹に両手を添えてそのまま持ち上げ、雄叫びと共に背中から地面へ叩きつけたサノスのフィニッシュムーブ。こちらは「リフトアップスラム」というプロレスの大技です。筆者世代(アラフォー)にとっては、ロードウォーリアーズのホーク・ウォーリアや殺人医師スティーヴ・ウィリアムスの得意技としてお馴染みの技なんですが、ご覧いただいてお判りの通り、3~4メートルほどの高さから落とされているだけなので、戦車の砲弾をものとものしない耐久力を持つハルクにとっては、この技の衝撃自体はたいしたダメージではなかったと想像します。やはりこの技までの打撃による累積ダメージ、そして全ての攻撃が通じないという精神的ダメージが、彼を立ち上がれなくさせてしまったのでしょう。

誰かに似ているファイトスタイル

メインではパンチ主体の「ボクシング」で戦い、相手の隙をみて大技を繰り出す、サノスの非常にカッコよく洗練されたファイティングスタイル。落ち着いてよく見てみると、誰かの戦い方によく似ていると思いませんか?
そう、誰あろう同じマーベル・シネマティック・ユニバース、スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカのファイトスタイルとよく似ているのです。それが良くわかるのが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)序盤のクロスボーンズとのバトルや、終盤のトニー・スターク/アイアンマンとのバトル。アイアンマンのOSであるF.R.I.D.A.Y.がトニーに「殴り合いでは勝てません」と評したように、キャップもまた付け入る隙のほとんどないボクシングテクニックを身につけています。

サノスとキャップ、物語上はありえない二人のファイトスタイルの類似は、『シビル・ウォー』と『インフィニティ・ウォー』、多士済々の製作スタッフの中でも共通する「ファイトコーディネーター」によってもたらされたものです。ファイトコーディネーターとは、アクション映画の戦闘シーンにおける「振付師」のような役割。『シビル・ウォー』および『インフィニティ・ウォー』でこの役割にクレジットされているのが、サム・ハーグレイヴという方です。

「あれ、その名前聞いたことある?」と思った方はかなりのアクション映画通。『アトミック・ブロンド』(2017)や『デッドプール2』(2018)を手がけたデヴィッド・リーチ、そして『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキという、アクション映画界においていまやその名を抜きに語れない二人が率いるアクションデザインチーム「87 eleven action Design」、サム・ハーグレイヴはその中核メンバーなんですね。MCUだけでなく『ザ・コンサルタント』(2016)や『ハンガー・ゲーム』シリーズでもスタントコーディネーターとしてクレジットに名を連ねていますし、前述した『アトミック・ブロンド』には俳優として出演もしています。映画冒頭で殺されてしまう主人公ロレーンの恋人エージェントであるジェームズ・ガスコイン役を演じていました。

自分好みの映画に巡り合った際に、注目されるのはまず監督、そしてキャストや脚本家といったところ。しかしアクション映画好きなら、セカンドユニットの監督やファイトコーディネーターの名前で映画を選んでみるのもお勧めの鑑賞法です。

映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は2018年4月27日より全国の映画館にて公開中

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』公式サイト:http://cpn.disney.co.jp/avengers-iw/

About the author

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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