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渡辺謙に真田広之、日本人俳優がハリウッドで成功するための秘訣を考える

『名探偵ピカチュウ』ジャパンプレミア
©THE RIVER

筆者はすでに5回劇場に通っている『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)だが、やはり日本の観客は真田広之の登場シーンで盛り上がる。応援上映ではないので歓声こそ上がらないものの、「えっ」という驚嘆の声はちらほら聞こえてくる。そして、短い出番ながらしっかりとインパクトを刻んで退場していく真田の演技は流石の一言である。

多くのシネコンで『アベンジャーズ/エンドゲーム』と併映されている『名探偵ピカチュウ』(2019)には、渡辺謙が出演している。また『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でも、渡辺の勇姿を拝むことができる。現在、ハリウッド進出に成功した日本人俳優のツートップは、真田広之と渡辺謙で確定だろう。そのほか、菊地凛子浅野忠信加瀬亮あたりもアメリカの話題作にコンスタントな出演を続けている日本人俳優だ。ただしハリウッドにおける総合的な認知度でいうと、香港や中国、韓国系俳優のほうが日本人を上回っている。日本人俳優がハリウッドを目指すために大切な要素は何なのだろう?そもそも、日本人がハリウッドを目指す意味はあるのだろうか?


アベンジャーズ/エンドゲーム 真田広之
FayesVision/WENN.com 写真:ゼータ イメージ

ハリウッドで認められた日本人俳優たち

ハリウッドで日本人俳優が認識されたのは、かなり昔に遡ることを覚えておきたい。1886年生まれの早川雪洲は、俳優のキャリアをアメリカでスタートさせ、スターダムにのし上がった。青春時代をサイレント映画のスターとして送った早川は、1930年代になってから日本に凱旋する。以後、欧米や日本をまたにかけて俳優活動を続け、『戦場にかける橋』(1957)ではアカデミー助演男優賞にノミネートされた。早川はハリウッドでもっとも成功したアジア系俳優の1人である。

早川雪洲
Public Domain https://en.wikipedia.org/wiki/File:Sessue_Hayakawa_1918.jpg

また、ナンシー梅木は『サヨナラ』(1957)でアカデミー助演女優賞を獲得した。そのほか、海外志向が決して強かったわけではないものの、欧米の映画人から尊敬を集めて出演をオファーされた日本人俳優も多い。黒澤明作品の看板役者である三船敏郎、小津安二郎作品の常連だった笠智衆、任峡映画のスターだった高倉健、肉体派俳優の千葉真一などだ。

1980~1990年代の日本はハリウッドにとっての「お得意様」だったため、集客効果を狙って人気タレントがキャスティングされることもあった。『メジャーリーグ2』(1994)の石橋貴明は典型例だろう。松田聖子も『アルマゲドン』(1997)にワンシーンだけ出演している。しかし、2000年代以降、ハリウッドで活躍する日本人俳優の数は減っていく。しっかりとアメリカで名前を覚えられているのは、渡辺、真田らの『ラストサムライ』(2003)組、『バベル』(2006)でアカデミー賞候補になった経歴を持つ菊地凛子くらいだろう。

邦高洋低の時代が海外進出を消極的に

理由のひとつが、国内市場の盛り上がりだ。90年代後半から拡大していったシネコン文化は、興行収入のあり方を大きく変えた。イオンシネマズ株式会社の設立が1994年、TOHOシネマズ株式会社の前身であるヴァージンシネマズ・ジャパン株式会社の設立が1997年である。そして、『千と千尋の神隠し』(2001)が初めて興行収入200億円の大台を超えたのが2001年(最終興行収入は308億円)。つまり、シネコンの浸透によって、日本映画産業の巨大化に拍車がかかった。芸能事務所からすれば、国内市場を捨ててまで所属俳優を海外進出させるメリットを失ったといえる。

さらに、2000年代以降はテレビ局が本格的に映画製作へと乗り出してきたため、映画の宣伝を自社の番組で行える状況ができた。その結果、俗にいう「邦高洋低」の状況ができ上がっていく。テレビで宣伝をしやすい日本映画がヒットし、外国映画に観客が入りにくい傾向が顕著になった。こうなれば、ますます芸能事務所が俳優を海外に渡らせる理由はなくなる。

そうしている間にも、ジャッキー・チェンやドニー・イェンといった香港のアクションスターたちは次々にハリウッド進出を果たしていった。国内の映画市場がそれほど大きくない韓国や台湾の俳優たちも、ハリウッドを目指すようになる。かくして、ハリウッドにおける「アジア枠」は日本人以外の俳優で埋められてしまったのだ。

それでも、オーディションによってハリウッドで役をつかみとった菊地凛子や裕木奈江のような例外もいる。彼女たちは俳優としてのステップアップを求め、あえて厳しい環境へと飛び込んでいった。才能と勇気がある俳優にとって、ハリウッドはいまだチャレンジする価値のある映画の都である。では、日本人俳優がハリウッドで役をつかむためには何をすればいいのだろう?

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第1に「演技力」であろう。当然の条件のようだが、日本では演技力を高める場所が極端に少ない。芸能事務所は俳優をマネジメントする場だし、劇団は俳優が演技を実践する場だ。重要なのは、俳優が事務所や劇団へと所属する前に、基礎的な演技力を磨けるようなシステムだろう。欧米や韓国の有名俳優の経歴を確かめてみると、ほとんどが学生時代に演技の専門的な勉強をしていることがわかる。海外進出をするとは、青春時代を演技に捧げてきた化け物たちとオーディションを戦うということだ。ある映画プロデューサーがオフレコで筆者に話してくれたエピソードだが、日本の某有名俳優でさえ、外国人監督の現場で満足な演技ができず降板させられたともいう。逆をいえば、演技力さえ秀でていれば無名俳優でもハリウッドで飛躍できる可能性はあるのだ。

第2に「創造性」である。塚本晋也はマーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス-』(2016)の現場で積極的に意見を出して映画を良くしようと努めていた。塚本演じるモキチが殉教するシーンで賛美歌を歌うのは本人のアイデアである。一方、日本国内では俳優に求められている仕事が少ないように思われる。役作りに関する俳優の真っ当なインタビューが時に批判を受けるのも、そもそも俳優の役割が世間に正しく伝わっていない証拠だろう。レベルの高い現場では、俳優も作品に対して能動的な姿勢が要求される。自分が目立ちたいからではなく、作品を良くするためにどれだけ準備を整えられるか。『ラストサムライ』の現場で渡辺や真田が時代劇の殺陣を指導したように、作り手目線のある俳優こそ世界基準といえるのだろう。

そして、第3が「セルフプロデュース力」だ。クリエイティブ業界の面白い点として、監督やプロデューサーが「一緒に仕事をしたい」と思ってくれれば、ポジションは用意してもらえる。三船敏郎は海外スタッフが「出演してほしい」と心から願ったからこそ、役があて書きされていた。そして、自分を売り込むためにはやはり、最低限の語学力は必要だろう。

海外進出が俳優のすべてではないし、日本で成功している映画人も尊敬に値する。ただし、世界最大規模の映画作品に日本人が出演していると、思わずテンションが上がってしまうというもの。そして、日本人俳優が海外映画にもっと出演するようになれば、極端な邦高洋低の映画市場のバランスも改善されるのではないかと期待してしまう。

日本凱旋もうれしいものです

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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