ジョン・ウー監督、スーパーヒーロー映画は「好きじゃない」「最近は本物のシネマが少ない」

『男たちの挽歌』シリーズや『フェイス/オフ』(1997)などで知られる香港の映画監督、ジョン・ウーはハリウッド映画に大きな影響をもたらした。その鮮烈で美しいアクション演出は、クエンティン・タランティーノの映画や『マトリックス』『ジョン・ウィック』シリーズ、そしてスーパーヒーロー映画の数々に継承されている。
もっとも、ウー自身はスーパーヒーロー映画を好んではいないようだ。米The New Yorkerの取材にて、「特殊効果の強い映画や、コミック原作の映画を観るのはまるで好きじゃない」と語り、巨匠マーティン・スコセッシの名前を挙げてこう述べている。
「私はマーティン・スコセッシの映画が好きです。彼の映画は、シネマ(cinema)と言えますよね。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を観るのが楽しみですよ。私は昔ながらの映画、本物のシネマが好みなのですが、そういう映画は最近あまりないですね。」
近年気に入ったアクション映画として挙げたのは、デヴィッド・マッケンジー監督『最後の追跡』(2016)だった。いわく、「ある種の悲劇のように感じました。演技がいい、アクションがいい、撮影も素晴らしい」。撮影監督のジャイルズ・ナットジェンズを、自身の最新作『サイレント・ナイト(原題)』に起用しようとしたものの、スケジュールが合わずに実現しなかったという。
ウーが敬愛するスコセッシは、現在のハリウッドでスーパーヒーロー映画への懸念を表明している代表的な映画監督のひとり。2019年には「マーベル映画はシネマではない、最も近いのはテーマパーク」だと述べ、最近も映画文化に与える危険性を指摘していた。スコセッシやウーの世代には、確実に共有されている“シネマ”の価値観がある。
若かりし頃に独学で映画を学んだウーは、ジャン=ピエール・メルヴィルやマーティン・スコセッシの犯罪映画、ジョン・フォードやサム・ペキンパーの西部劇映画、ジャック・ドゥミやボブ・フォッシーのミュージカル映画など、あらゆるジャンルや監督の作品から自身のスタイルを確立。決して当初からジャンル映画に傾倒していたわけではなく、当初の夢はアラン・ドロン主演『サムライ』(1967)のような映画を撮ることだった。
『男たちの挽歌』(1986)を成功させたあと、ウーは『狼 男たちの挽歌・最終章』(1989)で『サムライ』に、また『ワイルド・ブリット』(1990)でスコセッシに、『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1992)でクリント・イーストウッドにオマージュを捧げたと話す。映画史に残るアクションの陰には、じっくりと学び取った映画史が、“シネマ”の蓄積があったのだ。
最新作『サイレント・ナイト』は、ウーにとって20年ぶりのハリウッド映画。息子を殺された男が、クリスマス・イブに復讐のため動き出す物語だ。「脚本をもらって興奮しました。全編台詞がないんです。映像でストーリーを語る能力を発揮できる、自分にぴったりの作品」と語る。「私はいつも良い物語を探していて、それがたまたまハリウッド作品だっただけ。ハリウッドを去ったとは思っていないので、戻ってきた感覚もありません」。
奇しくも現在のハリウッドは、『ジョン・ウィック』シリーズがヒットするなど、ウーの創造したアクションや振付を再発見する時期を迎えている。しかしウー自身は、「私が撮りたいのはミュージカルや西部劇のように今では人気のない映画。資金調達が難しいのは変わりません」と言い、「次回作は西部劇かもしれませんね」と笑った。
Source: The New Yorker