【インタビュー】『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』は「世界中で起きている出来事」─ 監督&主演が想いを語る

世界中が最も注目する映画スタジオ・A24と、ブラッド・ピット率いる製作会社プランBが『ムーンライト』(2016)以来の共作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が2020年10月9日(金)より全国公開された。
アメリカ・サンフランシスコで生まれ育ったジミーは祖父が建てた、家族と暮らした記憶の宿る美しい家を愛して止まない。しかし家主は、変わりゆく街の観光名所となっていた家を手放してしまう。再び住む事を願って奔走するジミーを支えるのは、親友のモント。都市開発により取り残されてしまった人々が交差していく……。
この度、THE RIVERは主演・原案のジミー・フェイルズ、監督のジョー・タルボットに単独インタビューを実施。住宅地の高級化、題名の意味、小津安二郎監督からの影響などについて尋ねてみた。

実体験に基づく物語・登場人物

──本作は実体験から着想を得た作品と伺いましたが、どこまでが実際に体験した出来事なのでしょうか?
ジミー・フェイルズ:僕の人生で実際に起きた数多くの出来事が基になっています。実の母親も出演していますし、登場人物の多くが僕の知人を基にしていますよ。したがって、物語ではありますが、実際の出来事から着想を得たものもあれば、作り話も含まれています。
──本作に登場するジミーとモントには、友人同士である、お二人の関係性が反映されているのでしょうか?
ジミー:確実にそうとは言い切れませんが、確かに複数の共通点があったことは確かでしょう。とはいえ、決して意図した訳ではありません。そうだとしたら、代わりにジョー(・タルボット監督)が出演していたと思います。彼自身も演じてみたいと考えていたので。
ただ、僕たちはモントを家と同じように、僕(ジミー)を街に繋ぎ止める存在として描きたかったのです。僕は彼の事が大好きですし、大切な存在なので。そういう部分は共通点と言えるかもしれませんね。
──題名に込められた想いについては如何でしょうか?
ジミー:僕が一年間も街を離れて、ニューヨークに行ったことで感じるようになった部分が反映されています。一年間大学に通い中退しました。それから街に戻って来た時、全てが変わり果てたかのような感覚に陥りました。
街からは自分自身の面影が薄れかけていたり、黒人コミュニティも街から消えかけていたり、もしくは住む場所を制御されてしまったり。とにかく僕が慣れ親しんでいた街とは異なっていました。つまり、その時に感じた想いが込められている訳です。
世界中で起こる住宅地の高級化

──本作の主題でもある、住宅地の高級化によって、街から人がいなくなり、都市から歴史性が失われるという問題はサンフランシスコだけでなく、世界各国で起きています。例えば東京にしても、オリンピックの為に街の風景が変わり、ホームレスを含め、居場所を失った人たちが沢山います。世界に届く普遍性は作りながら意識していましたか?
ジョー・タルボット監督:最初は僕達の生まれ育った街について描く事に尽力していました。街に縁のある友人達と共に取り掛かり始めたのですが、早い段階で企画を公にする必要があると考えたのです。今までより大きな規模にする必要があり、支援が必要だったので。そこで、コンセプトに基づく5分間の短編映画を製作しました。公開したら多くの反応があり、支援の申し出が来るようになったのです。僕達が描こうとしている事に興味を持たれるとは想像もしていなかったので、本当に感動しました。
最初は地元の人達からの反応が多かったのですが、そこから作品は東海岸から欧州、日本など世界中に広がりました。感想を下さった方々の誰もが、愛し慣れ親しむ街の高級化、利益の為に売り飛ばされてしまう悲惨な状況を訴えていたのです。まだ撮影も始まる前、ただ頭の中で想像していた段階で、映画にもなっていなかった頃でしたが、初めて「残念ながら、これは世界中で起きている出来事だ」と考えさせられました。