【インタビュー】『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』は「世界中で起きている出来事」─ 監督&主演が想いを語る

──このような状況を止める方法や、全員が納得するような解決策はあると思いますか?
タルボット監督:不動産開発業者が船に乗って二度と帰って来なければ解決するでしょう。テクノロジー業界の裕福な億万長者達も一緒に船に乗れば、僕達の勝利ですが、実際は起こり得ないと思います。彼らが小舟に乗る訳ないですからね(笑)。
──現在世界で起きている様々な社会情勢を鑑みての質問ですが、フィクションには現実に勝てるだけの可能性があると信じられていますか?
タルボット監督:素敵な考え方ですね。僕自身も希望はあると思います。ただし、現実に勝てるのかは正直分かりません。心から愛する映画に出会ったとしても、最終的には必ず劇場から出ていかなければなりません。そうすると、再び変わらない現実と向き合わなければなりませんよね。その現実を映画は変える事が出来ないのです。
しかし、素晴らしい映画と出会い劇場を後にした時、今までには無かった価値観が生まれて、新しい景色が目の前に広がることもあるでしょう。現状を変える解決策が見えて来る可能性もあるかもしれません。必ずしも映画から人生の回答が得られるとは思いませんが、それでも人生における大切なきっかけには成り得ると思います。
衣装・音楽・最新技術について

──主人公は全編を通して概ね同じ服装ですが、何か意図があったのでしょうか?
タルボット監督:衣装については入念に話し合いました。僕はそういう要素(衣裳など)で遊んで、現実から掛け離れたところに進んでいくような作品が好きです。そこで、『波止場』(1954)のマーロン・ブランド演じる港湾労働者の象徴的な衣装を参考にしました。僕達の映画に登場するジミーも、(西部劇の)カウボーイが服を着替えないのと同じで、最終的に赤色のシャツとニット帽、ズボンなどを組み合わせることになったのです。これがサンフランシスコの英雄的な服装だと感じた訳ですね。
──音楽には何を表現して貰いたいと考えたのでしょうか?
ジミー:本作での音楽は、様々な時代の核心を捉える必要があったのです。サンフランシスコに関係した昔の音楽が数多く挿入されています。ジェファーソン・エアプレイン、ジョニ・ミッチェルなど。あの時代は短い期間でしたが、サンフランシスコを形作った曲が数多く発表されていました。したがって、これらの音楽は必要不可欠だった訳です。
──パソコンやスマートフォンなど、最新のテクノロジーが直接的にほとんど登場しません。その理由は何故でしょうか?
ジミー:僕達は、最新技術に固執した世界には入り込み過ぎないようにしています。当然、僕達が携帯を持っていなかったり、使わなかったりという訳ではありません。実際に今、ZOOMで会話もしていますからね。(編注:この度のインタビューはZOOMにて実施)
ただ、僕達は現実世界で生きようとしているのです。例えば、外に出て散歩する中で刺激を受ける事はありますよね。その時は携帯で電話している訳ではなく、街を肌で感じながら、互いに会話を聞き合っています。互いに刺激し合うには、その瞬間を大事にしなければなりません。
小津安二郎を彷彿とさせる撮影

──小津安二郎監督の作品を彷彿とさせるような撮影に意表を突かれました。
タルボット監督:小津安二郎監督からは間違いなく影響を受けています。特にジミーと母親がバスに乗っている場面ですね。リバースショット(※向かい合って会話している人物を交互に撮影する手法)、センターフレーミング(※登場人物を画面の中央で捉える手法)などは小津安二郎から着想を得ました。撮影監督であるアダム(・ニューポート)と全体の画作りについて議論した時は、一つの作品に限る訳ではなく、場面毎に異なる作品を引き合いに出して議論しましたね。
──他に参考にした作品についても教えてください。
家の場面での撮影や照明については、アキ・カウリスマキ監督『白い花びら』(1999)を参考にしました。当然、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)についても話し合いましたよ。あの映画はブルックリンに行ったことが無かったとしても、その場に実際に行ったことがあるような感覚になります。また、世界観が鮮明で登場人物は壮大だったので参考にしましたね。