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【考察】エドガー・ライト監督作に欠かせないパブ、『ラストナイト・イン・ソーホー』ではどう機能したか

ラストナイト・イン・ソーホー
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

映画『ラストナイト・イン・ソーホー』では、エドガー・ライト監督作品8年ぶりに、舞台がイギリスに帰ってきた。これは、サイモン・ペッグ&ニック・フロストW主演の“スリー・フレーバー・コルネット3部作”『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(2007年)『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013年)で重要な役割を担ってきた、ある存在の帰還を意味してもいる。パブだ!

ライト監督は上述3作に続き、『ラストナイト・イン・ソーホー』でもパブを“事件現場”の1つに選んだ。ただし、『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではゾンビ、『ホット・ファズ』では結果的にカルト集団と分かる奇妙な地元民、『ワールズ・エンド』では人体を乗っ取る宇宙人が結集したパブとは違い、本作のパブが果たす役割は大きく異なる。

トーマシン・マッケンジー演じる、ファッションデザイナーを志して田舎からロンドンへと上京したエロイーズは、生計を立てるためにパブでバイトを始める。しかし、このパブの常連客である謎の老人との出会いをきっかけに、エロイーズには狂いが生じていく。物語の後半、地元民の“溜まり場”であったパブはある出来事の現場へと化すのだが、そこでエロイーズの前に現れるのは物理的な“敵”ではない。パブという場所自体が、若い女性が抱く“街への恐怖”として機能しているのである

ラストナイト・イン・ソーホー
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イギリスが舞台の作品ではパブが欠かせないらしいライト監督だが、英NMEとの取材では「僕自身、パブに行くことは18歳くらいから徐々に無くなっていきました」と語る。「映画の舞台として繰り返し出てくるので、この20年間、パブで時間を過ごすのは、私生活でよりも映画のセットでの時が多いです」。多くのイギリス人にとって憩いの場であるパブは、ライト監督にとっては職場のような存在なのだろう。パブに行きつけだから頻繁に舞台として登場する、と考えていた方もいるはずだが、そうではなかったというから興味深い。

実は、『ラストナイト・イン・ソーホー』におけるパブは、ライト監督ではなく脚本家のクリスティ・ウィルソン=ケアンズに関係していた。劇中でエロイーズが働いていたのは、「The Toucan」という名のパブ。このパブはロンドンに実在しているものだが、それだけでなくクリスティのかつての職場だったというのだ。クリスティは、エロイーズとの共通点を挙げながら、働いていた学生時代を思い起こす。

「私はThe Toucanで5年間働いていました。あそこは私が働いていたパブだったんです。当時、学生ローンを抱えていて、お酒を買う余裕がありませんでした。だから、こう思ったんです。“お酒が出る場所に行っちゃおう”って。バーテンダーとしての私は上出来でしたよ。赤毛のバーテンダーって今もレビューサイトに幾つか残っているんですから。すごく嬉しいです。お店が空いている時は、ラップトップを持ち込んで、執筆していました。

ラストナイト・イン・ソーホー
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本作の原案を構想したのはライト監督だが、脚本にはクリスティの経験も反映された。米Indiewireでクリスティは「キャラクターについては、共感してもらえるようにたくさん話しあいました。それからお互いの経験をキャラクターに吹き込んでいったのです」と、脚本執筆当時にライト監督と交わしたやり取りを語っている。「私たちは2人ともロンドンへ越してきた負け犬でしたから、それを映画に取り入れたんです」。

したがって、主人公エロイーズの恐怖体験は、若くしてスコットランドからロンドンへ越してきたクリスティの経験が色濃く反映されていることが分かる。これは、ライト監督が「ある男がナンパのためにわいせつな言葉を言う場面があるんですけど、クリスティにThe Toucanで聞いた中で一番最低なナンパ文句は何か”と聞いたんです」と話していることからも明らかだろう。

思えば、ライト監督作品で主人公が女性となるのは本作が初めて。『ラストナイト・イン・ソーホー』はクリスティの存在なくして、“若い女性の恐怖”にリアリティを与えながらも、エドガー・ライト監督作品らしさを保つことはできなかったはずだ。今後、クリスティは次回作としてタイカ・ワイティティ監督による『スター・ウォーズ』新作映画を控えているが、こちらでも予想だにしないシナジーが生まれるのだろう。

ちなみにパブのThe Toucanは、『アクアマン』シリーズで知られるジェイソン・モモアやワン・ダイレクションのナイル・ホーランら、著名人の行きつけらしい。チアーズ!

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Source: NME,Indiewire,Yahoo!movies

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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