ジョージ・ミラー、『マッドマックス』『アラビアンナイト』を語る【単独インタビュー】

まさに後者です。後者そのものですよ。こういう内容の物語を語ってやるぞという気持ちはありません。一般的に、物語や隠喩、寓喩において重要なのは、物語とはあらゆる点において、個々人の人生経験や世界観を通じて解釈されるということ。観客を魅了したいし、説得力のある物語で話に没頭してほしいわけですが、物語の強力な部分は、観客の解釈に委ねるべきなのです。
私自身、何度も経験があるので、ここで具体例を挙げても良いですが、例えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、フェミニスト作品として受け取られるものです。最初にこのストーリーを思いついた時は、あの風景を横断する、(前作からの)連続的なチェイスものであるというアイデアでした。その途中に登場するキャラクターについて学んでいくというものです。
ロード・ウォーリアーが暴君の「5人の妻」を連れ立つというのが、物語のエッセンスや基軸となっていました。お宝や、盗まれた金や、爆弾などではなく、人間を奪うわけです。男性のロード・ウォーリアーが「5人の妻」を連れ立つ物語とは大きな違いがありますね。女性のウォーリアーだからこその物語です。フュリオサはそうやって現れるのです。女性ウォーリアーだぞとは言わず、ただそういう物語なのです。それが過去作にマッチすれば、あの世界の女性(の存在感や権限など)の復活になるし、もう少しバランスや公平性が取れるようになる。
今の世の中では、そういったことが起こっていると思います。そこには理由もある。文化的に、科学的に、社会的に、技術的に、人類学的にも、あらゆる意味で理由がある。それが、私にとって世界がどう感じられるかという事です。『マッドマックス』シリーズは機能不全に陥った未来予想図と言われていますが、しかし過去の悪しき行いを描いているとも言えるし、現代社会を反映しているとも言える。(解釈とは)最初から押し付けるようなものではなくて、物語の中から出てきたものなのです。
まさに君が言う通りで、観客によってさまざまに解釈してもらうものです。すべての物語には詩的な次元がある。それが物語を閉ざすことはできないし、いちいち説教臭くなってはいけない。あらゆる解釈に向けて開かれているものです。そうでなければ、観客を巻き込むことができない。

──『マッドマックス』の1作目がなぜ日本で成功したのか、なぜ日本人から「侍映画だ」として見られたのかが長い間理解できなかったとおっしゃっていました。今はどうですか?どのように見てらっしゃいますか?
私は、テレビが登場する以前のオーストラリアで育ちました。インターネットもなかった時代です。その頃に映画づくりを始めたのですが、“外の世界”での経験に乏しかった。映画人の交流はあったものの、世界中の映画にアクセスできるわけではなかった。日本の映画なんて、数えるほどしか観たことがなかったのです。
私は映画を作り、それから日本に行った時に、「きっとあなたは黒澤映画をたくさん鑑賞したのでしょうね」と言われたことを覚えています。お恥ずかしいことに、その時私は「クロサワって誰ですか?」と答えた(苦笑)。だって、観る機会がなかったんですよ。機会といえば映画祭くらいしかなかったんです。
次第に気づいていったのですが、世界共通の確立されたパターンのようなものがあって、『マッドマックス』もそういった原型をベースにしていたんです。そこで私は『マッドマックス』の後、黒澤とはどういう人なのかをきちんと勉強して、彼の全作に加え、世界中に及ぶ彼の影響を勉強しました。そうして日本映画についてもずっと詳しくなったし、ヨーロッパ映画や南アメリカ映画と、ハリウッド以外の映画についても学びました。当時はそういう感じでしたが、現在では、映画を作ったり、考えたり、語ったりする時に、世界中の映画に素早く気軽にアクセスできるようになりましたね。
『マッドマックス』が日本で成功したことは、驚くべき事ではありません。フランスでも同じような形で共感され、「車に乗った西部劇だ」と言われますから。黒澤映画の『七人の侍』がアメリカでは『荒野の七人』として解釈されるのと同じことですね。
──ありがとうございました。お時間になってしまったようです。
もういいのかい?
──残念ですが、時間切れのようです。本当にありがとうございました。とても光栄でした。良い1日を!
こちらこそ、ありがとう!
『アラビアンナイト 三千年の願い』は2023年2月23日、TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー。
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