『モッシュピット』は終わらない!映画界に「熱」を生み出すハマジムと音楽ドキュメンタリーの幸福な関係(前編)

今年最高の音楽ドキュメンタリーといえば、間違いなく『モッシュピット』である。

5月に東京で上映を開始し、地方へと飛び火していった本作、ついに9月には札幌での上映も決定した。しかし、それならなぜ自分は本作についての文章を書いてこなかったのか?その最大の理由は、本作の舞台が東京であるという点だ。

Have a Nice Day!NATURE DANGER GANG、そしておやすみホログラム、本作に登場する3組のアーティストは全て東京を活動拠点にしており、映画の内容も彼らが東京恵比寿リキッドルームで1,000人規模のフリーパーティーを開催する裏側を描いたものになっている。公開が東京先行だったこともあり、関西在住の自分は完全に本作を巡る狂騒から出遅れた。それは本作に限ったことではなく、ポップカルチャーにおけるインディペンデント発のムーブメントの大半が、東京を震源地としてその他の地域は余震を享受するだけの「地方」に分類される。そして、映画興行のシステム上、規模の小さい作品ほど地方への巡回は遅れ、ようやく地方在住のファンが鑑賞可能な状態が整ったときには、すでにムーブメントは沈静化を始めているのが常だ。

はっきり書くが、ここ10年のインディペンデント映画に分類される作品で、地方が東京と同じだけの熱量を共有できた事例はいまだかつてない。皆無。つまり、インディペンデント映画の熱量は東京からの物理的距離が遠ざかる分だけ減退していく。それを身にしみて分かっている自分は、これまで東京発のインディペンデント作品について、能動的に書くことを控えてきた。

 

だが、2014年の冬。状況を変える作品が投下された。カンパニー松尾監督によるAVの劇場公開バージョン、『劇場版テレクラキャノンボール2013』である。当初、オーディトリウム渋谷で期間限定上映だったはずの本作は、時間を経ても狂熱が褪せることなく、いまだに全国を回り続けている。DVDにて完全版と劇場版、両方のフォーマットが鑑賞可能になった現在でも、だ。

これは『テレキャノ』が優れたドキュメンタリーAVであったのはもちろん、映画館で作品を鑑賞する醍醐味を120パーセント凝縮していたからだ。信じられないくらいに笑いの渦が起きる会場。あれだけの盛り上がりは『アナと雪の女王』の歌唱つき上映でもありえなかった事態だ。限定公開、オチ口外厳禁という形態も、口コミに拍車をかけた。鑑賞者同士の連帯感が生まれ、作り手と観客の間に共犯関係が成立したのである。

自分は当時、初上映時の東京と約半年遅れの上映となった京都で『テレキャノ』を見た。観客の沸き方は京都のほうがやや大人しかったが、これはあらゆる映画作品に共通することなので仕方がない(関西はお笑い好きだと言われているが、実は笑いの間口が狭い、といったほうが的確である。関西の劇場で笑いの渦が起きることは滅多にない)。それよりも、東京で巻き起こった『テレキャノ』フィーバーに対する飢餓感を、当時の関西からは強く感じた。繰り返すが、ここまでの飢餓感は他のインディペンデント作品ではありえなかったことだ。

地方の観客動員の惨状について「地方上映が実現する頃にはDVDリリースが開始されていることも多く、地方の観客が失われてしまう」という意見もある。しかし、初上映日がDVD発売日と同時だった『テレキャノ』にはこの理論は当てはまらない。重要なのは観客側の「熱」なのだ。そして、『テレキャノ』はある程度意図的に、しかしほとんどは偶然の産物として、地方の観客の熱量を維持することに成功したのである。

おそらく日本で唯一、インディペンデントの映像業界に所属しながら観客の「熱」を生み出し、それに応える術を知ったカンパニー松尾率いる、アダルトビデオメーカー、ハマジム。彼らが映画界に乗り込むときに行なうテーマは、その術を実証していくだけだった。

 後篇はこちら:

『モッシュピット』は終わらない!映画界に「熱」を生み出すハマジムと音楽ドキュメンタリーの幸福な関係(後編)

About the author

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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