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アカデミー賞を予想する前に!忘れずにチェックしたい有力な前哨戦、傾向の違う映画祭

アカデミー賞
Photo by Prayitno https://www.flickr.com/photos/prayitnophotography/6883792695/

「前年の1月から12月の間にロサンゼルス地区で1週間以上一般公開された(有料。初めての上映であること)、40分以上の長編作品(35ミリ、70ミリ・フィルムを使っていること)」
これが映画界最大の祭典、アカデミー賞(Academy Awards)の作品規定です。

本稿を執筆しているのが2017年の11月半ば、つまり第90回アカデミー賞の締め切り時期が迫ってきました。
アカデミー賞は公開時期が遅ければ遅いほど投票権を持つ会員の印象に残りやすいため、各映画会社は年末に向けて大々的にキャンペーンを展開し、この時期に公開を合わせる、あるいはすでに上映済みでも批評家に高い評価を得た作品を再上映するという策を講じるのが一般的です。

2017年は大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインとアカデミー賞俳優のケヴィン・スペイシーをはじめとしたセクハラ騒動が発生し、スペイシーが出演した『オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド(原題:All the Money in the World)』ではクリストファー・プラマーをスペイシーの代役に立てて再撮影するという措置が取られました。ワインスタインのセクハラ問題は彼がプロデュースを担当した多くの作品に影響し、ワインスタイン・カンパニー作品は苦戦が予想されるとの報も出ています。

さて、この時期になると俄然、アカデミー賞の各種予想サイトが賑わってきます。筆者は毎年、こうした予想サイトをそれなりに熱心に見ているのですが、これらの予想を見ていると、どのようにアカデミー賞の予想が行われているかが分かってきます。

そこで注目したいのが、アカデミー賞と傾向が似通っている各種のアウォードです。今回は、アカデミー賞の結果を占う上で、有力な前哨戦となっている映画賞の数々をご紹介したいと思います。

有名、しかし傾向の違う映画祭

アカデミー賞はアメリカの映画芸術科学アカデミーが授与を行う賞です。
映画芸術科学アカデミーは相応しい実績を残した映画関係者(プロデューサー、俳優、監督、脚本家、技術者など)によって構成され、その会員数は6000人に及ぶといわれています。会員は招待制で国籍は関係なく、我が国からも渡辺謙、滝田洋二郎、北野武、是枝裕和、黒沢清、河瀨直美などが会員になっています(宮崎駿は招待されたが辞退しています)。

アカデミー賞の特徴のひとつ、それはこの投票権を持つ人物の数の多さにあります。これほど多くの人物が集まれば当然のことながら好みは千差万別になるもので、そのためアカデミー賞では、「比較的硬派だが中庸的で芸術性と娯楽性が相半ばするような作品」に票が集まりやすい傾向にあります。
例えば3部作すべてが作品賞候補になった『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001-2003)は、寓意的な物語であると同時に、アクションやアドベンチャーも満載の芸術性と娯楽性が程よくミックスされた傑作であり、とりわけアカデミー賞の傾向を物語っているといえるでしょう。

これに対して、カンヌ、ベルリン、ヴェネチアの三大有名映画祭は全く毛色の異なるものとなっています。各映画祭のコンペティション部門はごく少数の審査員によって受賞作が決まるのです。
例えば、第70回のカンヌ国際映画祭では9人の審査員がコンペティション部門の審査を行いました。同映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞した過去10年の映画でアカデミー賞の作品賞候補にもなった作品は『ツリー・オブ・ライフ』(2011)のみであり、同作も最終的には作品賞を逃しています。同様のことはベルリン、ヴェネチアにもいえ、これらの映画祭は権威と独自の地位を築いてはいますが、アカデミー賞との相性は良くありません。

しかし、有名映画祭でも賞の傾向が一致するものはあります。それがトロント国際映画祭です。
同映画祭はノン・コンペティションで、観客の投票で決まる観客賞(ピープルズ・チョイス・アウォード)が最高賞となっています。観客の投票で決まるということは、すなわち、多くの人が喜ぶ最大公約数的な作品が好まれるということになります。それ故に、同映画祭の観客賞受賞作はアカデミー賞と相性がよく、過去10年を振り返ると『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)、『英国王のスピーチ』(2010)、『それでも夜は明ける』(2013)の3作品がアカデミー賞の最優秀作品賞を受賞、『ラ・ラ・ランド』(2016)がアカデミー作品賞の候補になり、監督賞や主演女優賞を含む6部門を受賞しています。
2017年の観客賞は『スリー・ビルボード』(2018年2月1日公開)に授与されましたが、この作品も各種予想サイトでアカデミー賞の有力候補と見なされている一本です。

有力な前哨戦たち

前項では、賞そのものは有名で権威があっても、アカデミー賞とは相性の悪いものを取り上げました。つづいて本項では、アカデミー賞を占う上で有力と言われる賞を挙げていきます。アカデミー賞予想の多くは、これらの賞の受賞結果をもとに行われているのです。

アメリカの組合賞

アメリカの映画界には監督、脚本家、制作者、俳優、技術者などが所属する組合(ユニオン)が存在します。
そもそも映画芸術科学アカデミーはハリウッドの関係者僅か36人で創設されたアメリカのローカルな団体です。巨大産業と化したハリウッド映画は、今日ではその世相を反映し、アカデミー会員の所属国は36か国に及びますが、それでもまだアメリカのローカルな賞としての色は強く、外国語(英語以外の言語)の作品が作品賞を争うことは稀です。

もともとはアメリカのローカルな賞だったため、アメリカの映画産業関係者が所属する組合が授与する各組合賞はアカデミー賞との一致率が高いです。近年であれば、デミアン・ビチルが『明日を継ぐために』(2011)で全米映画俳優組合賞の主演男優賞候補になりましたが、彼はそれ以外の有力な前哨戦ではことごとく候補から漏れていました。しかし、最終的に下馬評を覆してアカデミー賞でも最優秀主演男優賞の候補になっています。

放送映画批評家協会賞

アメリカとカナダでテレビ、ラジオおよびインターネットに関わる批評家によって組織される放送映画批評家協会(Broadcast Film Critics Association)が毎年発表している映画賞です。
協会自体が1995年に設立されたばかりで、賞そのものの歴史は浅いですが、放送映画批評家協会は190人を超えるメンバーが所属する北米最大の批評家団体です。つまり、多数決的な投票結果、映画に詳しい人間たちによる最大公約数的な傾向の結果になります。そのため、アカデミー賞と賞傾向が非常によく似ており、有力な前哨戦のひとつと見なされています。実際に過去10年で7作品が同賞の再優秀作品賞とアカデミー賞の最優秀作品賞を受賞しており、一致率は非常に高いです。

ゴールデングローブ賞

ゴールデングローブ賞は、ハリウッド外国人映画記者協会の会員投票によって決定する賞です。
ハリウッド外国人映画記者協会はヨーロッパ、アジア、オーストラリア、ラテンアメリカの新聞・雑誌記者による団体で、賞自体の歴史も非常に古く1944年に創設されています。アカデミー賞と非常に一致率が高く、過去10年で5本がゴールデングローブ賞とアカデミー賞の作品賞を同時受賞しています。同賞はアカデミー賞の前哨戦として有力というだけでなく、傾向は似ているものの、アカデミー賞とは違った個性のある映画賞であるところもまた興味深いです。

アカデミー賞はジャンルに関係なく5本以上10本以内の作品が作品賞にノミネートされますが、ゴールデングローブ賞は作品賞と主演部門の賞がドラマ部門とミュージカル・コメディ部門に分割されています。
アカデミー賞は前述の通り、硬派な作品が好まれるため、コメディ作品には分の悪い傾向にあります。しかしゴールデングローブ賞では、コメディはコメディとしてジャンル別で評価されるため、コメディ部門にアカデミー賞の選考からは漏れた興味深い作品が選ばれることがあります。近年であれば、アイルランド映画の『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)が世評で高い評価を受けながらもアカデミー賞で選外となりましたが、ゴールデングローブ賞ではミュージカル・コメディ部門で最優秀作品賞の候補になっています。
また、部門によって規定がアカデミー賞と異なるのも特徴でしょう。『硫黄島からの手紙』(2006)は全編の9割9分が日本語で制作されていますが、制作国がアメリカで主要スタッフもことごとくがアメリカ人であるために、アカデミー賞では外国語映画賞の候補から漏れていました。しかしゴールデングローブ賞の外国語映画賞は「英語以外の言語で制作されている」という緩い規定であるため、こちらでは最優秀外国語映画賞を受賞しています。

英国アカデミー賞

英国アカデミー賞は主にイギリスの映画産業従事者らの団体、BAFTAが授与を行うイギリスの映画賞です。
アメリカの映画産業には古くからイギリス人が関わってきました。同一の英語を母語とする国であり、同じ言語のマーケットを持ち、経済的な先進国であるイギリスは多くの人材をアメリカの映画界に送り込んでいます。それ故に、アメリカの映画芸術科学アカデミーの会員にはBAFTAの会員を兼任している人物も多く、英国アカデミー賞は賞の傾向が似ているだけでなく、同賞の結果が下馬評を覆すこともあります。

近年であれば、ゲイリー・オールドマンは『裏切りのサーカス』(2011)で他の有力な前哨戦の選外になったものの、英国アカデミー賞では主演男優賞の候補になりました。のちにアメリカのアカデミー賞でも主演男優賞の候補に滑り込みましたが、これにはイギリス人のアカデミー会員の後押しがあったといわれています。


以上、有力な前哨戦を挙げていきましたが、これらの映画祭はそれ自体が独自の地位と権威を築いている賞です。アカデミー賞から選外となってもこれらの賞に選ばれることは大変な名誉であり、アカデミー賞選外の作品から良作を選び出す道しるべにもなります。当然のことながら、これから発表となるこれらの賞はアカデミー賞を占う試金石でもあり、その点でも注目です。

第90回アカデミー賞は2018年3月4日(米国時間)に発表予定です。

Eyecatch Image: Photo by Prayitno ( https://www.flickr.com/photos/prayitnophotography/6883792695/ )

Writer

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ニコ・トスカーニMasamichi Kamiya

フリーエンジニア兼任のウェイブライター。日曜映画脚本家・製作者。 脚本・制作参加作品『11月19日』が2019年5月11日から一週間限定のレイトショーで公開されます(於・池袋シネマロサ) 予告編 → https://www.youtube.com/watch?v=12zc4pRpkaM 映画ホームページ → https://sorekara.wixsite.com/nov19?fbclid=IwAR3Rphij0tKB1-Mzqyeq8ibNcBm-PBN-lP5Pg9LV2wllIFksVo8Qycasyas  何かあれば(何がかわかりませんが)こちらへどうぞ → scriptum8412■gmail.com  (■を@に変えてください)

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