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【レビュー】「ミズ・マーベル」第1話、若く新鮮なヒーロー誕生に好感

ミズ・マーベル
(C)2022 Marvel

2022年6月8日よりディズニープラスにて配信となったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のドラマミズ・マーベルは、MCU作品の中で最も若々しい魅力あふれるシリーズになりそうだ。高校生のヒーローを描くからというだけではない。

原作コミックにおけるミズ・マーベルは、アベンジャーズに強く憧れる女子高生が、ひょんなことからスーパーパワーが覚醒し、実際に憧れのヒーローたちと仲間になっていく物語。これは、MCU版スパイダーマンを思い起こさせるプロットだ。トム・ホランドが演じたピーター・パーカーはアイアンマン/トニー・スタークらに憧れ、アベンジャーズ加入を夢見てヒーロー活動に勤しんだ。もっとも、スパイダーマンが元々世界一有名なヒーローだったのに対し、ミズ・マーベルは一般認知度の低い初実写化キャラクターという大きな違いがある。

ジョン・ヒューズによる1980年代の青春映画をベースにし、ラモーンズなど往年の楽曲を起用したMCU版『スパイダーマン』では、ノスタルジーがアクセントとして機能した。一方で「ミズ・マーベル」はフィル・ロード&クリス・ミラー作品を思わせるフレッシュな演出を加え、オープニングロゴではザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」をフィーチャーしている。

楽曲面を振り返れば、MCUは『ブラック・パンサー』や『シャン・チー』で、同時代の新曲をフィーチャーしている。しかし「ミズ・マーベル」は、キャラクターが本当にその楽曲を聴いていそうだというリアルさがある。カマラ・カーンはザ・ウィークエンドを好んで聴きそうだが、ティ・チャラがケンドリック・ラマーを、シャン・チーがDJ Snakeを日常的に聴いているイメージは少々つきにくい(シャン・チーはカラオケで懐メロを歌うのが好きだ)。

ミズ・マーベル
(C)2022 Marvel

第1話「ジェネレーション・ホワイ」でカマラは、親友のブルーノとテキストメッセージでやりとりする。メッセージの吹き出しを宙に描く演出にはすっかり手垢がついたが、「ミズ・マーベル」ではプラネタリウムの光や、街のネオンなどを使ってメッセージを表現する。Z世代の日常を、Lo-fi Hip Hopのトラックがメロウに包む。第1話で描かれるカマラのストーリーは至って普遍的なものだが、こうした若くロマンチックな演出のおかげで、じゅうぶんに新鮮味を感じられる。

スクールカースト下位のカマラはアイデンティティ確立の最中にある高校生で、例によって厳格な母親が抑圧する。最近の作品としては『私ときどきレッサーパンダ』(2022)に重なる部分が多い。『レッサーパンダ』の主人公は友人らと憧れのアーティストのコンサートに出かける計画を立てるが、保守的な母に外出を禁じられる。母の言い分には理不尽なところも多いが、「お前を守りたいからだ」と言われ、子は何も言い返すことができない。その一方で、主人公には民族文化に由来する不思議な力が宿る。やがて主人公は文化的祝福を受けながら成長し、和解した母と家族の絆を確かめ合う。『レッサーパンダ』はアジア文化と1990年代の日本アニメ文化をフィーチャーし、「ミズ・マーベル」はイスラム文化とコミック文化、2020年代マーベル文化をフィーチャーする。現代の若者は、「これは私たちの時代の物語だ」と感じられるだろう。

アベンジャーズ・オタクのカマラは、劇中で「アベンジャーズ・コン」の会場を目指す。これはコミコンのようなイベントで、MCU世界の一般人によるアベンジャーズへのキラキラした視線が描かれる。ヒーローたちの姿にときめくのは現実世界のファンと何ら変わらず、視聴者に等身大の親近感を与える。ディズニープラスの前作「ムーンナイト」では、他のMCU作品と全く交わらない世界観だったので、「ミズ・マーベル」では少し久しぶりにMCUらしいお祭り感を楽しめるだろう。

ミズ・マーベル
(C)2022 Marvel

主演のイマン・ヴェラーニ自身が、まさにカマラ・カーンそのものであるところも微笑ましい。2002年生まれのヴェラーニはマーベルの大ファンで、ミズ・マーベルのお手製コスプレを着て登校したこともあったそうだ(学校では、「それフラッシュ?」と間違われたらしい)。俳優としては本作までほぼ無名の存在で、いきなりマーベル作品の主役の座を射止めた。配信一夜にして、彼女の人生は180度変わったことだろう。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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