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クリストファー・ノーラン、『ファースト・マン』を大絶賛 ─ 「この映画の意義深さは、しばらく正当に評価されないのかもしれない」

ファースト・マン
© 2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

『ダークナイト』3部作や『ダンケルク』(2017)などで知られる映画監督クリストファー・ノーランが、デイミアン・チャゼル監督の最新作『ファースト・マン』に熱い絶賛のメッセージを送っている。米Varietyが伝えた。

かつてノーランは、チャゼル監督とライアン・ゴズリングによる前作『ラ・ラ・ランド』(2016)を「すごく楽しかった、3回観た」と激賞していた。このたび『ファースト・マン』によって、いよいよチャゼル監督への信頼は深まったとみられる。なにせノーランのメッセージは、こんな言葉から始まっているのだ。

「3本の長編映画によって、デイミアン・チャゼルは最も刺激的かつ成熟したフィルムメーカーとなった。」

この記事では、映画『ファースト・マン』本編の内容に言及しています。

ダンケルク
© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「この映画はしばらく正当に評価されないのかもしれない」

『ファースト・マン』は、人類史上初めて月面に降り立った男、宇宙飛行士のニール・アームストロングの半生を描いた物語だ。けれどもその作品性は、いわゆる伝記映画の域にはおさまらないものとなっている。ノーランは実話映画に挑んだチャゼル監督の手つきを解説する。

「彼(チャゼル)は、ニール・アームストロングの旅路を決して中立的に解釈しようとはしていない。むしろ優れた技術によって、この宇宙開発を、とことん切実かつ現実的なディテールと、映画的な熱量の高さをもって映画化している。それは十分な信頼に足るものであり、先鋭的かつ激しいチャゼル自身の主観を示すものだ。そして主観の本質は、最後にまぎれもない衝撃をもって現れる。」

ノーランといえば、かつて『インターステラー』(2014)で宇宙や科学といった領域に本格的に踏み込んだクリエイターだ。そうした経験も踏まえてであろう、チャゼル監督の宇宙に対するアプローチにも惜しみない賛辞を述べている。

「この映画は、われわれにとって最も私的で人間らしい瞬間と、偉大なる冒険とを等しく扱うことで、無限の宇宙を貶めることなく、この世に存在するものとして描いている。」

ファースト・マン
©Universal Pictures

本作は米国での劇場公開後、一部から「月面に星条旗を立てる場面がない」として激しい批判を呼んだ。しかしノーランは、そうした意見を「とんでもなく的外れ」だと一蹴。星条旗を立てる様子を描かないという判断は、愛国心をどう表現するかではなく、あくまでチャゼル監督という作り手の解釈にもとづいて下されたものだと述べている。

「(監督の判断は)偉大なる出来事についての共通見解から、意図的に距離をとるものである。人類史上最も遠い場所への到達は、(ニール・アームストロングという)個人が達成したことにすぎなかったのではないかという、(監督個人の)純粋な解釈を形にするためのものだ。

月面に立っているとき、ニール・アームストロングが何を考えていたのかは誰にもわからない。しかしチャゼルはその課題に取り組み、そして家族に寄り添った彼の解釈は、もっともらしく、また共感できるものとなった。われわれは、優れたストーリーテラーによるこうした取り組みを頼りにして、また実際のところ必要としている。デイミアン・チャゼルは私たちを失望させないのだ。」

人類史上初の月面着陸という題材を、チャゼル監督はニール・アームストロングという個人に寄り添って撮った。これについてはノーランも「世界の歴史において最も外側に開かれた出来事を、彼はあえて内省的に映画化している」と記している。そして本作の功績は、それゆえに今はまだ正しく理解されていないのではないかと。

「『ファースト・マン』の本当の意義深さは――それが重大な出来事をわざわざ大胆に解釈することに似ていなくはないために――しばらくの間は正当に評価されないのかもしれない。」

ファースト・マン
『ファースト・マン』撮影中のデイミアン・チャゼル監督 ©Universal Pictures

デイミアン・チャゼル監督とノーラン、しばしの面会

どこまで意図したものかはわからないが、チャゼル監督の『ファースト・マン』におけるアプローチは、ノーランの映画製作にも似たところがある。IMAXカメラの使用、CGではなくできるかぎり実物を使って撮影することへのこだわり。それにプロダクション・デザインを務めたのは、『インターステラー』で宇宙を生み出した、いわば“ノーラン組常連”のネイサン・クロウリーなのだ。

The Hollywood Reporterのインタビューで、チャゼル監督は、本作の製作中にノーランと初めて対面したことを明かしている。

「撮影の時点ではお会いしていなかったんです。ポストプロダクション(作品の仕上げ)の最中、まさにIMAXの作業をしているときにお会いできて、本当に幸運でしたね。直接お会いして質問をする機会は初めてだったんですよ。でも撮影は終わっていましたので、撮影中のお話をほんの少しと、それから戦争についてのお話をさせていただきましたね。」

チャゼル監督は『ファースト・マン』の製作にあたって、戦争映画やドキュメンタリーを参考にしたことを明らかにしていた。映画製作だけでなく個人の思想面においても、ノーランとチャゼル監督の興味や関心は重なるところがあるのかもしれない。

ちなみに『インターステラー』『ダンケルク』などに参加したネイサン・クロウリーの仕事をチャゼル監督は絶賛。実物を使用する志向や細部へのこだわりについて「世界一の仕事ですよ」と述べている。「クリストファー・ノーランの映画ではどんな魔法を使っていたのか、たくさん質問させてもらいました」。

映画『ファースト・マン』は2019年2月8日(金)より全国の映画館で公開中。

『ファースト・マン』公式サイト:https://www.firstman.jp/

チャゼル監督&ライアン・ゴズリングへのインタビュー

Sources: Variety, THR

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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