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2021年アカデミー賞の受賞予想&見どころ解説 ─ オスカー像の行方はいかに?

第93回 2021年 アカデミー賞 オスカー

2021年4月26日(日本時間)、第93回アカデミー賞授賞式が開催される。

2020年の同授賞式では、『パラサイト 半地下の家族』(2019)が作品賞・監督賞・脚本賞・長編国際映画賞に輝き、韓国だけでなく、アジア作品として映画史に残る記録を樹立した。2021年は一体どんな結果となるのか。本記事では、主要部門(作品賞長編アニメーション賞監督賞主演女優賞主演男優賞助演女優賞助演男優賞)の簡単な解説および予想・注目作を紹介したい。

作品賞 予想&注目作

予想:『ノマドランド』

ノマドランド
(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アカデミー賞の最大の目玉である作品賞には、『ノマドランド』(2020)が輝くと予想。本作は、企業の経済破綻と共に長年住み慣れた住処を失い、最愛の夫も亡くしたひとりの女性が、車上生活者(現代の遊牧民=ノマド)として懸命に生きる姿を捉えた物語だ。主演は『スリー・ビルボード』(2017)フランシス・マクドーマンド、監督は『ザ・ライダー』(2017)クロエ・ジャオ。

ヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞に輝き、トロント国際映画祭では観客賞を受賞し、両映画祭にて最高賞を制覇するという史上初の快挙を達成。さらにボストン批評家協会賞をはじめ、ゴッサム賞や全米映画批評家協会賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、数々の映画賞を軒並み制覇し、ゴールデングローブ賞でも作品賞に輝いた。映画賞を総なめにするだけでなく、批評家からの評判も非常に高く、彼らからの予想でもほぼ満場一致で同作が作品賞に輝くと予想されている。

そのほかの有力候補作①:『ミナリ』

ミナリ
©2020 A24 DISTRIBUTION LCC.ALL Right Reserved

サンダンス映画祭で観客賞と審査委員特別賞の栄冠に輝いた本作は、アメリカンドリームを求めて移民した韓国一家を描いた作品。主演は「ウォーキング・デッド」(2010-)スティーヴン・ユァン、監督はリー・アイザック・チョン。

ゴールデングローブ賞では、本作の劇中言語の大半が韓国語であることを理由に作品賞の選考から除外され、外国語映画賞として扱われてしまい、多くの批判が映画賞側に相次いだ。結果としては同部門で受賞。そんな中、アカデミー賞では国際長編映画賞ではなく、作品賞としてノミネートされている。世界中の映画批評家を唸らせた本作、受賞となれば、『ムーンライト』(2016)以来のA24作品となる。

そのほかの有力候補作②:『プロミシング・ヤング・ウーマン』

プロミシング・ヤング・ウーマン
©2020 Focus Features

プロミシング・ヤング・ウーマン』(2021年7月16日公開)は、過去の悲劇的な事件によって、トラウマを負った若い女性が、クラブで毎週のように酩酊状態を装い、セックスを求める男たちに制裁を加えるさまを描いた復讐劇。主演は『ワイルドライフ』(2018)キャリー・マリガン、監督はエメラルド・フェネル。

同作もまた、『ノマドランド』や『ミナリ』のようにに、ハリウッド映画批評家協会賞での作品賞をはじめ、数々の映画賞にて作品賞をはじめ様々な部門で受賞している。また、批評サイト「Metacritic」の映画賞集計によると、『ノマドランド』の次に作品賞部門では受賞数が多い。また本作は、セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を題材にしたいわゆる#MeToo的な作品でもあるため、社会的な性質・題材の作品が受賞する傾向の多いアカデミー賞にとっては、栄冠に輝く可能性は高いといえるだろう。

長編アニメーション賞 予想&注目作

予想:『ソウルフル・ワールド』

ソウルフル・ワールド
(C)2020 Disney/Pixar.

ディズニー&ピクサーによる『ソウルフル・ワールド』は、『インサイド・ヘッド』(2015)のピート・ドクター監督の待望の最新作。監督が新たに描くのは、生まれる前の魂の世界。テーマとして取り上げられるのは、人の夢や好奇心である。しかし、監督は夢追い物語ではないことを強調しており、むしろそんな発想を覆すことが大切だと力説していた

そんな本作は、カンヌ国際映画祭に出品されて以降、ゴールデングローブ賞をはじめ世界中の映画賞を総なめにしている。Metacritic」による映画賞集計の結果からも、アニメーション部門では2位の『ウルフウォーカー』に大差をつけて独走中だ。

そのほかの有力候補作:『ウルフウォーカー』

ウルフウォーカー
© WolfWalkers 2020

新作を発表する度に世界中の観客を虜にしているアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」による『ウルフウォーカー』。『ブレンダンとケルズの秘密』(2009)と、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014)に続く、“ケルト三部作”の完結編ともいうべき本作は、眠ると魂が抜け出し、オオカミになるというウルフウォーカーを題材にした作品だ。息をのむほど美しい世界観と不思議な物語を通して、人間と動物との共存、自然破壊への警鐘、そして家族愛などを描いている。

カートゥーン・サルーンが発表してきた長編映画はすべて、アカデミー賞候補となっているが、いずれも残念ながら受賞には至っていない。本作も批評家からの評判はもちろんのこと、『ソウルフル・ワールド』に続いて本年度の映画賞を総なめにしている。今度こそ受賞となるか。

監督賞 予想&注目候補

予想:『ノマドランド』クロエ・ジャオ

ノマドランド
(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

このたびのアカデミー賞では、例年に比べて女性の製作陣が多かったことでも話題となっている。そんな中、監督賞では女性監督がふたりも候補に選ばれるという歴史的快挙まで成し遂げられていた。そのひとりが、『ノマドランド』に息吹を吹き込んだ監督、クロエ・ジャオだ。

『ザ・ライダー』(2017)に引き続き、雄大に広がる大地を圧倒的な映像美と共に、時代や社会に振り回されながらも、それでも強く懸命に生き続ける人たちを繊細に捉えていた。フランシス・マクドーマンドのほか何名か以外はすべて、実際のノマドたちを起用するという、ドキュメンタリーのような作風にも多くの観客が魅了されたに違いない。ゴールデングローブ賞に続いて、アカデミー賞でも受賞となるか。

そのほかの有力候補①:『プロミシング・ヤング・ウーマン』エメラルド・フェネル

女性として、もうひとり監督賞候補者として名が挙がったのは、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネルロマンスと現代社会にも通じる復讐劇を融合させて、社会派の一面も捉えながら、エンターテインメント作品として誰もが楽しめる一作に仕上がっていると批評家から大絶賛されている。

そのほかの有力候補②:『ミナリ』リー・アイザック・チョン

小津安二郎監督作品のような、繊細な人間模様と秀逸な悲喜劇を見事に演出した『ミナリ』のリー・アイザック・チョン。ハリウッド版『君の名は。』も控えている気鋭の監督が初の候補入りにして受賞となるか。オスカー像の行方が気になるところだ。

主演女優賞 予想&注目候補

予想:『ノマドランド』フランシス・マクドーマンド

ノマドランド
(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『ノマドランド』にてファーンにふんしたフランシス・マクドーマンド。アメリカの実際のノマドコミュニティの中に溶け込み、見事に演じきっている。女優としての貫禄を一切排除して、外見だけでなく雰囲気までノマドそのものになりきった。

迫真の演技力で観客を魅了したマクドーマンドは、これまでにも『ファーゴ』(1996)『スリー・ビルボード』(2017)にてアカデミー賞主演女優賞を受賞している。そんなアカデミー賞の常連とも言える名優は、ゴールデングローブ賞こそ逃したものの、英国アカデミー賞をはじめ世界中の映画賞を総なめにしている。アカデミー賞にて、3度目の受賞となるか。

そのほかの有力候補①:『マ・レイニーのブラックボトム』ヴィオラ・デイヴィス

マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』2020年12月18日(金)独占配信中

1920年代を舞台にした映画『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)にて、マ・レイニーという「ブルースの母」とも称される実在の歌手を演じている、ヴィオラ・デイヴィス。仕事に関しては強気だが、家族に対しては深い愛情と優しさをもって接するマ・レイニーを、デイヴィスは圧倒的な憑依ぶりで見事に演じ切っている。デンゼル・ワシントンによる『フェンス』(2016)に続いての受賞となるのかに注目だ。

そのほかの有力候補作②:『プロミシング・ヤング・ウーマン』キャリー・マリガン

プロミシング・ヤング・ウーマン
© Universal Pictures

『プロミシング・ヤング・ウーマン』にてキャリー・マリガンは、トラウマを負いながらも、クラブで毎週のように酩酊状態を装い男たちに制裁を与えるという難役を演じている。本年度の賞レースでは、フランシス・マクドーマンドとほぼ並ぶような受賞数を記録中だ。

主演男優賞 予想&注目候補

予想:『マ・レイニーのブラックボトム』チャドウィック・ボーズマン

マ・レイニーのブラックボトム
Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』2020年12月18日(金)独占配信中

2020年8月に逝去した、チャドウィック・ボーズマン。このたび主演男優賞にノミネートされている『マ・レイニーのブラックボトム』では、トランペット奏者役を演じていた。才能はあるものの、周囲への配慮が足りずすぐに喧嘩してしまうようなキャラクターである。様々な葛藤を抱えるキャラクターを、チャドウィックは魂震える演技で魅了した。

遺作となった本作にてチャドウィック・ボーズマンは、世界中の映画賞を総なめにしており、ゴールデングローブ賞でも受賞を果たしている。アカデミー賞でも、はじめてのノミネートにして初の受賞となるか。また仮に受賞した場合、故人に代わって、オスカー像を受け取る人物にも注目が集まる。

そのほかの有力候補①:『ミナリ』スティーヴン・ユァン

ミナリ
© 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

アジアン・アメリカンとしてアカデミー賞に初候補入りした、スティーヴン・ユァン。『ミナリ』では、家族のために必死になりながらも、妻からは嫌味を言われていまう韓国人一家の大黒柱役を演じていた。少年のように夢見るジェイコブふんするスティーヴン・ユァンは、一瞬たりとも演技であると感じさせないほどにまで自然に演じていた。アジアン・アメリカンとして初の快挙となるか。

そのほかの有力候補②:『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』リズ・アーメッド

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~
Courtesy of Amazon Studios

ひとりのドラマーが聴覚を失い奮闘する姿を描いた一作、『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(2020)。難病を抱えたドラマーにふんしたのが、リズ・アーメッドだ。「ザ・ナイト・オブ」(2016)『ヴェノム』(2018)など、数多くの話題作に出演している俳優で、このたびムスリム系として初の主演男優賞候補となった。

ありのままの自分を受け入れるが、新しい自分とこれまで歩んできた人生とのどちらかを選ばなければならない男を演じたリズ・アーメッドの、痛々しいほどの肉体表現と追い詰められた入魂な演技に圧倒されるだろう。ゴールデングローブ賞ではノミネートされるも、受賞には至らなかった。多様性を重視する映画賞のため、受賞の可能性は非常に高い。もっともそれはチャドウィック・ボーズマンやスティーヴン・ユァンでも同様のことが言えるため、予想の難しい部門とも言えるだろう。

助演女優賞 予想&注目候補

予想:『ミナリ』ユン・ヨジョン

ユン・ヨジョン
Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24

『ミナリ』からアカデミー賞における歴史的快挙を成し遂げたのは、スティーヴン・ユアンだけのことではない。同作で、移民した韓国人一家と一緒に住むことになる祖母役を演じたユン・ヨジョンもまたそのひとりで、韓国出身の女優としてはじめて助演女優賞にノミネートされた。毒舌で破天荒な祖母でありながらも、孫のやんちゃな行動を寛容に受け入れたり、家族のために芹を植えたりと家族想いな一面ものぞかせている。そんな彼女の大胆さや優しさが、世界中の観客の心に寄り添っていた。

2020年には、『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門で受賞を果たしたものの、ソン・ガンホなど期待されていた韓国人俳優の演技部門での入選は残念ながらなかった。ユン・ヨジョンは、その翌年に韓国人女優としてノミネートを果たしたのである。英国アカデミー賞での受賞をはじめ、すでに世界中の映画賞を総なめにしているユン・ヨジョン。アカデミー賞では、今年も韓国が歴史を作るかもしれない。

そのほかの有力候補①:『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』マリア・バカローヴァ

『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』(2020)では、カザフスタンのジャーナリストであるボラットが、前作からの汚名を返上すべく、娘のトゥーターをアメリカ政府への貢ぎ物として捧げる任務に奔走する。そんな重要な任務の鍵を握る娘役を演じたのが、マリア・バカローヴァだ。新進気鋭の俳優でありながら、世界中の映画賞に輝いており、サシャ・バロン・コーエンと肩を並べて盛大に暴れている。

そのほかの有力候補②:『Mank/マンク』アマンダ・サイフリッド

『Mank/マンク』
Netflix映画『Mank/マンク』2020年12月4日(金)独占配信中

デヴィッド・フィンチャー監督最新作、不朽の名作『市民ケーン』(1941)の誕生秘話を描く『Mank/マンク』(2020)にて、マリオン・デイヴィスという実在の女優役を演じた、アマンダ・サイフリッド。20年以上の俳優人生にして、アカデミー賞初ノミネートだ。キャリア史上最高の演技とも称されるほどの怪演ぶりで、マリオン・デイヴィスの孤独と優しさを全身全霊で体現している。

助演男優賞予想&注目候補

予想:『Judas and the Black Messiah(原題)』ダニエル・カルーヤ

Daniel Kaluuya ダニエル・カルーヤ
Photo by Gage Skidmorehttps://commons.wikimedia.org/wiki/File:Daniel_Kaluuya_(35411573144).jpg

1960~70年代に黒人解放運動を牽引した政治組織、「ブラックパンサー党」の有力者の暗殺事件を描く伝記映画『Judas and the Black Messiah(原題)』。『クリード』『ブラックパンサー』シリーズのライアン・クーグラーが製作に入る本作にて、暗殺された有力者役を演じたのは、『ゲット・アウト』(2017)『ブラックパンサー』(2018)のダニエル・カルーヤだ。ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞をはじめ、世界中の映画賞を総なめにしており、また多様性を重んじる映画賞のため、受賞の可能性は高い。アカデミー賞としては、『ゲット・アウト』につづいてのノミネートとなる。初受賞となるかに注目だ。

そのほかの有力候補①:『シカゴ7裁判』サシャ・バロン・コーエン

シカゴ7裁判
Netflix映画『シカゴ7裁判』2020年10月16日 全世界独占配信|Niko Tavernise/NETFLIX © 2020

アーロン・ソーキンによる『シカゴ7裁判』(2020)は、平和的に行われるはずの抗議デモが、警察との激しい衝突に発展してしまい、その責任を問われ逮捕・起訴された7人による米国史上最も理不尽な裁判を描く作品だ。その7名のうちのひとりを演じたのが、サシャ・バロン・コーエン。 最初こそお茶目でふざける一面を見せるも、やがて深い知性の持ち主であることが明らかとなる、アビー・ホフマンという実在の社会活動家を見事に演じていた。

そのほかの有力候補②:『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』ポール・レイシー

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~
Courtesy of Amazon Studios

『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』にて、ポール・レイシーが演じるのは、聴覚を失った主人公を受け入れる、支援コミュニティのリーダーのジョーだ。この先の人生に不安を抱える主人公の今後の生き方を、時に温かく、時に厳しく導いていく。キャリアは長いものの、比較的無名の俳優であるポール・レイシーは、実際に聴覚障碍者の両親のもとで育ったため、手話はもちろん当事者の気持ちをしっかりと理解しているのだ。そんなポール・レイシーによる魂震える演技に誰もが魅了されたに違いない。なお本年度の賞レースでは、ダニエル・カルーヤとほぼ並ぶような受賞数を記録中だ。

第93回アカデミー賞授賞式は、2021年4月26日(日本時間)開催。オスカー像の行方はいかに!

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。