Menu
(0)

Search

マーベル『シャン・チー』『エターナルズ』中国国営放送でタイトル削除、上映不承認の可能性 ─ 監督の過去発言、予告編にSNSで批判集まる

シャン・チー/テン・リングスの伝説
©Marvel Studios 2021

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の新作映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『エターナルズ』が、ハリウッドに次ぐ巨大映画市場である中国で公開されない可能性がささやかれている。

Varietyによると、中国の国営放送「中国中央電視台」の映画(電影)チャンネルは、今後のMCU映画8作品の米国公開日を報じた際、ラインナップから『シャン・チー』『エターナルズ』を除外したという。中国中央電視台は、国内のメディアを管轄する政府機関「国家新聞出版広電総局」に直属しているため、なんらかの意向が働いたものとみられる。

現在、中国はハリウッドが熱い視線を送る巨大市場であり、むろんマーベル・スタジオもその例外ではない。ただし、中国で劇場公開される海外映画は、すべて政府の検閲と承認を必要とする。『シャン・チー』『エターナルズ』はともに中国とゆかりの深い映画とあって、スタジオ側の期待も大きかったはずだが、なぜ承認が下りない可能性があるのか。実は、その予兆は以前からあったのである。

エターナルズ

『シャン・チー』『エターナルズ』なぜ批判される?

『エターナルズ』のクロエ・ジャオ監督は中国出身の映画監督だが、『ノマドランド』(2020)がゴールデングローブ賞を受賞した際、SNSユーザーによって、2013年に「中国はウソだらけの場所」と発言していたことが指摘された。これが激しい反発を呼び、2021年のアカデミー賞授賞式は中国で中継されず、『ノマドランド』とジャオ監督の受賞情報は大きく報じられていない。SNSユーザーの多くはジャオに肯定的だというが、政府の検閲が入ったことで『ノマドランド』の中国公開が白紙に戻った今、『エターナルズ』の公開は難しくなったということだろう。

一方、MCU初のアジア系ヒーロー映画である『シャン・チー』にも、少なくない批判が寄せられている。ひとつは、2021年4月に公開された特報映像に「アジアのステレオタイプが多数見て取れる」というものだ。カンフー、提灯、いかにもアジアらしい建築様式、そして赤色。これが全世界を対象とするプロモーション素材である以上、そうした側面の強調もある程度はやむを得ないように思われるが、オンラインには「中国の興行収入から利益を得るためだけに作られたものであり、魂がこもっていない」「実写版『ムーラン』(2020)と同レベルではないか」との声がある。

そもそもシャン・チーというキャラクターは、1973年にコミックに登場した時点では、まさしくアジア系のステレオタイプを盛り込んだヒーローだった。しかし映画化にあたり、監督のデスティン・ダニエル・クレットンをはじめとする製作陣は、ステレオタイプを避けることに心血を注いだのである。シャン・チーの父親を、コミックのフー・マンチューではなく、映画独自のウェンウー/マンダリンに変更したのもそのためだ。しかしながら、そうした取り組みはさほど周知されておらず、また考慮もされていないのが実情。それどころか、中国のイメージを悪くしかねない役どころを引き受けたとして、ウェン・ウー役のトニー・レオンがブラックリストに登録されるのではないかという噂さえあるという。

さらに別の文脈もある。有害な種類の意見をピックアップするならば、シャン・チー役のシム・リウ、親友・ケイティ役のオークワフィナが、いわゆる美形の俳優でないことにも不満の声が上がっているのだ。「スタジオは中国人の見た目を差別している」「外国人は目の細いアジア系をわざわざキャスティングしたがるが、アジアや中国にも、目が大きく、特徴のはっきりした俳優はたくさんいる」。

2021年4月、シム・リウはWeiboを通じてメッセージを投げかけた。ファンへの感謝を述べたあと、リウは「とにかく私たちの失敗を望んでいる皆さんにお伝えすることはありません。結果はそのうちに分かります」と語ったのである。むろん中国国内にも、『シャン・チー』『エターナルズ』を楽しみに待っている、批判的な人々とは意見を異にするマーベルファンが大勢いることは事実。一部の声が大きくなっているケースとも捉えられるだけに、政府の判断には注目が必要だ。

あわせて読みたい

Source: Variety, Bloomberg

Writer

アバター画像
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly