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【ネタバレ解説】「シー・ハルク」ヤバすぎ最終話、ケヴィン・ファイギの反応は?海外メディアはどう見たか

シー・ハルク:ザ・アトーニー
(c) 2022 Marvel

この記事には、「シー・ハルク/ザ・アトーニー」第9話『主人公は誰?』のネタバレが含まれています。

シー・ハルク:ザ・アトーニー
(c) 2022 Marvel

「シー・ハルク」最終話、シー・ハルクが破壊したもの

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)「シー・ハルク/ザ・アトーニー」前回のエピソード『ケロケロ ジャンプ』のラストで嵌められた策略により、シー・ハルクとして公然で暴走してしまったジェニファー・ウォルターズ。第9話『主人公は誰?』にて一時は収監されるが、制御装置の装着を条件に釈放されることになる。代わりに職を失い、マスコミからも追われるジェニファー。攻撃を仕掛けた謎の組織「インテリジェンシア」告訴を検討するが、“ハルクキング”なる人物が主宰するこの組織、セキュリティが厳重で所在がつかめない。

「インテリジェンシア」のネットワークに紛れ込んだ同僚ニッキはハルクキングからイベントに招待される。同じ頃、ジェニファーは第7話に登場したエミル・ブロンスキーによる「リトリート」施設を再訪。心の平穏を取り戻そうとする。

しかし、実はリトリートの施設が「インテリジェンシア」のイベントに使用されていた。会場では、集まった男性会員らがミソジニー的視点からシー・ハルクに批判を浴びせている。そこで、シー・ハルクの不名誉なデート相手の1人だったトッド・フェルプスがハルクキングであることが判明する。

イベントではスペシャルゲストとして、アボミネーションに変身したブロンスキーが登場。そこに偶然ジェニファーが現れ、さらにニッキやパグも続けて登場。トッドは入手したジェニファーの血清を投与し、なんと“ハルク化”してしまう。そこにタイタニアが乱入。さらに宇宙のどこかに飛んでいったはずのハルク/ブルース・バナーまで出現し、事態はしっちゃかめっちゃかに。ジェニファーはただの傍観者となり、まさに『主人公は誰?』といった混沌状態となる。

ここから前代未聞の展開だ。なんと画面がDisney+のメニュー画面に切り替わり、シー・ハルクが飛び出してくる。メイキング番組「アッセンブル」のサムネイル画像に飛び込んだかと思うと、シー・ハルクはディズニーの製作スタジオに侵入している。

そのまま番組の制作部に入り込み、喧々諤々の脚本家ルームに乱入。物語の展開に文句をつけ、ケヴィンに直談判すると言い出す。ケヴィンとはもちろん、マーベル・スタジオのボス、ケヴィン・ファイギのことだ。

シー・ハルクはスタジオのセキュリティを突破し、いかにも重要そうな謎の部屋に入り込む。そこには巨大なLEDモニターがあり、過去のMCU作品の映像が流れている。また、マガジンラックにはマーベル・コミックも収納されている。

そこに天井から吊り下げられる形で登場したのは、「K.E.V.I.N.(知識拡張型映像相互接続体)」を名乗るAIドロイドだ。なんとケヴィン・ファイギの正体はAIであり、これまでのMCU作品は全てAIが「娯楽アルゴリズム」に従って考案したものだったという。

このKEVINは、『2001年宇宙の旅』(1968)のHAL 9000、『ウォーリー』(2008)におけるAUTOのようなSF作品のある種典型的な黒幕、つまり高度な人工知能が全てを牛耳っており、その実態はシンプルなモノアイカメラを備えただけの小さな筐体であるという展開へのパロディだ。また、登場人物が第4の壁を破って作者に文句を言うというのは、昔からあるコミックや漫画のメタ的なお遊びである。

映像作品としては近年、『マトリックス レザレクションズ』(2021)でも同様のアプローチが取られ、同作では製作のワーナー・ブラザースが新作について議論する様子や、登場人物はその作中のキャラクターにすぎないという極めてメタ的な視点を逆手に取ったストーリーが描かれた。

「シー・ハルク」は、そこに大胆にもMCUファンに対する知覚を導入した。MCU作品ではこの頃、VFX制作における過酷な環境が告発されており、「シー・ハルク」に対してもCGの質が低いとの批判があった。これを自虐ギャグとして扱い、「コストがかかるからジェニファーの姿に戻ってほしい」とのセリフが登場。さらに、「視覚効果チームは別の作品に移った」とのセリフと共にティ・チャラのサウンドを流し、次作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の存在を暗示した。

ジェニファーは、クライマックスにおけるMCU的典型を解体して、ラストでは「人生の迷走」「2つのアイデンティティの両立」をテーマにしたいと申し出る。KEVINが結末を再計算する傍ら、ジェニファーはMCUキャラクターにはファザコンが多いと不満を漏らす。

ファザコンというと、いわゆるマザコン同様、父親に大して異様な執着を持つことを指すが、原語では“daddy issues”と発されている。これは、父親との関係に機能不全があること、および、それに由来する心理的な諸問題を指すもので、日本語の「ファザコン」とは少し意味合いが異なる。ジェニファーはトニー・スターク、ソー、ロキ、スター・ロードを列挙したが、言語通り“daddy issues”として考えればしっくりくるはずだ。

このように「シー・ハルク」最終話は、解釈や受容を観客にブン投げるような形で、メタ的に大胆な視点を導入した。KEVINは作品の良し悪しはネット上の議論に委ねると言い、ジェニファーは『X-MEN』はいつ登場するのかと尋ねて、スクリーンのこちら側の我々に取ってグーサインをする。ジェニファーに言わせれば、「ハルクは建物を、私は第4の壁とこの結末をスマッシュする」のだ。

必然的にこのエピソードは、これまでの、そしてこれからのMCU作品への目を向け方を決定的に変えることになる。これまでの興奮や感動は、全てこのKEVINなるAIが生み出したものであり、我々ファンは存在を知覚されていると明示したのだ。MCUはマルチバースを導入したが、KEVINやマーベル・スタジオがあるこの世界は、マルチバースが生むいくつもの「アース」とはまた別に、「現実世界」として存在していたことになる。

作中でAIドロイド化されたケヴィン・ファイギは、この挑戦的な描写に一つだけ不満があったらしい。米Marvelの公式インタビューで、脚本家のジェシカ・ガオが明かしている。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューさせていただきました。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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