「エキストラはAIに置き換えるべき」有名投資家の発言が物議 ─ エキストラ出身の『シャン・チー』俳優は「愚かだ」と反論

今後、映画やドラマのエキストラはすべてAIにすればよい。そのほうが経済的にも合理性がある──。投資家でタレントのケヴィン・オレアリーによる提言が物議を醸している。
ティモシー・シャラメ主演、A24製作の卓球映画『Marty Supreme(原題)』で映画デビューを果たしたオリアリーは、ポッドキャスト「World of Travel」で撮影を振り返り、「ほぼすべてのシーンにエキストラが150人くらい出ていた」と語り、人件費や衣裳などのために「数百万ドルの費用がかかっている」と述べた。
「なぜAIエージェントを代わりに使えないのでしょうか?彼らは主役ではなく、視覚的にしか登場しません。そこで数百万ドルを節約すれば、もっと多くの映画を作ることができます。9,000万ドルを1本に使うのではなく、同じ監督で3,500万ドルをかけて映画2本を作ることができたはず。」
2025年9月、初の“AI女優”として発表されたティリー・ノーウッドは、事務所との契約に向けて準備が進められていると伝えられ、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)や実際の俳優たちを含むハリウッドの業界全体から大きな反発を招いた。もっとも、オリアリーはノーウッドにも肯定的で、「テクノロジーの進歩は止められない。だから私は大きな時間を投資しているのです」と語った。
これに直接反発したのが、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)などの俳優シム・リウだ。自身のXアカウントにて、「確かに。数百万ドルを稼いでいる表舞台の人々ではなく、時給15~22ドルで生活に苦労しているエキストラを責めるべきですね」と皮肉たっぷりに記した。
また、米Deadlineの取材にて投稿の真意を問われると、オリアリーの意見は「非常に愚かで、判断力に乏しく、実態からかけ離れている」と痛烈に批判。「最低賃金で働くエキストラたちが、製作費が高騰する原因だという考えは純粋に間違いです」と述べた。
リウ自身、エキストラやフリー素材のモデルからキャリアをスタートさせた人物だ。業界とのつながりや、映画製作の知識もなかった当時、撮影現場での経験は大きな助けになったという。
「俳優をAIに置き換えることは、私自身の俳優としての成長と相反するもの」だとリウは強調。「私と同じように、多くの人があの経験から学ぶことができるはず。この世界からエキストラを奪うことは、スキルを学ぶ機会を人々から奪うことでもあるのです」と語った。
「映画は芸術家の媒体です。あらゆるAIの活用法のなかで、芸術を置き換えることは誰もが望まないものだと思います。芸術は人間的であるからこそ芸術なのだと思います。エキストラの動きさえも含むすべてが、画面上で、物語に意味をもたらすのです。」
オリアリーが「エキストラにAIを使うのは良い例です。誰も見分けがつかない」と述べているのに対し、リウは「人間は賢いので、背景の人物の動きが人間らしくなければすぐにわかります。少なくとも今は」と反論している。
リウの主張は正当かつ一貫性のあるものだが、問題は、彼自身が口にした「少なくとも今は」という言葉だ。すでにオリアリーは自らのAIモデルを作成し、訓練を続けている。
「現在の課題は、声の違いで偽物と本物を見分けられること。しかし、1週間後にはモデルの新バージョンがリリースされます」とオリアリーは力説する。「それほど進化は速いのです。次の“AIケヴィン”では違いがわからなくなるでしょう」。
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Source: Deadline, Simu Liu, World of Travel, Variety


























