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【解説】『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』エンドロールのアノ人物は何者? ─ 夢の企画実現の立役者、ヴィラン造形にも関係

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
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この記事では、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の内容について触れています。ご注意ください。

映画では、特別な貢献をした人物への感謝を表す「Special Thanks(スペシャルサンクス)」がエンドロールの締めくくりに登場することもあるが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、ある人物にのみ捧げられた特別なクレジットが画面のど真ん中に大きく表示された。その言葉は、以下の通りだ。

“THE FILMMAKERS WOULD LIKE TO GRATEFULLY ACKNOWLEDGE THE ORIGINAL TRUE BELIEVER, AVI ARAD, WHOSE VISION LED THE WAY TO BRINGING THESE ICONIC CHARACTERS TO THE SCREEN.”

「我々フィルムメーカーは、第一人者にして真の信者であるアヴィ・アラッドに深く感謝致します。彼のヴィジョンのおかげで、アイコニックなキャラクターたちをスクリーンに登場させる道が開かれました。」

文中に記されているアヴィ・アラッドなる人物こそ、MCU最大の映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でも成し遂げられなかったサプライズを実現させた立役者。プロデューサーである彼のおかげで、『ノー・ウェイ・ホーム』を皮切りに、マーベル・スタジオ/ソニー・ピクチャーズが展開する『スパイダーマン』ユニバースはさらに大きな世界へ突入していくことになるだろう。

本記事では、アヴィ・アラッドが具体的にどのような貢献をしてきたのか、彼のキャリアを振り返っていきながら、『ノー・ウェイ・ホーム』で切り開いた“道”を改めて見ていきたい。

アヴィ・アラッド Avi Arad
Photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Avi_Arad_by_Gage_Skidmore.jpg

玩具業界で始めたキャリア

アヴィ・アラッドは、マーベル・スタジオの設立者にして元CEOという肩書を持つ人物。しかし、そのキャリアは映画&テレビ業界ではなく、玩具業界でスタートした。1980年代、アラッドは玩具メーカーToy Biz(2007年に解散)のデザイナーとして仕事を始める。1990年代にマーベル・コミック社とのライセンス契約を交わした同社は、キャプテン・アメリカやスパイダーマン、デアデビルといったマーベルの人気キャラクターの玩具製造を開始した。

また同じ頃に、マーベル・コミックがToyBizの大株主となったことを受け、同社は屋号をMarvel Toyに改称。これを機にマーベル関連作品の製造に拍車をかけていったアラッドは、「X-MEN」シリーズ最初の玩具開発に携わることとなった。

この頃から、アラッドは玩具業界で一目置かれる存在となっていた。1993年に掲載された米New York Timesの記事で、アナリストのショーン・マクゴーワンは「業界で最もアツい開発者」「子どもが求めている玩具に合う創造力がある」とアラッドを評価している。

そして同年93年、アラッドは映像製作者としてのキャリアを歩み始める。2008年からMCUを展開し始めることになるマーベル・スタジオを設立したのだ。翌94年以降、「アイアンマン」「ファンタスティック・フォー」「X-MEN」といったアニメ作品に携わるようになり、1998年にはデヴィッド・ハッセルホフ主演の「Nick Fury: Agent of S.H.I.E.L.D.」やウェズリー・スナイプス主演の『ブレイド』など、マーベルの実写作品もプロデューサーとして手がけていくことになった。

ケヴィン・ファイギとの出会い、マーベル・スタジオからの離脱

その後も『デアデビル』『ブレイド2』『ハルク』など、マーベルのコミック作品の映画化を率いていったアラッドにとって大きな出会いとなったのが、2002年の映画『スパイダーマン』。そこで、『X-MEN』シリーズ製作者のローレン・シュラー・ドナーのアシスタントを務めていたケヴィン・ファイギを見出したのだ。アラッドの手ほどきにより、ファイギは『スパイダーマン』で──クレジットこそされていないが──製作を務め、業界に本格的な一歩を踏み出すことになった。

上述の通り、マーベル・スタジオは2008年よりMCUをスタートさせたが、その2年前の2006年にアラッドはマーベル・スタジオを去っている。MCUに残留しマーベル作品をメインで作り続ける道も選べたはずだが、これからという時に自分が立ち上げた会社を去った理由は何だったのだろうか。2019年、アラッドは米Deadlineにこう語っていた。

「私にとって、今こそ前に進む時だと思いました。そこには色々な憶測がありますが、それはさほど重要ではありません。私は物事の幾つかを正そうとしただけで、それが妬み好きな人たちに“攻撃的な姿勢”だと決めつけられてしまったんです。」

アラッドが言及した“憶測”の一つとして、『スパイダーマン』シリーズ第4作を継続しようとしていたサム・ライミ監督の意向をアラッドが阻んだというエピソードがよく知られている。真相こそ定かでないが、何にせよアラッドは独自の道を進んでいったのだ。この2006年に、アラッドは製作会社Arad Productionsを立ち上げ、非MCUのマーベル作品の製作に関する契約をソニーとの間で結んでいる。

2度目の大きな独立後、アラッドが最初に取り掛かったのが、アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズだった。あわせて、スパイダーマンの宿敵たちを総結集させる「シニスター・シックス」の映画化企画も主導した。しかし、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは第2作をもって打ち切りになり、予定されていた3作目と夢の「シニスター・シックス」映画化企画は海の底へと沈んでしまった。

『ノー・ウェイ・ホーム』で叶ったヴィランへの「許し」

以降、アラッドは製作者としてトム・ホランド版『スパイダーマン』シリーズや、『ヴェノム』シリーズ、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)といったソニー製作映画を手がけてきた。そんなアラッドの最新作が『ノー・ウェイ・ホーム』というわけだが、ケヴィン・ファイギ率いるマーベル・スタジオは、なぜ同作のエンドクレジットで、アラッドへの感謝を伝えることにしたのか。それは恐らく、同作をもって『スパイダーマン』映画史が一つの大きな転換点を迎えるからだろう。

『ノー・ウェイ・ホーム』の封切り前、『スパイダーマン』作品を率いるプロデューサーのエイミー・パスカルは、『スパイダーマン』関連シリーズが「マーベル・ユニバース」「スパイダーバース」「ソニー・キャラクターが入る別のユニバース」の3つに大きく別れていることを明かしていた。そして、まさに『ノー・ウェイ・ホーム』では、この3つのユニバースが結合していく可能性が示唆されたのだ。

また、『ノー・ウェイ・ホーム』の物語には、当時アラッドが実現できなかった「シニスター・シックス」映画化企画の精神が踏襲されているとも言える。劇中では、サム・ライミ版シリーズからドクター・オクトパスやグリーン・ゴブリン、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズからエレクトロやリザードといったヴィランが別のユニバースから総結集。トム・ホランド演じるピーター・パーカー/スパイダーマンは、ヴィラン達を元の世界に帰して死を選ばせるというドクター・ストレンジの主張を押し切って、彼らを“救済”することを選んだ。このアイデアは、2014年にアラッドが米IGNに語っていた「シニスター・シックス」映画化企画の魅力と大きく重なるのだ。

「ヴィラン達はスパイダーマンを憎み続けるでしょう。自分たちと違う存在だからという理由で。でも、彼らのそれぞれにも違う人生があるんだということを考えてみると、『スパイダーマン』ユニバースがどんなに美しいのかが分かる。目を向けたら、彼らには素晴らしいストーリーがあるんです。

そして、誰もが救済を求めているんです。彼らは許されざる者だから。シニスター・シックスの一つでそういうものを見たいかと言われれば、もちろん見たいです。しかも皆さん、気に入ると思いますよ。ヴィランが(善に)戻る道を見つけた時のことを。私たちの全員が彼らを許すことになるわけですから。」

したがって、『ノー・ウェイ・ホーム』エンドロール中のメッセージは、アラッドの功績に対してだけでなく、彼が手塩にかけて育ててきたであろう過去の『スパイダーマン』シリーズをマーベル/ソニーが継いでいくことへの決意表明を兼ねたものだったのではないだろうか。それは、時に身に覚えのない非難を浴びてきたアラッドにとって、一つの救いになったはずだ。

その一方で、アラッドは今後、『モービウス』や『スパイダーバース』の続編『SPIDER-MAN: ACROSS THE SPIDER-VERSE(原題) 』2部作など、スパイダーマン関連作品にプロデューサーとして参加していく。さらに、スパイダーマンのヴィランであるクレイヴン・ザ・ハンターの単独映画も控えており、アラッドの夢はまだまだ終わらない。

Source:New York Times,Deadline,IGN

Writer

SAWADA
SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。

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