【ネタバレ】『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で行われたベンおじさんの変換、あの名ゼリフの役割とは

この記事には、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の極めて重要なネタバレが含まれています。必ず本編をご鑑賞後にお楽しみください。

トム・ホランドが演じてきたピーター・パーカーは、単独作ではなくMCUの他作品でデビューを飾ったことを含め、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが演じてきたものとはそもそもの始まりから違っていた。前2シリーズで描かれてきた「蜘蛛に噛まれるシーン」も登場せず、ピーターは最初からスーパーヒーローだ。そして彼の世界では、“ベンおじさん”が登場しない。
“ベンおじさん”といえば、ピーター・パーカーにとってのミスター・ミヤギというと少し違う気もするが、スパイダーマンとして覚醒するために必要不可欠な人物だ。ベンおじさんはある言葉で、ピーターにヒーローであることの本質に気付かせる。それが、『ノー・ウェイ・ホーム』で遂に登場した「大いなる力には、大いなる責任が伴う」の名ゼリフである。
この言葉といえば、『スパイダーマン』シリーズの導入的役割を担ってきただけに、MCU版では3部作の完結編で初登場したことに疑問を抱いた方もいるのでは。これには脚本を務めてきたクリス・マッケナとエリック・ソマーズがによる熟慮断行があり、米The Hollywood Reporterで2人は、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)までに遡る製作のプロセスを語っている。鍵を握るのは、メイおばさんだった。
ソマーズ「前2作にこの言葉を組み込めるだけの推進力があったようには思えませんでした。この『スパイダーマン』は、ベンおじさんを失うことを伝える物語では無かった。私たちは、違う段階のピーターから始めました。あの言葉はベンおじさんに紐付いたもので、今回にはふさわしい場所が無かったんです。実のところ、“これは絶対に入れなきゃ”というようにも考えませんでしたね。物語が発展していって、メイとのシーンが出来ていった時に、私たちは気が付きました。“こここそ、ピーターにとってのベンおじさんになるんだ”って。そしたら、あの言葉が出てきたんです。」
『ノー・ウェイ・ホーム』で「大いなる力には〜」のセリフが出てくるのは、ハッピーの自宅があるコンドミニアムで行われたグリーンゴブリンらヴィランたちとの戦いの時。ドクター・ストレンジの助言を押し切って、ヴィランたちを救うことを選んだピーターだったが、裏切ったグリーンゴブリンとの戦いでメイおばさんを巻き込んでしまう。背後からゴブリンに襲われたメイおばさんは何とか立ち上がり、ピーターに最後の一言を絞りだす。そこで放ったセリフこそ、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」だった。
メイおばさんを失い、1人学校の屋上で悲しみに暮れるばかりのピーターは、メイおばさんの言葉を考える余裕も無かったはずだ。この一連の展開が、本作のサブテーマの1つでもある“兄弟間の絆”に繋がっていくことになる。ソマーズは、3人のピーター・パーカーが初対面を果たすシーンについてこう語る。「屋上でのシーンで、この3人は一緒なんだ、この3人は兄弟なんだってはっきりと描くための何かが必要だと、そういうすごく強い思いに駆られました。そして彼らは神秘的にも結束していくんです。あの言葉をそれぞれに共有させることがやるべきことだと思いました」。
他方、もう1人の脚本家クリス・マッケナは、「大いなる力には〜」のセリフを第1作で用いなかったことが生み出した効果を語る。そもそも、ピーターの初登場は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)。マッケナによれば、同作のおかげで「“ベンおじさんは死んでしまっているのか?”とか、“彼(ピーター)はおじさんの死に関係していたのか?”とか、たくさんの疑問を残してくれました」とピーターについて振り返る。そこから繋がる第1作『ホームカミング』を皮切りに、ソマーズとマッケナは新しいピーター・パーカーの物語を伝えていくべく、試行錯誤の末の決断を下したのだ。
マッケナ「私たち自身も、キャラクター本来の旨味を逃していないか?というような思考は常に巡らせていましたよ。“彼にとってのベンおじさんって何だろう?”とか、“それってそれぞれのキャラクターにとって完全に同じことなのか?”とか。でも、こう考え始めました。“同じではないのかもしれない”と。たぶん、彼を導いてくれるのはメイで、彼女こそが教える立場にある人物なんだって。
彼(ピーター)は、“大いなる力には、大いなる責任が伴う”とは言いませんが、それに近いようなことを『シビル・ウォー』で言っています。“自分にできることをしなかったせいで悪い事が起きたら、それは自分のせいだ”(※)と。それが、メイおばさんから教わってきたことなんです。それで、メイはずっと彼を導いてきた存在なんだ、父親のような役割も果たしてきたんだと気がつくんです。彼らは皆、違うピーター・パーカーです。それぞれに、別の始まりがあるんです。」
(※)実際のセリフは 「when you can do the things that I can but you don’t and then the bad things happen they have to look at you so you want to look out.」
もっとも、ホランドが演じたピーターにとって、父親的な存在がメイおばさんだけだったわけではなく、その役割を果たしてきたキャラクターがもう1人いた。マッケナが「今回のピーターには唯一、人生にトニー・スタークが存在していた」と語るように、アベンジャーズを率いてきたトニーもその1人なのだ。初登場した『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から『ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』、そして『ノー・ウェイ・ホーム』までを通してピーターは、マッケナの言葉を借りると「僕はアベンジャーズにはなりたくない。別の道を行きたい」「僕はアイアンマンじゃない。スパイダーマンにしかなれないんだ」と思うようになるのだ。
メイおばさんとトニー・スターク。2人の“ベンおじさん”を失い、さらにはこの世の誰からも存在を忘れられてしまったピーター。ニューヨークのアパートの一室という、なんともピーター・パーカーらしい場所を再スタートの地に選び、窓から新しい一歩を踏み出す姿は心強い。
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Source: THR