【インタビュー】『スパイダーマン:スパイダーバース』は「誰もがスパイダーマンになれる」をいかにアニメ化したのか ─ フィル・ロード&クリス・ミラーに訊いた

「スパイダーマンのアニメ映画がアカデミー賞を獲る」。ほんの数年前ですら想像できなかったような出来事が、ついに現実となった。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は、全米公開前から絶賛を浴び、世界各国での公開後には「スパイダーマン映画史上、ヒーロー映画史上最高傑作」とすらいわれるムーブメントとなった。アカデミー賞やゴールデングローブ賞、“アニメのアカデミー賞”ことアニー賞など数々の映画賞に輝いた本作は、観客と批評家の心をどちらもがっちりとつかんだのだ。
まさに空前絶後というべき一本を仕掛けたのは、製作総指揮のフィル・ロード&クリス・ミラー。『LEGO(R) ムービー』(2014)などで知られる二人は、実写・アニメを越境してハイクオリティな作品を次々と手がけている。THE RIVERでは、作品の根幹からお二人の仕事論、そして次なる目標を直接訊いた。

現代の「スパイダーマン」を描くために
──アカデミー賞受賞、本当におめでとうございます。スパイダーマンは1962年に誕生し、60年近い歴史のなかで豊かなストーリーを数多く生んできたキャラクターですが、『スパイダーマン:スパイダーバース』で「現代のスパイダーマンの物語」をつくるため、特別にこだわられたことはありましたか?
クリス:僕たちにとって非常に重要だったのは、マイルス・モラレスのストーリーを語ることでした。そのことによって、“スパイダーマンの神話”においても現代的なストーリーを作ることができると思ったんです。これまでピーター・パーカーの物語がたくさん語られてきたなかで、今の時代ならではの方法で「なぜスパイダーマンは時代を超えて愛されてきたのか」という普遍性を描くことができると思いました。
それから大切だったのは、「僕たちみんながスパイダーマンになれる」ということ。スパイダーマンはエリートとしての背景を持っているスーパーヒーローではありません。たとえば億万長者や神様ではなく、僕たちのそれぞれと同じように普通の人なんです。マイルス・モラレスはそんなテーマを体現する新たな方法になると思いました。

衝撃的ビジュアルとストーリーの関係
──観客が一番驚かされるのは、コミックがそのままアニメになったかのような、コミックの世界に飛び込んだかのような映像表現だと思います。手描きとCGを融合した新しいスタイルでストーリーを語ろうと決めたことには、どんなきっかけがあったのでしょうか?
クリス:プロジェクトを始めてすぐ、一番はじめのころから、ほかの作品とは違うルックのアニメ映画を作るチャンスだと思っていました。原作がコミックなので、その連続性を、同じ形のままでアニメへと移し替えることを考えたんです。その時に、今までにない新しいテクノロジーを使うことで、まるでコミックの中に入ったような、没入感の強い「印刷されたコミックのアニメ版」を作る良い機会だと思いました。これは非常にエキサイティングな挑戦になると思いました。想像していたよりもはるかに大変でしたが、はじめからあったアイデアなんですよ。

──映像のスタイルを開発したことは、ストーリーテリングに影響を与えましたか? たとえば新しい表現が可能になったことで、その表現に合ったシーンを執筆したりということはあったのでしょうか。
フィル:コミックと映画は、表現の文法的にとても近いところがあります。ですから今回は、とても積極的に映画言語への刺激を与えることができました。(ストーリーを語るために)視覚的な表現をたくさん使っています。たとえば(劇中の)時間軸を前後させてみたり、テキストを画面に表示させてみたり、なるべくビジュアルで表現しようと努めました。コミックから得たインスピレーションをそのまま映画に取り込むことができました。
また、コミックは(それぞれのエピソードやキャラクターを)異なるアーティストが描くものなので、この映画では、同じ場面に登場するキャラクターを違うスタイルで描くことができました。もちろん、そのこともストーリーテリングに影響を与えているように思います。
『スパイダーバース』続編、東映版スパイダーマンは?
ところでフィル・ロードは、『スパイダーマン:スパイダーバース』に登場しなかった「東映版スパイダーマン」(1978~1979年製作)について、「米国内の興行収入が2億ドルを超えたら」続編に登場させることをTwitterにて示唆していた。2019年3月5日(米国時間)現在、米国興収は1億8,700万ドルを突破している。
──2億ドルを超えたら、本当に東映版スパイダーマンを続編に出してもらえるんでしょうか…?
フィル:えーっと……(笑)、今の段階で具体的なお約束はできないんですが、日本のスパイダーマンやレオパルドンを登場させられたら、(続編は)本当にスペシャルなものになると思います。すでにコミックでは、ダン・スロット(ライター)の書いた『スパイダーバース』で実現していますよね。僕たちはコミックからインスピレーションをたくさん得ているので、実現したいと強く願っているんです。とても楽しいものになると思いますからね。
──お願いします! 楽しみにしている日本のファンは多いと思います。
クリス:僕も楽しみです(笑)。
チームで映画をつくること
──日本では1人の監督がチームを引っ張って映画を作るケースが多いのですが、今回はお二人のほか、さらに監督が3人(ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン)いらっしゃいますよね。5人のチームで映画を作ることの良いところってなんでしょうか?
クリス:この映画はとても野心的な作品です。映画づくりのあらゆる側面において、なにをするにしても野心的。とにかく、今までにないことをやろうとしていました。ストーリーやアニメーションのスタイル、脚本、音楽、それらすべてで限界を超えようと。これは本当に、本当に大変な仕事です。そこで僕たちを助けてくれる、非常にスマートかつクリエイティブな方々を次々に迎えることにしました。その結果として、最終的に今回のチームができあがったんですね。
ただしこれは、全員が作品についてまったく違う視点を持つという事態も起こりうる状況です。けれども僕たちは、幸いにもみんなが共通のビジョンを持っていました。どんなトーンにするのか、映画の目標はなにか。みんなが同じゴールに向かって仕事をしていたんです。だから、映画を完成させるために仕事を分けることができました。それほど規模の大きい映画なんですよ。

──チームで作業をしていて、たとえば議論になったり、それぞれの意見が違ったりした時には、どうやって解決策を見つけていたんでしょうか?
フィル:(同時に)僕たちは、
クリス:(同時に)えっと、
フィル:クリスから言ってよ。
クリス:君から、君からどうぞ。
フィル:つまり、コラボレーションの楽しみは――もちろん意見が合わないこともありますが――多くの場合、みんなで解決策を見つけられるところにあるんです。そうしたほうが、だれか一人だけで見つけた解決策よりも良くなります。ほかの人たちにもアイデアはあるし、お互いの視点を理解するため、映画について深く話し合うんです。どの選択が観客にとってより良いのか、といったふうに。いつもお互いに学び合っていて、まるで映画学校に通っているようでしたね。
クリス:考えが合わないということは、僕たちにとって非常に価値のあること、大切なことです。なぜなら僕たちが扱っているのは、(映画の)原料となるものだから。そこからクリエイティビティが生まれてくるんですよ。
フィル・ロード&クリス・ミラー、次の目標
──最後に、次はどんな映画を作りたいのか、そしてアカデミー賞の次の目標を教えてください。
クリス:ゆっくり昼寝したい(笑)、休みを取りたいですね。……(改まって)とにかく、これからも学びつづけたいと思います。
フィル:挑み方のわからないプロジェクトに挑戦したいです。とにかく困難な状況に自分たちを置くことが、学びつづけるためには一番ベストな方法だと思っていますから。次回はまた、答えの出し方がわからないプロジェクトを探したいですね。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は2019年3月8日(金)より全国公開中。
『スパイダーマン:スパイダーバース』公式サイト:http://www.spider-verse.jp/
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