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【ネタバレ】『スパイダーマン:スパイダーバース』にスタン・リーが遺したもの ─ カメオ収録秘話、複数の登場シーン、作り手の思い

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は、スパイダーマンの生みの親であるコミック界の巨匠、スタン・リーとスティーブ・ディッコに捧げられた作品だ。スタンは2018年11月、スティーブは2018年6月、ともに本作の公開を待たずしてこの世を去った。

長年マーベル映画にカメオ出演してきたスタンは、『スパイダーマン:スパイダーバース』において、本人史上もっとも重要な存在として劇中に登場する。スタンの死後はじめて公開された出演作品でもある本作は、それゆえに、製作陣も予想しなかったほど大きな意味をはらんだ作品となった。

製作総指揮のフィル・ロード&クリス・ミラーをはじめとするクリエイターたちは、スタンの出演シーンがいかにして作り出されたのかをそれぞれに証言している。シーンに込められた意味と製作秘話の数々を、ここではじっくりと紐解いていきたい。

この記事には、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のネタバレが含まれています。

スパイダーマン:スパイダーバース
SPIDER-MAN: INTO THE SPIDER-VERSE

スタン・リー、スパイダーマンのスーツを与える

「この映画の精神に欠かせない人だから、ちょろっと通り過ぎるようなカメオにはしたくなかった」

製作当時を振り返ってこう語るのは、製作総指揮を務めたクリス・ミラーだ。米Fandangoのインタビューにて、クリスとフィル・ロードは、スタンを「もっと重要な、映画にエモーショナルな重みをもたらす存在にしたかった」と話している。

フィル:スタンはスティーブ・ディッコとともにキャラクターを生み出した人ですから、マイルスにお守りのようなものを渡してもらうのはどうかと考えたんです。だから彼は、マイルスにスパイダーマンのスーツを与えて、“返せないよ”と言う。とても大切な場面だと思いました。

©THE RIVER

『スパイダーマン:スパイダーバース』の序盤、ピーター・パーカー/スパイダーマンは、キングピンの手によって命を奪われてしまう。ニューヨークの街が悲しみに暮れるなか、主人公マイルス・モラレスはピーターから託された「キングピンの加速器を止める」という任務を果たすべく、スパイダーマンのスーツを買い、ピーターの葬儀に参加するのだ。

スタンが本作で演じたのは、マイルスがスーツを買う店の主人役。脚本には、この場所の名前は「スタンのコスチューム・ストア」、マイルスは「コミックブック・オーナーによく似た」店主からスーツを買うと記されている。ピーターの死を受けて、店主は「寂しくなるよ、わしらは友達同士だったんだ」と一言。マイルスがスーツを見て「サイズが合わなかったら返品できる?」と聞くと、店主は「サイズは合う、いつかね」と笑顔を見せた。ところが、彼の背後には「返品不可」のパネルが見える……。

スパイダーマン:スパイダーバース

収録秘話、スタンのセリフは脚本から変更されていた

Vanity Fairによると、スタンが店主として登場するシーンの収録は、スタンの妻ジョアンさんが2018年7月に亡くなった後、さほど間を空けずに行われたとのこと。三人の監督の一人、ピーター・ラムジーは「収録に来てもらえるかわかりませんでしたし、お願いするのは適切ではないとも思いました。どれくらいの時間、収録に付き合ってもらえるのかもわからなかったんです」と振り返っている。

しかしプロデューサーのアヴィ・アラッドは、これまでにもスパイダーマンの映画やアニメを手がけてきたゆえにスタンとの関係が深く、スタンが映画へのカメオ出演を大切に考えていることを知っていた。

アラッド:(スタンは)カメオの役を演じるのが大好き。なによりも大切にしていましたよ。自分という人間や、自分の生み出したものがずっと残っていくことを彼は理解していましたからね。それから、ファンが自分の登場するシーンを好きでいてくれることも。

また、同じく監督の一人であるロドニー・ロスマンは、この場面でスタンが話すセリフが収録中に変更されていたことを米IndieWireにて明かしている。

ロドニー:興味深かったのは、シーンが変化していったことです。[中略](収録では)もっと愉快になるように、もっと渋いシーンになるように、といろいろ試したんですが、最終的に映画に使ったのは非常に深い意味をもったセリフでした。

実は収録当時の脚本では、マイルスが「サイズが合わなかったら返品できる?」と尋ねたあとの店主のセリフは「合うことはないぞ(Never fits.)」だったという。収録で試行錯誤が重ねられる中、このセリフは「サイズは合う、いつかね(It always fits. Eventually.)」に変更されたのだ。ロドニー監督によれば、その理由は「子どもにスーツを着せられるだけの言葉をスタンが届けなければいけなかったため」だったとか。

本作でスタンは、マイルスだけでなく、世界中の観客に強いメッセージを贈ったことになるだろう。スーパーヒーローのスーツを受け取ったものは、いかなる理由があってもスーツを返すことはできない。しかしいずれ、彼/彼女たちはそのスーツに見合った人間になる。この願いは、かの有名な「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉や、スタンが生み出した「スパイダーマン」のストーリーに通じているものではないか。

スタン・リーはひとりじゃない?

「この映画の精神に欠かせない人だから、ちょろっと通り過ぎるようなカメオにはしたくなかった」。クリス・ミラーが言葉にした製作チームの思いは、また別のかたちでも作品に織り込まれている。スタンは店主としてだけでなく、「ちょろっと通り過ぎるカメオ」としても登場しているのだ。しかし、それはたった一度の話ではなく、スタンは本編のあちこちに出現しているのである。監督のボブ・ペルシケッティは「スタンはニューヨークのあちこちにいます。忙しい人ですからね」と述べた。

そのうちのひとつを、アニメーターのニック・コンドウが明らかにしている。米国ではBlu-rayの発売が迫っていることもあり、「コマ送りを楽しんで!」と書いて、映画のラスト、マイルスがニューヨークを飛び回るシーンの映像を投稿したのだ。

劇場で気づけるはずがない…! そしてこれに反応するかたちで、クリス・ミラーも別の登場シーンをひとつ明らかにしていた。

「電車の隠しカメオに興奮したみなさんへ。スタンは映画の全編に何度も何度も出ています。マイルスが“サンクス、ニューヨーク”と言うところで、彼をまたいでいくのは誰でしょう?

スタンの精神やメッセージを映画に取り込むことに成功した『スパイダーマン:スパイダーバース』には、文字通り、スタンの存在が全編に息づいていたのだ。ほかの“隠れ登場シーン”は、日本でのBlu-rayリリースを楽しみに待つことにしよう。

スタンの言葉、そしてクリエイターの敬意

『スパイダーマン:スパイダーバース』のエンドクレジットには、スタン・リー自身の語った言葉が差し込まれる。

「そうすべきだから、それが正しいことだから、という理由だけで誰かを助けられる人こそが、まぎれもなく真のスーパーヒーローだ。」
(That person who helps others simply because it should or must be done, and because it is the right thing to do, is indeed without a doubt, a real superhero.)

これはスタンによる発言の後半部分を抜粋したもので、前半には「ヒーローの定義とは、誰かの幸せを思いやれること、たとえ見返りがなくとも彼らを助けるために自分の道を行けることだ」と語られている。

本作を手がけたクリエイターからは、2018年に死去した“スパイダーマンの生みの親”ふたりに対して、「スタン・リー、スティーブ・ディッコ、ありがとう。僕たちは一人じゃないと教えてくれて」とのメッセージも送られている。この言葉を映画の締めくくりに用意することは、スタンの訃報が製作チームに伝えられた直後に決められたのだそうだ。

東京コミコン2018 追悼 スタン・リー
「東京コミコン 2018」では、会場に集まったファンからスタン・リーへのメッセージが寄せられた。 Photo: ©THE RIVER

ボブ・ペルシケッティ監督は、「二人がいなければ、僕たちの誰もここにはいなかったでしょう」と述べている。「かつて存在した、そして今もなお存在する彼に感謝します。この映画の中で、彼が創作の助けとなったあらゆるコミックの中で、彼はずっと生きているんですから」。

ちなみに製作総指揮のフィル・ロード&クリス・ミラーは、『スパイダーマン:スパイダーバース』の製作に入るよりもはるか以前、2003年にスタンと初めて会ったという。「なにかご一緒できるかもしれない」として、スタンの好意によって面会が叶ったのだそうだ。ところが、そこで二人はスタンの底力を目の当たりにすることになったという。

「最初は僕たちがアイデアを提案するつもりだったんですが、最終的には彼にアイデアを提案してもらっていました。45分のミーティングで、(スタンから)アイデアが7つ以上出てきたんです。まさしくアイデア・マシンのような方でした。まるで呼吸をするように、勝手に創作が始まってしまうような。」

フィルは「一緒に作品をつくることができて、本当に幸せに思います」と述べた。「(スタンが亡くなってから)出来上がった映画を観ると、別の意味が生まれていて、心が動かされるんです。彼のシーンは、とても心に残るものになりました」。

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は2019年3月8日(金)より全国公開中

『スパイダーマン:スパイダーバース』公式サイト:http://www.spider-verse.jp/

Sources: Fandango, IW, VF, THR, CyberSpacers

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

THE RIVER編集部。わかりやすいことはそのままに、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすくお伝えしたいと思っています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp へ。

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