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【あなたの知らないスター・ウォーズ】世界一有名な映画タイトルロゴ、そのデザイン変遷とナチズム論争

『スター・ウォーズ』という映画が、ポップカルチャーを代表する存在に成りえた最大の要素とは何か?拙稿の関連記事では何度か言及しましたが、僕はその答えは、オリジナル三部作における「優れたデザイン」にあったと考えています。ストーリーそのものよりも、世界観、キャラクター、メカニック、音楽に至るまで、映画を構成するあらゆる分野においての「説明を必要としない」デザインが抜きんでて優れていたからこそ、文化や信仰を問わず世界中の観客の心を捉え、後の他に類を見ないマーチャンダイジングの大成功、そしてポップアイコン化へと至ったことは、もはや疑いようがありません。
今回は、そんな「スター・ウォーズにおけるデザイン」を語る上で、欠かすことができない重要な要素であるにも関わらず、ここ日本ではあまり語られていない事柄、『スター・ウォーズ』タイトルロゴに纏わる話です。

『スター・ウォーズ』ロゴデザインの変遷

https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/

読者の皆さんが『スター・ウォーズ』と聞いて真っ先に思い浮かべ、ファンならば、本屋や雑貨屋、洋服屋で見かけるたびに足を止めるであろう上のタイトルロゴ。今となってはこのロゴがない状態が想像できないほど定着し、またスター・ウォーズの作品世界を端的に表現することにおいても秀逸としか言いようがないデザインです。しかし、このタイトルロゴは最初からこの形というわけではありませんでした。

https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/

上の画像は、最初期のタイトルロゴです。手がけたのはコンセプト・アーティストのラルフ・マクォーリー。「Futura Display」というフォントを加工して作られています。このロゴが生まれたのはまだ撮影も始まっていない時期で、イメージアートの人物はルークとハン・ソロの中間のような姿ですし、「STAR WARS」の前に「THE」が付いているのも印象的です。このアートワークはフィルムを入れる缶のためにジョージ・ルーカスがマクォーリーに依頼したものです。

https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/

そしてこちらが二番目のタイトルロゴ。上段の画像は1976年のサンディエゴ・コミコンでの一枚です。このデザインはVFXアーティストであったジョー・ジョンストンによるもので、「Precis」というフォントファミリーを加工して作られています。「THE」という冠詞も外されました。いかがでしょう?だいぶイメージが違いますよね。何となく下着メーカーを想像してしまうのは僕だけでしょうか。一時期はこのロゴで確定近くまで行き、マクォーリーもこのロゴを使って何点かのポスター用イメージを描いています(上段下画像)

https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/

変化があったのは1977年、映画の公開直前。まずデザイナーのダン・ペリが、画面奥の消失点に向かって流れていくオープニングロールに合わせタイトルロゴをリデザインします。このロゴは実際に初期のポスターや広告に使われました。

http://gizmodo.com/how-the-star-wars-logo-got-confused-with-nazi-typograph-1713065510
http://gizmodo.com/how-the-star-wars-logo-got-confused-with-nazi-typograph-1713065510

そしてこのダン・ペリ版のデザインを受けて、当時採用されたばかりの女性アートディレクター、スージー・ライスがデザインしたのがこちら。ここに来て、ようやく我々がよく知る形となったのがお分かりいただけると思います。このロゴは、最終的にはジョー・ジョンストンによって「W」部分が手直しされますが、使用フォントといい、特徴といい、『スター・ウォーズ』のロゴデザインは、スージー・ライス、彼女の手によるものと言ってよさそうです(ダン・ペリの功績の方が大きいという説もあります)。

ところが、後になってこの最終版のロゴは、現在まで長く続く物議を呼んでしまいます。

ナチズム論争

http://suzyrice.com/2005/06/happy-fathers-day-2/
(画像向かって左がスージー・ライス氏) http://suzyrice.com/2005/06/happy-fathers-day-2/

時は1976年後半、LAの広告代理店Seiniger Advertisingでアートディレクターとして働いていたスージー・ライスは、映画配給会社20thセンチュリーフォックスから、撮影中のスペースオペラ『スター・ウォーズ』の劇場向けパンフレットのデザインを依頼されます。ルーカスフィルムとコンタクトをとったライスは、当時LA郊外のヴァン・ナイスに所在していたILMを訪れ、ジョージ・ルーカス監督本人と面談しました。そしてその際に、クライアントであるルーカス監督本人から、観客に強いインパクト、威圧的な印象をあたえる「非常にファシスト的な(very facist)」ロゴをデザインせよとの指示を受けます。偶然にも、ルーカス監督に会う前の晩、ドイツのタイポグラフィーに関する書籍を読んでいたライスは、自らが考えうる「最もファシスト的」な書体として「Helvetica Black」を選び、この書体を用いてデザインしたのが前段のロゴです。

これだけなら特に問題なかった(デザインにおいて何から何を着想の源にしようが問題ないという意味です)はずなのですが、後になってライス本人がルーカス監督との前段「ファシスト」云々のやり取りを公の場で明らかにしてしまったことにより、このロゴは様々な批判に晒されることになります。

まず読者の皆様にご承知いただきたいのは、特に欧米においては「ファシスト」から連想する「ナチズム」に対するアレルギーが日本国内の事情とは全く異なり、激しいものであるということです(歴史を鑑みれば当然ですが)。よってライスがデザインしたタイトルロゴも、「ナチ」のタイポグラフィーを参考にしているならけしからん、使用を即刻中止すべきだという話になりました。
ところがここからがややこしいのですが、使用された書体、「Helvetica」の歴史に詳しい有識者からもクレームがつきます。批判の内容をかいつまんで言うと「Helvetica」という書体は1957年、スイス人のマックス・ミーディンガーとエデゥアルト・ホフマンによってデザインされたものです。第二次世界大戦より後の世にできたものであり、また元となったと言われている書体もファシズムとは関係ありません。当然「Helvetica」書体が「ナチ」による「ファシズム」のプロパガンダに用いられたことはなく、ナチから連想して「Helvetica」を使用したならば言いがかりもいいところで、迷惑だから使用を止めろというものです。実際当時のナチ党が宣伝に使ったポスターデザインを見ても、「Helvetica」や、それに似たフォントを多用している印象はない事が判ります。

http://musey.net/mag/90
http://musey.net/mag/90
http://musey.net/mag/90
http://musey.net/mag/90
http://musey.net/mag/90
http://musey.net/mag/90

舌禍とはまさにこのことで、これらの批判は突き詰めれば、ひとえに前述のスージー・ライス本人の若干の事実誤認に基づく発言のみを原因としています。その影響はライスが手がけたロゴデザインそのものの秀逸さや、デザイナーとしての彼女の力量さえ霞ませてしまうものでした。

今日において、ジョージ・ルーカスに代わってスター・ウォーズのフランチャイズとなったディズニーの関係者は様々な場面で、「スター・ウォーズに政治的メッセージはない」旨の発言を繰り返しています。しかし、『スター・ウォーズ』オリジナル三部作において、ジョージ・ルーカスがナチスドイツを帝国軍のモチーフにしたことは、帝国軍歩兵「ストームトルーパー」の名称や、帝国軍の選民思想、将校の制服などから明らかです。そしてファシストという言葉から連想する国は当然のことながらドイツであり、よってスージー・ライスがルーカスの指示から「ドイツ的なデザイン」を着想したのは自然な流れと言えます。また「Helvetica」は簡素で落ち着いた書体ながら、デザインに用いた際の汎用性に優れた書体で(日本でもJRが駅名のサインに使用しています)、様々な企業のロゴやコーポレート・タイプに使用されており、その中にはルフトハンザ航空や、ドイツ鉄道、BMWなどのドイツを代表する超有名企業が名を連ねています。ドイツからこの書体を連想するのもまた容易であったというわけです。

 「一度見たら忘れられないデザインを」…ジョージ・ルーカスが、ライスに依頼したオーダーはこの上ない形で実現したにも関わらず、不幸な行き違いにより関係者に後味の悪い思いを残してしまうこととなりました。僕らが慣れ親しんだ、目にしただけで気分が上がる『スター・ウォーズ』のタイトルロゴ。その成り立ちにはこういった一筋縄ではいかない歴史があるというお話です。

Souce:http://gizmodo.com/how-the-star-wars-logo-got-confused-with-nazi-typograph-1713065510
https://www.visualnews.com/2013/08/16/the-storied-evolution-of-the-star-wars-logo/
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Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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