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映画『ハドソン川の奇跡』初登場ランキング2位!155人を救った魔法使いサリー機長の真実の物語

クリント・イーストウッド監督の話題の新作『ハドソン川の奇跡』
音楽は控えめで女性のファルセットとピアノのみです。淡々と進みますが、時系列でつなげていない秀逸な構成力に惹き込まれます。

【注意】

この記事は、映画『ハドソン川の奇跡』のネタバレ内容を含みます。

208秒の決断がどう取り扱われたか

1549便がハドソン川に不時着水し、機長は155人全員の命を救って万歳!というストーリーではありません。飛行機のシーンは全て回想。サレンバーガー機長は世間では英雄と呼ばれていたにもかかわらず、国家運輸安全取引委員会(NTSB)に疑いをかけられます。その疑いを晴らすまでの『USエアウェイズ1549便の不時着水のその後』がメインです。
冒頭、飛行機がビルに突っ込む悪夢から目が覚めるサレンバーガー機長。ボーッとしてそばを走っている車に気づかなかったり…。フラッシュバックという心理現象が起こり、明らかにそれはPTSD(心的外傷後ストレス障害)。ホテルで缶詰め状態のサレンバーガー機長に、自宅にいる妻も「これからどうなるの?ローンもあるし…」と心配し、ますます不安になります。委員会からすれば、155人の命を危険にさらした機長の判断の正否を確認するのは当然のこと。でもPTSDで苦しんでいる機長が何故そんな想いをしなければならないのでしょうか。

1回目に、1549便が鳥と衝突して片方のエンジンだけ損傷した映像を見せるのは上手いです!その後、「エンジンは両方とも停止した」と報告する機長に「え?」と思ってしまうからです。少しずつ真実を見せていく手法は本当に見事です。

 

自信と過信、そして経験

「自信があった」と言う機長。その自信に裏付けられたものは“42年の経験”です。経験から自信が生まれます。過信とは、価値や力量(技量)などを高くみすぎて信頼しすぎること。また、過信は経験を伴わない想定や想像にすぎません。機長は過信ではなく真の自信があったのです。

船着き場の近くに着水させるなど、着水の仕方(角度)や、その後どうするか頭の中でちゃんと考えていたに違いありません。若い頃の回想シーンにあった「学び続けろ」の教え。機長は普段からそれを守り、訓練を怠らなかったのです。“大勢の大切な命を預かっている”という自覚が常にあったんですね。

それにしても、コンピューターと現実はかけ離れていることがあり、42年の経験や能力よりもコンピューターを信じてしまうのは恐ろしいことです。
機長と副機長の機内の録音記録を皆で聴くシーンの緊迫感!どんな説明よりも、このリアルなやり取りに勝る“絶大な説得力”は存在しないのではないでしょうか?

原題『SULLY』と9・11

経験や的確な判断力に加えて「だれも死なせない」という強い想い。信念。
「なぜまだ制服を着てるの?」という問いに答えられません。それはまだ緊張していたことを表しています。実直さの象徴ですね。

訓練生の頃の「笑顔でいろ」という教え。当然ですがトム・ハンクスの笑顔は最後にやっと見られました。
写真やプライベートでは、いつもにこやかなサレンバーガー機長です。そして笑顔は幸運を引き寄せます。

「生存者は?」
「155人」と聞いて涙ぐんだサレンバーガー機長。緊張感からやっと解き放たれた瞬間でした。

原題の『サリー』は、サレンバーガー機長の愛称で、イーストウッド監督の機長への尊敬と親しみが込められています。イーストウッド監督は、機長が大好きだからこの原題にしたんですね。『SULLY』(本来の邦題『サリーさん』)
それは、イーストウッド監督の「サリー機長は155人の命を救っただけではなく、9・11のトラウマを癒しアメリカ全体を救ったんだ」というコメントからも解ります。視野の広さと柔軟な考え方に脱帽です!

奇跡は起こすもの

  • 「君が誇らしい」とねぎらわれた副機長。
  • 近くにいる航空機に呼びかけ、沿岸警備隊などの協力を要請した管制塔の担当者の迅速な対応。
  • 「頭を下げて、姿勢を低く、身構えて!」と何度も乗客に声をかける客室乗務員たち。
  • 凍える寒さの中、必死に救助する人々。
  • 二人だけ勝手な行動をした乗客がいましたが、ちゃんと指示に従った乗客の方々。

サレンバーガー機長は、いつも真摯な態度で職務を果たし周りから信頼され、機長自身も関る人々を“プロフェショナルだ”と信頼していたのです。

通りかかったフェリーが助けてくれたのは偶然でしょうか?
火を噴かずに不時着水できたのはラッキーだから?
豊富な経験と技量、判断力、責任感、尊い信念、信頼(チームワーク)、そして直感。
これだけポジティブなエネルギーがあれば奇跡は起こせるものなんですね。

「私のパイロットとしての42年間は、この瞬間のためにあったのだと思います。」
当時、機長がインタビューで答えた言葉が、この真実の物語です。

過去の作品と同じく心情を映像のみで語らせる本作。
機長としての“人間”サリーを描き切ったクリント・イーストウッド監督はさすがです。

Writer

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プルーン

ピアノ教師、美容研究家、ライターetc.

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