あの事故の向こう側、もっと別の領域にあるモノを描く『ハドソン川の奇跡』レビュー

映画『ハドソン川の奇跡』評価・感想

ニューヨークで実際に起きた航空機事故を、クリント・イーストウッド×トム・ハンクスのタッグで映画化。
2009年1月15日
155名を乗せた航空機 USエアウェイズ1549便は、鳥の群れとの衝突によってエンジンが故障
機長 サリー(トム・ハンクス)の機転により、ハドソン川への緊急着水を成功させ 乗客155名全員が無事生還した。
その奇跡的な出来事はサリーを一躍英雄へと押し上げるが、責任の所在を調査する国家運輸安全委員会の追求を前に サリーの心は困惑し疲弊していく。
奇跡の価値を 人の善意を 人の強い意志を描いた作品だ。

本来「奇跡」とは、人の裁量などでは推し量ることのできない事柄を指す言葉ではないだろうか。

そこに疑いの余地が 道理が求められた時点で、それはもう「奇跡」と呼ぶには相応しくないのかもしれない。
「奇跡」が持つはずの輝きはすでに失われている。

不可能を可能に
哀しみを喜びに
絶望を希望に

これらは、絶対的に抗うことの叶わない状況がまずあってこそ成立する話のはずだ。

初めは思っていた。
全員助かったんだからいいじゃん!と。

感情的に考えたのならそれでいい。
だが、理性的に考えたのならそうもいかない。

二度と同じ事故を起こさないため
そのリスクを無くすため
原因究明にあたるのは至極当然のことだ。

明るみになってくる可能性の数々
それは先に述べた絶対的に抗うことの叶わない状況とは相反する

別の選択肢もある中でのハドソン川への着水となると、それはもう「奇跡」とは呼び難い。

もしかしたら他にも道があったのではないか
乗客を危険に晒さずに済む方法があったのではないか
自分が見落としていたことが
自分に落ち度があったのではないか

あの時ああしていたら こうしていれば
そんな「たられば」に囚われた心には苦痛が伴う。

あなたもぼくもそのツラさは知っているはずだ。

自責の念に心を蝕まれたが最後、抜け出すことは容易ではない。
それを払拭するだけの力強いモノが必要になってくる。

サリーにも 乗客にも 国家運輸安全委員会の面々にも悪意はない

だからこそ、観ていて胸が痛む
理不尽に感じた想いのやり場が 矛先が見出せない。

そもそも、誰かが悪意を持って引き起こした出来事でもない。
いっそ明確な悪がいたのならどれだけラクだっただろうか。

冒頭においては「助かったんだから別にいいじゃん!」と思えていたぼくの心は、描かれていく人間模様を目の当たりにして変化していた。

疑惑を持ってしまっていた。

観客の心にそれらの想いを定着させた上で、はじめて事故当日の様子が描かれ始める。

事故後→事故当日→事故後の更にその先
この描き方は最早確信犯だ。
そして、非常に効果的であった。

それまで描かれた疑惑によって、観客は疑いの眼差しで事故当日の様子を見てしまう。

名も知らぬ乗客達のバックボーンを感じさせてくれるのは、乗客=観客の感覚へと誘うためだ。

気が付けば、国家運輸安全委員会の一員に 乗客のひとりになったかのような気持ちでスクリーンを眺めていた。

サリーの落ち度を探すかのように見ている自分がいた。

実話である以上、話の行き着く先は分かっている。
当時のことを記憶している人もいるだろう。

だが、今作で描かれていたのはもっと別の領域にあるモノであった。
報じられる情報だけでは読み取れない部分 感じ取れない部分
目には見えない人の想いを丁寧に描いていた。

ハドソン川で起きたこと
それは奇跡でもなんでもなかったのかもしれない。

関わった皆の意志が
助かろうと 助けようという想いが
目の前のことに真っ直ぐ向き合う心が
それらすべてが合致して起きた現象でしかない。

人の力によって起きた事実でしかない。

いや、それこそが本当の意味での「奇跡」と呼ぶに相応しいのかもしれない。

人の強い意志があってこそ「奇跡」は呼び起こされる。

ぜひ劇場でご覧ください。

クリント・イーストウッド監督の匠の技!短いながらも濃密な96分『ハドソン川の奇跡』レビュー

 

About the author

映画アドバイザー 元俳優 ライター 映画イベントMC。Instagramを中心に最新映画から懐かしの映画まで幅広く紹介。「ファイトクラブ」 「GO」「男はつらいよ」がバイブル。好きな監督はウディ・アレン。お仕事のご依頼はa.safety.pin.storm@gmail.comまでお願い致します。

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