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クエンティン・タランティーノ、戦後ハリウッドと外国映画を描く小説を執筆中 ─ 第二次世界大戦の元軍人が、黒澤明作品に出会ったら

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 来日記者会見
© THE RIVER

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で、自身が幼少期を過ごした1960年代のハリウッドを描いたクエンティン・タランティーノ監督が、今度は自分が生まれる以前のハリウッドに迫ろうとしている。全米監督協会(DGA)の季刊誌で巨匠マーティン・スコセッシと対談したタランティーノは、ただいま小説を執筆中であることを明かし、その内容についてもわずかに語ったのである。

「今、僕は本を書いているんです。かつて第二次世界大戦(の戦場)にいて、そこでたくさんの殺戮を見た人物が出てきます。(戦争が終わり)1950年代、彼は家に戻ってくるんですが、もう映画に反応しなくなっている。自分が経験してきたものの前では、映画は子どものお遊びに思えてしまうんです。彼が憂慮するのは、ハリウッドの映画はただの映画だということ。そこで突然、黒澤(明)や(フェデリコ・)フェリーニといった外国映画についての話を聞き始める。そして、“あれ、インチキのハリウッド映画よりも良いかもしれないな”と思うんですよ。」

整理すれば、第二次世界大戦に従軍していた元軍人の男が、1950年代にハリウッド映画に面白味を感じることができなくなり、日本やイタリアで作られた映画に惹かれていく物語だということになる。タランティーノいわく、主人公の元軍人は、外国映画に魅力を覚えつつも「好きな映画もあれば、好きじゃない映画もあり、理解できない映画もある。けれども自分が何かに惹かれているのは分かる」のだとか。映画を通じて異文化に接し、異文化を受容するという、映画というメディアの持つ重要な側面に切り込む一作となりそうだ。

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 来日記者会見
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』来日記者会見にて © THE RIVER

もとよりタランティーノは、自分が育ってきたハリウッドの映画はもとより、日本やイタリア、フランスなど世界各国の映画に精通する“シネフィル”として知られる。しかし今回、ストーリーテラーとして過去の海外映画を描くにあたって、新たな方法でリサーチに取り組んでいるようだ。

「素晴らしい機会を得ていることに気づきました。ある時は(映画を)見直して、またある時には、ずっと話に聞いていた映画を初めて観ていますが、キャラクターの視点から映画を観るんです。だから映画を楽しむと同時に、“彼はどう観たんだろう、どう受け入れたんだろう”とも考えているんですよ。僕はいつでも、映画の落とし穴に落ちる時には良い言い訳が欲しいと思っているんです。」

すでにタランティーノは黒澤明の名前を挙げているが、2019年8月、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のプロモーションで来日した際には、蔵原惟繕監督の『俺は待ってるぜ』(1957)に「度肝を抜かれた」と語っていた。小説の舞台は1950年代ということで、この作品に言及される可能性もありそうだ。小説の完成、刊行、そして邦訳を今から楽しみにしたい。

なお、タランティーノは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に続く長編映画第10作をもって映画監督を引退する意向。その後も小説や戯曲の執筆など創作には関わり続けるということだが、その試みはすでに始まっているようだ。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は2019年8月30日(金)より全国公開中

Source: DGA

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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