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『TENET テネット』米公開延期の背景にノーラン監督とワーナーの「緊迫した議論」 ─ 映画業界復活の狼煙は上がるか

クリストファー・ノーラン Christopher Nolan
© LFI/Avalon.red 写真:ゼータ イメージ

2020年6月13日、クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』の米国公開日が、2020年7月17日(金)から7月31日(金)に2週間延期されることが発表された。この背景には、ノーラン監督とワーナー・ブラザース側の緊迫したやり取りがあったという。米The New York Timesが報じた。

新型コロナウイルスの感染拡大により、米国では2020年3月中旬から映画館の営業が中止されてきた。営業再開の動きが出てきたのは、それから2ヶ月以上が経過した6月に入ってからのこと。しかし、コロナ禍の影響が甚大なニューヨークやロサンゼルスでは7月中旬の営業再開は難しいとみられ、しかも観客が映画館に足を運ぶかどうかも未知数とあって、報道によると“大手スタジオは劇場公開の再開には前向きだが、先陣を切りたいとはどこも考えていない”という。

そんな中、映画業界復活ののろしを上げる作品として注目されてきたのが、『TENET テネット』と、ディズニーによる実写版『ムーラン』だった。もっとも公開が近づく中、ワーナーは、『TENET テネット』が製作費2億ドル以上の大作であることも鑑みて、公開延期の方針に傾いていたという。一方のノーランは、かねてより劇場体験を守るよう熱心に訴えており、今回も予定通りに公開したいという意向を示した。両者の議論は緊迫する場面もあったというが、ノーランが作品ごとに優れた興行成績を示してきたことを尊重し、ワーナーは「ノーランを満足させたい」との判断に至ったとされる。おそらくは、その妥協点が2週間の公開延期だったのだろう。

なお、米国最大の映画館チェーン「AMC」は7月にも世界的に営業を再開する方針だ。スタジオが映画館の営業再開状況に留意するかたわら、映画館側も『TENET テネット』の公開予定に大きな関心を払っている。スタジオ側は興行のために映画館の営業再開を求め、映画館側は客足を取り戻すために大作映画の公開を求めているという、いわばお互いに支え合わねば立ち上がれない状態といえよう。全米劇場所有者組合は、映画館の営業再開に向けての取り組みを、ワーナー側には随時知らせてきたことを明かしている。

『TENET テネット』の公開延期によって、6月16日現在、業界再開後のハリウッドで初めて映画館に登場する大作は『ムーラン』(7月24日米国公開)となった。もっとも専門家の中には、『TENET テネット』よりも『ムーラン』のほうが興行的には有利だろうとの予測もある。厳しい外出制限期間を経て、子どもと一緒に何かしたいと考えている両親や家族にとっては、ディズニー・ブランドの安心感や、よく知られた物語に惹かれるのではないか、というのだ。一方、大半が謎に包まれたままの『TENET テネット』は、そういった層への訴求力がどうしても低くなってしまう。

ちなみに『TENET テネット』が本来公開される予定だった7月17日からは、ノーランの代表作『インセプション』(2010)の製作10周年記念上映が米国で実施される。この上映には『TENET テネット』の特別映像も含まれており、来たる最新作に向けてファンを盛り上げる構えだ。

Source: The New York Times

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。