『TENET テネット』キャラクターを読み解く ─ 記者会見レポート、出演者が語るノーラン流の人間ドラマ


── あなたはいつも力強い女性像を演じられていて魅力的ですが、役を選ぶ際にはそのような点を意識されているのでしょうか?
デビッキ:はい。だけど興味深いもので、「強い女性」にも、力の源泉や形、見え方には様々な形があります。たとえばキャットにも強さはあって、そのことは(物語が進めば)どんどん明らかになっていきますが、これはクリスの脚本によるところが大きいんです。それは、容赦ないほど実直にキャットの物語を描いているから。スパイ映画というジャンルで、クリスや私がキャットという女性をこうやって表現したのは画期的だと思います。それが私には重要なことだったし、演じていてとても楽しいところでした。私は必ずしも強い役柄ばかり演じてきたわけではないんですが、そういう時にも外面から(人物の)芯をあぶり出すように演じています。それはそれで面白いんですよ。
── ノーラン監督の現場は想像通りでしたか?
デビッキ:撮影前はプレッシャーと恐怖でいっぱいでしたが、それはすぐになくなったので良かったですね。非常にダークなところがある物語で、精神的にもすごく大変な役柄だったし、新しい挑戦もたくさんありましたが、撮影現場では共演者に恵まれて、本当に楽しい経験ができました。ロバートとジョン・デイビッド、ケネス(・ブラナー)は、みなさん本当に素晴らしかったし、ものすごく笑わせてもらいました。楽しい毎日にしてくださって、本当に感謝しています。それから、クリスを目の前にして言うんですけど、本当に素晴らしい監督で、すごい集中力だし、私たち俳優にゆとりを与えてくれて、しかも限界に挑戦させてくれました。とてもありがたかったです。
── ジョン・デイビッドとロバート、エリザベスは非常に相性が良いと感じたのですが、リハーサルを入念に重ねられたのでしょうか。
デビッキ:ええ、リハーサルではたくさん話し合いました。だけど、何よりも私が思うのは──お二人もそうだと思いますが──脚本によるところが大きいということ。三人の関係性がしっかりと描き込まれているので、あとは撮影しながら、みんなで発見していったように思いますね。キャットと二人には独特の関係性があって……キャットは“主人公”やニールの言うことに耳を傾けて、学ばなければいけないんです(笑)。みんなでとても生き生きと演じられたし、楽しかった。それから私は、俳優としてジョン・デイビッドやロバートに学ぼうという意識がありましたし、彼らの世界に入っていく感覚もありましたね。そういうことが三人の関係性に反映されたのかもしれません。

── 悪役のセイターを演じたケネス・ブラナーに質問です。役柄について、監督とはどんな話し合いをされましたか?
ケネス・ブラナー:彼という人間についてはすべて脚本に書き込まれていました。クリスは素晴らしいキャラクターを生み出したと思います。信念をもって無責任なことをする、そのせいで人類に恐ろしい出来事が起こる、そんな男です。セイターは(ファウストのように)悪魔との取引をして、絶大な力を手に入れ、その代わり、とてつもない孤独という呪いを受ける。完成した映画を見て、エマ(・トーマス/プロデューサー)には「自分の姿を見ていて本当に怖かった。素晴らしいキャラクターだ、そうクリスに伝えてください」と話しました。とても良く書かれた、オリジナリティあふれるキャラクターで、挑戦できて光栄でした。最高の経験でしたよ。
また、エリザベスが言ったことにも重なりますが、素晴らしい共演者たちに恵まれました。俳優がよく口にする言葉だけど、これは本当ですよ。それからクリスもエマも、ものすごいスケールのものを作っているのに、落ち着いていて、まったく声を荒げないし、声色や身振りに変化がない。どうすればそんなふうにできるのか分からないけれど、僕たち役者は安心して取り組むことができました。それに、クリスは〈時間〉がテーマの映画を撮っているせいか、現場でも時間の操っているよう。現場に5,000人のスタッフがいても、まるでこちらにだけ関心があるみたいに振る舞ってくれるので、本当にうれしいですね。二人とも魔術師ですよ。