『マーベルズ』製作に「問題あった」「しっかりした脚本がなかった」とニア・ダコスタ監督 ─ 「そのせいで大混乱が」

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)映画『マーベルズ』(2023)の製作プロセスには問題があった──当時30歳の若さで抜擢された気鋭監督ニア・ダコスタが、当時の葛藤をありのままに語った。
映画『キャプテン・マーベル』(2019)とドラマシリーズ「ワンダヴィジョン」(2021)「ミズ・マーベル」(2022)の続編である本作は、幅広い観客の注目を集められず興行面で失敗。Rotten Tomatoesで批評家スコア63%・観客スコア79%と評価面はまずまずだったが、のちにマーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長も反省の意を表している。
ところが、その責任を負わされやすかったのはキャリアの浅いダコスタ監督だった。スタジオ製作映画は『キャンディマン』(2021)の一作だけでMCUに起用され、黒人女性監督としては史上最高の製作費を与えられるというプレッシャーにはじまり、『マーベルズ』では苦い経験をたくさんしたという。
米The Hollywood Reporterにて、ダコスタは『キャンディマン』と『マーベルズ』に共通する問題をはっきりと認めている。
「『キャンディマン』と『マーベルズ』で私が抱えていた問題のひとつは、しっかりとした脚本がなかったことです。それがプロセス全体に大きな混乱をもたらしていました。」
マーベル・スタジオは、あらかじめ再撮影と追加撮影をスケジュールに組み込んだ製作プロセスにより、最終的なクオリティコントロールを担保しようと試みてきた。しかし最近になって、脚本が完成しないまま映画を作り始めていることが指摘されるようになっている。これに対し、ファイギ社長は「脚本が完成しないまま撮影を始めたことはない」と説明し、常にアイデアを取り入れていく方法を採用していると語っていた。
ところが監督のダコスタから見ても、『マーベルズ』は撮影中でさえ「しっかりとした脚本がなかった」というのだ。
2025年4月、ダコスタはアイルランド・ダブリンで開催された脚本家のフェスティバル「Storyhouse」にて、『マーベルズ』の製作は「システムに足を踏み入れ、プロセスに身を委ねる」作業だったと語っていた。
「〆切も決まっているし、すでに準備が進んでいるものもあるので、プロセスに本気で取り組むしかありませんでした。私が理想とする映画の作り方とはまったく異なる以上、プロセスに身を委ねて最善を祈るしかない。今回(『マーベルズ』)は最高の結果にはなりませんでしたが、とにかく(マーベルという)マシンを信頼するしかなかったのです。」
ダコスタは、「“これは私が提案した映画じゃない、私が最初に撮影した映画でもない”と思ったときがあった」とも率直に語っている。「だから、これは経験なのだと思ったんです。学習曲線であり、映画監督としての導く力をより強くしてくれるものなんだと」。
さらに時をさかのぼれば、映画の公開直前からダコスタは葛藤を明かしていた。2023年9月、米Vanity Fairでは、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)のデスティン・ダニエル・クレットン監督に対して「圧倒されている」「ストレスが大きい」と撮影中からメールを送っていたことを認め、「つらい日もあったし、“これは失敗する”と思う日もあった」と述べている。
「これはケヴィン・ファイギが作った、彼の映画。だから、自分が主役ではないこともあるという認識のもとで臨みました。[中略]大きな世界を作る一員になれたのは楽しかった。だからこそ、自分の世界を作りたい気持ちが強くなったんです。」
ダコスタの最新作は、『28年後…』(2025)シリーズの第2作『28年後…:ザ・ボーン・テンプル(原題)』。ダニー・ボイル監督からバトンを受け取った形だが、製作陣との協議では「ダニー・ボイルの映画を撮るつもりはありません。それはできないし、監督としての興味もない」と進言したというからますます興味深い。
今回、ダコスタは『28年後…』の続編を「今までで最高の映画製作だった」と振り返った。きっと自らの努力によって、『マーベルズ』のストレスと苦しみを「経験」と「学習曲線」に変えることができたのだろう。
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Source: The Hollywood Reporter, Deadline, Vanity Fair