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マーベル・エンターテインメント トム・ブリーヴォート氏インタビュー ─「失敗は未来への燃料」時代が変わっても、コミックが持ち続ける魂とは?

マーベル 副社長 トム・ブリーヴォート

そして、仰る通り世界中で間違いなく変革が起こっていると思います。特に若い世代は、スマホやタブレットのスクリーンを見て過ごす時間が増加しています。この点ではコミックの読み方も変わってきているのだと思いますが、私たちにとっては、スクリーンであろうが印刷された紙のコミックであろうが、それは単にコンテンツをどのように届けるのかという問題なのではないかと。重要なのは、ストーリーやキャラクターの心。これらが正しく描かれている限り、国から国へ、形式から形式へ訳されていくものなのです。それ以外のものは、全て副次的なものです。だから、たとえ印刷された本…400ページの週刊マンガであろうが、30ページの月刊アメリカン・コミックであろうが、スマホのスクリーンであろうが、それらは”ハコ”の話であって、重要なのはコンテンツ、つまりストーリーの部分で、読者はそこに惹かれるのです。なので、場所やテクノロジーは問題ではないのです。

(映画『アナと雪の女王』のイラストがプリントされたミネラル・ウォーターを興味深げに手に取るトム氏)

中谷それ、カワイイですよね(笑)。

トム氏うん、でも、凍って(=フローズン)ないですね!(笑)(編注:映画『アナと雪の女王』原題は”Frozen”。)

マーベルのバイス・プレジデントが語る、コミックの真髄

中谷今日ではメディアやエンターテインメントが多く溢れていますが、コミックだけが持ち続ける、”不変の精神”といったものがあると思います。コミックだけが持つメッセージ性というものがあるとすれば、それはどういうものでしょうか?

トム氏その点に関しては、私と共に来日しているC.B.セブルスキーが良い例えをしてくれています。マーベルを一つの身体として考えた場合、映画やTVシリーズは、多くの人が初めに観る部分ということで、顔の部分になります。身体の動きを作る腕は、ゲームやアニメーション。脚はグッズなどの商品。そして、マーベルという身体の心臓となるのは、原作コミックなのです。全身の隅々に血液を送り出し、全身を巡って、各所でアイデアを得ながら心臓に戻ってくるわけです。

マーベルにおけるコア部分とは、コミックなんです。マーベルは大きく広く成長してきましたが、コミックは私たちの行い全ての中心に絶えずあるもの。そしてコミックとは、右脳と左脳の両方を用いた、ストーリー・テリングにおいて非常にユニークで芸術的な形式。それは、言葉とイメージの結婚とも言えるものです。これが出来るのはコミックだけだと思います。言葉とイメージの両方を楽しみ、右脳と左脳の両方が同時にアクティベートされる。映画や小説など、他のメディアではこういった経験はできません。これこそが、コミックだけが持つ変わらない魅力だと思います。

世界中で共感されるヒーローを作る…失敗は将来のための”燃料”

中谷:マーベルにおける最大のトピックの一つといえば、多様性だと思います。今や、アイアンマンは黒人少女で、ハルクは韓国人の少年として描かれることもありますね。でも、これは時に議論を起こしかねません。こういった点を、制作時にどれくらい意識されるのですか?世界における多様性をリードしているという責任を感じることはありますか?
マーベルは今や大きな存在ですから、『大いなる力には、大いなる責任が…』ってやつです(笑)。

トム氏その通りですね(笑)。そういったことを意識することもできると思いますが、私たちは“面白くて力強いストーリーとは何か”“今までになかったようなストーリーとは何か”を念頭に置いています。
私の仕事で、最も興味深く、そして最も難しいことの一つは、“「キャプテン・アメリカ」には75年にもわたる長い歴史がある”ということです。「キャプテン・アメリカ」にしても、「ソー」にしても「ハルク」や「スパイダーマン」にしても、新鮮なストーリーやコンセプトはなんだろうと常に模索しています。

加えて、いまやマーベルはグローバルな存在になりましたが、もともと多くのマーベル・キャラクターが産み出された1960年代は、テクノロジーが限られていた時代。クリエイターたちは、アメリカ全土はおろか、ニューヨーク周辺に住んでいる必要がありました。スタン・リーたちが作るスーパーヒーローの物語がニューヨーク周辺ばかりなのは、そういった理由です。ニューヨークの街だけが、クリエイターのよく知っている世界だったからです。

テクノロジーの発達によって世界中の人々と場所を問わず仕事を共に出来るようになってからは、マーベルの世界観は大きく広がりました。私たちは、世界中の人々をマーベル・ユニバースに招待したいと願っています。全人種です。世界のどんな人が見ても、必ず自分に繋がりを感じられるヒーローを作りたいんです。だから、私たちは新しい要素、新しいキャラクター、新しいアイデアを試し続けていて、うまくいけば更に構築していくのです。そしてたいていの場合はうまくいかないのですが、そんな時は一旦置いておいて、最終的にカムバックさせるとうまくいくこともあります。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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