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マーベル・エンターテインメント トム・ブリーヴォート氏インタビュー ─「失敗は未来への燃料」時代が変わっても、コミックが持ち続ける魂とは?

マーベルのバイス・プレジデントへの特別なインタビューが実現した。

2017年4月7日(金)、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューにて、マーベル史上最大規模の大型総合展『マーベル展 時代が創造したヒーローの世界(以下マーベル展)』がオープンこれに合わせ、マーベル・エンターテインメント、シニア・バイスプレジデント&エグゼクティブ・エディター、トム・ブリーヴォートと、バイス・プレジデント、アジアにおけるブランド管理&開発担当のC.B.セブルスキーの両氏が来日。「マーベル展」プレオープン日の4月6日(木)にはプレスツアーが催され、両氏と共に会場を巡ることができた。その時のレポートはこちらから。

マーベル社バイス・プレジデントと巡る『マーベル展』徹底解説ガイド!『ホームカミング』劇中小物、コミック生原画まで全力レポート!

そしてこの度、両氏に1名ずつインタビューさせて頂くという、特別な機会を得ることができた。本記事でお届けするのは、トム・ブリーヴォート氏へのインタビューだ。

C.B.セブルスキー氏へのインタビューはこちら:
マーベル・エンターテインメント C.B.セブルスキー氏インタビュー ─マーベル採用舞台裏、若手アーティストへの助言まで

同氏は1989年夏、大学在籍中にインターンとしてマーベルにおけるキャリアをスタートさせ、同年末にはアシスタント・エディターとして正式採用。編集者としてマーベルの主要なキャラクターが登場する作品にはほぼ全てに関わっている。コミック「アベンジャーズ」シリーズの編集は1998年から担当しており、これは同シリーズにおける担当期間として最長記録。マーベル・ユニバースに関する百科事典並みの記録を有していることで知られている。

マーベル・コミックの持つ奥深い魅力について、幅広いお話を伺うことができた。


中谷:「マーベル展」で日本のファンの方々の反応を直接ご覧になって、いかがでしたか?

トム氏:ファンの皆さんが本当に楽しんでらっしゃるようで、安心しました。沢山の方が私のところに記念写真撮影に来てくださったのも嬉しかったです。

それから…すみません、今私は黒いサングラスをかけているんですが…。普段使っている眼鏡が壊れてしまって、ちょうど今修理に出しているところなんです。

中谷いえいえ、カッコいいですよ(笑)。

トム氏アッハッハ!(爆笑)優しいですね(笑)。はしゃぎすぎて壊れちゃったのかな(笑)。

中谷その帽子は“次元ハット”ですか?(トム氏は「ルパン三世」の大ファンで、かねてより次元大介のハットを欲しがっていた)

トム氏いやぁー、次元ハットじゃないんですよ。未だに手に入れられていないんです…。

マーベル・コミックの真骨頂は、今後10年も変わらない

中谷マーベルは長年コミックの歴史を作ってきましたが、将来について教えてください。今後10年でどのような変化が起こっていくと思いますか?

トム氏なるほど。ではまず10年前と今を比較して考えてみましょう。この10年でマーベルは随分グローバルな存在になりました。もともとマーベルは、アメリカ国内で主にビジネスを行う出版社・メディア企業でしたから。しかしテクノロジーが発達するにつれ、マーベルのコンテンツも世界中で楽しまれるようになり、ファンにおいてもクリエイターにおいてもグローバルに拡大するようになりました。

今後10年に期待したいことですが、マーベルが今よりもさらに世界で楽しまれるようになることを願っています。ベースはアメリカにあろうとも、インターナショナルに拡散し、世界中の才能が集まるようにしたいと思います。

中谷テクノロジーの発達に伴い、人々のコミックとの付き合い方はどう変化していくのでしょう。今や、人々はスマホに最適化された縦長のコミックを楽しんでいます。画面を縦にスワイプして読むコミックというのは、これまでになかったものですよね。マーベルはこういった変革をどう見ていて、どう受け入れていくのですか?

トム氏コミックの読み方が変化しているというのは、我々も認識しています。文化が異なれば、コミックの読み方も異なってくるでしょう。テクノロジー云々を一旦置いておいても、世界には様々な文化がありますからね。日本の漫画にもリズム感などの点でアメリカのコミックとは異なる流儀があります。イギリスやスペインのコミックにも異なったリズム感やイディオムが存在します。

私たちは、マーベルのストーリーやキャラクターを世界各国に届けるにあたって、それぞれの土地の様々なスタイルに合わせる必要性があることを理解しています。一般的には、その国や地域のスタッフを起用することも多いのですが、例えば日本にマーベル・キャラクターを紹介するときには日本のクリエイターさんにも参加していただくわけですね。日本におけるスタイルやリズム、ストーリーの語られ方などのセンスに合わせるんです。

そして、仰る通り世界中で間違いなく変革が起こっていると思います。特に若い世代は、スマホやタブレットのスクリーンを見て過ごす時間が増加しています。この点ではコミックの読み方も変わってきているのだと思いますが、私たちにとっては、スクリーンであろうが印刷された紙のコミックであろうが、それは単にコンテンツをどのように届けるのかという問題なのではないかと。重要なのは、ストーリーやキャラクターの心。これらが正しく描かれている限り、国から国へ、形式から形式へ訳されていくものなのです。それ以外のものは、全て副次的なものです。だから、たとえ印刷された本…400ページの週刊マンガであろうが、30ページの月刊アメリカン・コミックであろうが、スマホのスクリーンであろうが、それらは”ハコ”の話であって、重要なのはコンテンツ、つまりストーリーの部分で、読者はそこに惹かれるのです。なので、場所やテクノロジーは問題ではないのです。

(映画『アナと雪の女王』のイラストがプリントされたミネラル・ウォーターを興味深げに手に取るトム氏)

中谷それ、カワイイですよね(笑)。

トム氏うん、でも、凍って(=フローズン)ないですね!(笑)(編注:映画『アナと雪の女王』原題は”Frozen”。)

マーベルのバイス・プレジデントが語る、コミックの真髄

中谷今日ではメディアやエンターテインメントが多く溢れていますが、コミックだけが持ち続ける、”不変の精神”といったものがあると思います。コミックだけが持つメッセージ性というものがあるとすれば、それはどういうものでしょうか?

トム氏その点に関しては、私と共に来日しているC.B.セブルスキーが良い例えをしてくれています。マーベルを一つの身体として考えた場合、映画やTVシリーズは、多くの人が初めに観る部分ということで、顔の部分になります。身体の動きを作る腕は、ゲームやアニメーション。脚はグッズなどの商品。そして、マーベルという身体の心臓となるのは、原作コミックなのです。全身の隅々に血液を送り出し、全身を巡って、各所でアイデアを得ながら心臓に戻ってくるわけです。

マーベルにおけるコア部分とは、コミックなんです。マーベルは大きく広く成長してきましたが、コミックは私たちの行い全ての中心に絶えずあるもの。そしてコミックとは、右脳と左脳の両方を用いた、ストーリー・テリングにおいて非常にユニークで芸術的な形式。それは、言葉とイメージの結婚とも言えるものです。これが出来るのはコミックだけだと思います。言葉とイメージの両方を楽しみ、右脳と左脳の両方が同時にアクティベートされる。映画や小説など、他のメディアではこういった経験はできません。これこそが、コミックだけが持つ変わらない魅力だと思います。

世界中で共感されるヒーローを作る…失敗は将来のための”燃料”

中谷:マーベルにおける最大のトピックの一つといえば、多様性だと思います。今や、アイアンマンは黒人少女で、ハルクは韓国人の少年として描かれることもありますね。でも、これは時に議論を起こしかねません。こういった点を、制作時にどれくらい意識されるのですか?世界における多様性をリードしているという責任を感じることはありますか?
マーベルは今や大きな存在ですから、『大いなる力には、大いなる責任が…』ってやつです(笑)。

トム氏その通りですね(笑)。そういったことを意識することもできると思いますが、私たちは“面白くて力強いストーリーとは何か”“今までになかったようなストーリーとは何か”を念頭に置いています。
私の仕事で、最も興味深く、そして最も難しいことの一つは、“「キャプテン・アメリカ」には75年にもわたる長い歴史がある”ということです。「キャプテン・アメリカ」にしても、「ソー」にしても「ハルク」や「スパイダーマン」にしても、新鮮なストーリーやコンセプトはなんだろうと常に模索しています。

加えて、いまやマーベルはグローバルな存在になりましたが、もともと多くのマーベル・キャラクターが産み出された1960年代は、テクノロジーが限られていた時代。クリエイターたちは、アメリカ全土はおろか、ニューヨーク周辺に住んでいる必要がありました。スタン・リーたちが作るスーパーヒーローの物語がニューヨーク周辺ばかりなのは、そういった理由です。ニューヨークの街だけが、クリエイターのよく知っている世界だったからです。

テクノロジーの発達によって世界中の人々と場所を問わず仕事を共に出来るようになってからは、マーベルの世界観は大きく広がりました。私たちは、世界中の人々をマーベル・ユニバースに招待したいと願っています。全人種です。世界のどんな人が見ても、必ず自分に繋がりを感じられるヒーローを作りたいんです。だから、私たちは新しい要素、新しいキャラクター、新しいアイデアを試し続けていて、うまくいけば更に構築していくのです。そしてたいていの場合はうまくいかないのですが、そんな時は一旦置いておいて、最終的にカムバックさせるとうまくいくこともあります。

「マーベル展」にもありますが、初期のマーベルは失敗ばかりでした。「ハルク」なんて6号目で打ち切りに遭うくらい不人気でした。でも、スタン・リーやジャック・カービーがハルクを「アベンジャーズ」や「ファンタスティック・フォー」に登場させたり、スパイダーマンと戦わせたりして、次第に知名度を得ていきました。そうしてまた単独シリーズが作られるようになり、今や大人気キャラクターになったんです。「X-MEN」も9年の連載の後に頓挫していますが、後のクリエイターが新たなアプローチを試して大きく成功したのです。「アントマン」なんて最初は大失敗でしたよ(笑)。3~4年前、「アントマン」を映画化するという話になったとき、マーベル社内でも疑問の声が挙がったくらいです。

このように、例えある時点でうまくいかなくたって、それは将来に成功するための”燃料”だと捉えています。ある日時代が追いついて、失敗だと思われていたものが重要なものになったりするんですよ。これらはすべて巡るプロセスの一環です。

ローカルコンテンツもさらに強化

中谷日本にローカライズを施すという点において、マーベルはアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』を制作されましたね。良い意味でとても日本的だなと思いました。他の国における事例をお聞かせ頂けますか?

トム氏日本でTVアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』を作ったように、他の国でも独自のコンテンツを制作しました。韓国では『WEBTOON』と呼ばれる、スマホやタブレットをスクロールして読めるWebコミックを展開しました。また、ヨーロッパや南アメリカ、ブラジルでは現地ならではのエピソードを作りました。また、新しいアベンジャーズのアニメーションも制作していて、2017年の夏に日本で放送開始予定です。マーベルの持つ精神の部分は踏襲しながら、世界各国の方たちに楽しんでいただけるよう、様々な取り組みを行っています。

そして、私たちは世界各国のクリエイターを採用しています。「マーベル展」でも、彼らが手がけたカバー・アートをご覧いただくことができます。アメリカで出版された作品たちですが、日本の漫画家さん含め世界中のアーティストに手がけて頂いたものです。

中谷日本の皆さんにも、マーベルに”繋がり”を感じてもらいたいと考えています。でも、なんだか日本人はいつもヤクザとして登場している気がするんですが(笑)。

トム氏アハハハハ(笑)。

言い訳するわけではないんですが…。クリエイターとは自分の知っている世界を描くわけですが、かつてはその”知っている世界”というのが非常に限定的でした。日本に限らず、他国においてステレオタイプが存在していました。世界が近くなり、その国々のことをより正しく知ることができるようになって、正しい表現も可能になっていきました。

中谷では今後、日本出身のヒーローが更に出てくるご予定は?

トム氏:実は新しい「アベンジャーズ」のアニメーションを準備中で、そこでは日本人の新キャラクターも登場する予定です。マーベルも、もっと日本のキャラクターを持ちたいと思っています。よりリアルなものを作るために、日本人のクリエイターが求められているんですよ。なので、そのような(ヘンテコ日本についての)疑問は、まさに我々が改善のために努力を重ねているものです。(注:日本オリジナルTVアニメ「マーベル フューチャー・アベンジャーズ」Dlifeで今夏放送開始、のこと)

中谷日本の業界側からは、何をすべきなのでしょうか?

トム氏一朝一夕に解決するようなものでは無いと思いますが、私たちも状況を打開できるよう努めています。マーベル・コミックの話になりますが、私たちは毎月数多くの試行錯誤を重ねています。その中でも上手くいくものとそうでないものがありますが、上手くいきそうなものは更に進めていっているのです。そのようにして、多くの方に受け入れられるものを作れるように精一杯努力しています。ですから、数年後にまたこうしてお話することがありましたら、「ずいぶん良くなったよね!」と言ってくださいね(笑)。


トム・ブリーヴォート氏は、一つ一つの質問に対し、わかりやすく、確実に答えて下さるところが印象的だった。マーベル・コミックのあらゆる歴史が頭の中に蓄積されており、興味深いエピソードを沢山聞き出すことができた。

トム氏のTwitterアカウントは@TomBrevoort。ちなみに、インタビュー終了のタイミングで、ちょうどスタッフさんが修理を終えた眼鏡を持って現れたのだった。

『マーベル展 時代が創造したヒーローの世界』は、2017年4月7日(金)〜6月25日(日)、六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー(六本木ヒルズ 森タワー52階)にて開催。会期中無休、10時〜22時(最終入場:21時30分)。入場料は一般¥1,800、高校生・大学生¥1,200、4歳〜中学生¥600、シニア(65歳以上)¥1,500。※展望台(屋上スカイデッキは別料金)、森美術館入館料を含む。

公式サイト:http://www.tokyocityview.com/marvel-exhibition/

©THE RIVER

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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