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『ブラック・ウィドウ』ディズニープラス同時配信、米映画館が抵抗の動き ─ コロナ禍からの復活めざす劇場主、上映断念には葛藤も

ブラック・ウィドウ
(c)Marvel Studios 2021

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の映画最新作ブラック・ウィドウは、2021年7月9日(金)に劇場&ディズニープラス プレミア アクセスの同時公開となる。ディズニー/マーベル・スタジオの決定に、アメリカの映画館業界では抵抗の動きが生じることになりそうだ。米The Wall Street Journalは、複数の映画館が『ブラック・ウィドウ』の公開断念を検討していると報じている。

『ブラック・ウィドウ』は、MCU作品として『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)以来およそ2年ぶりの新作映画。2020年初頭から新型コロナウイルスの感染拡大によって長期休業を余儀なくされ、破産の危機にも耐え、ついに復活への道筋が見え始めた米国の映画館業界にとってはまぎれもない頼みの綱である。ところがディズニーは、本作を劇場公開だけでなく、ディズニープラスでもプレミアアクセス配信することを決定した。

コロナ禍において、ディズニーは『ムーラン』(2020)をディズニープラスでのプレミアアクセスに切り替えた。2021年には『ラーヤと龍の王国』『クルエラ』も劇場&ディズニープラスの同時公開が決定。また、ピクサー映画『ソウルフル・ワールド』(2020)『あの夏のルカ』(2021)は劇場公開を中止し、ディズニープラスでの独占配信となっている。ウォルト・ディズニー・カンパニーのボブ・チャペックCEOは「消費者のみなさまに委ねること、どう映画を楽しむかを決めていただくことが大切」と述べ、必ずしも劇場公開のみを目指す姿勢ではないことを明かしていたが、納得できないのは映画館側だ。

「ディズニーの決定は、以前表明されていた“劇場体験を重視する”という信念と矛盾し、上映のパートナーとして信頼できないことを示すものだ」。アメリカ独立映画館連盟(Independent Cinema Alliance)のバイロン・バークリー会長はこう語り、またワイオミング州で映画館を経営するトニー・ビーバーソン氏も、「『ラーヤと龍の王国』は上映していますが、これがうちで上映する最後のディズニー作品になるかもしれません」と言う。

今回の動きに先がけて、劇場&ディズニープラスでの同時公開となった『ラーヤと龍の王国』は全米第3位の映画館チェーンであるCinemarkが上映を見合わせた。第2位のRegal Cinemasも4月頭に営業を再開したが、多くの劇場で上映ラインナップに加えられていない。ほかにも公開を断念した映画館は存在するため、『ブラック・ウィドウ』も同じ対応となることは十分に考えられる。ただし、全米第1位のAMC Theatresは、以前「受け入れられない条件ならば作品を上映しない」との意志を示したものの、『ブラック・ウィドウ』については「(スタジオに)そのような脅しはかけていない」と回答した。

映画館側がきっぱりとした抗議に踏み切りがたいのは、やはり『ブラック・ウィドウ』がMCUの最新作であるためだ。ディズニーに抵抗して公開を断念すれば、劇場に観客を呼び戻す大きなきっかけを諦めることになる。したがって、ビーバーソン氏は「どんな映画が7月に公開されるかが抗議を決める判断材料」と語った。『ブラック・ウィドウ』の前後には、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』や『トップガン マーヴェリック』という大作の公開も控えているのだ。「自分の住む町のこと、自分の仕事のことを考えなければいけません。(劇場で)観たい人はいるわけだから」

『ラーヤと龍の王国』については、日本でも全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)がディズニープラスでの同時配信を問題視したとされ、TOHOシネマズや109シネマズなど大手映画館チェーンでの劇場公開が見合わせとなった。公開の有無に関する判断は映画館に委ねられたともいわれるが、それゆえ日本でも『ブラック・ウィドウ』の劇場公開規模は大きなポイントとなる。

ちなみに米国では、ワーナー・ブラザース作品『ゴジラvsコング』が2021年3月31日に劇場とHBO Maxで同時公開され、当初の予想を上回る興行収入で大ヒット中。情勢が変化する中、劇場と配信の同時展開が映画館への客足を遠のかせるとは必ずしも言いがたくなりつつある。ただし同作は全米3,000館以上で上映されているため、『ブラック・ウィドウ』も同じように正確な需要を把握するには同規模の劇場公開が必要だろう。業界が大きな分岐点に立っている今、映画館は別の忍耐を強いられるということか。

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Source: The Wall Street Journal

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。外部寄稿に『TENET テネット』『ジョーカー』『シャザム!』『ポラロイド』劇場用プログラム寄稿など。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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