『ハクソー・リッジ』に負けず劣らず ─ この残酷描写がすごい!「リアル・バイオレンス映画監督」ベスト10

メル・ギブソン監督最新作『ハクソー・リッジ』(2016)の素晴らしさの余韻が醒めません。やはり、『プライベート・ライアン』(1998)以来の衝撃と評される戦場シーンのリアルさにはひれ伏すしかないでしょう。

そこで、今回は「リアル・バイオレンス映画」の巨匠の、独断と偏見によるベスト10を作ってみました。残酷なシーンなんて作る方も見る方もキツいわけですが、それでも撮らずには、見ずにはいられない理由があります。残酷描写にリアルさを徹底する監督には、世間の常識を覆したいという強い衝動が隠されていますし、観客も全力で応えたいと願ってしまうのです。
なお、「リアル」であることが条件なのでサム・ライミやクエンティン・タランティーノのような「楽しい残酷」は意図的に除外しました。欧米ポップ・カルチャーを発信する本媒体の性質上、アジア系の映画監督も入っていませんので賛否両論あるとは思いますが、とりあえずのランキングをどうぞ!
10位:パスカル・ロジェ
~トレビアンな有望株~
リメイクもされた『マーターズ』(2007)のインパクトが強すぎて、公開数はそれほど多くないのですが、このランクインとなりました。「こんな目にだけは遭いたくない」という生理的に不快な行為をピンポイントで付いてくる演出の数々、これからも「リアル残酷」界の新鋭として活躍してくれるでしょう。
9位:ヴェルナー・ヘルツォーク
~残酷界きってのアウトドア派~
ニュー・ジャーマン・シネマの旗手として騒がれ早半世紀、いまだにヘルツォークは精力的な映画製作を続けています。ヘルツォークには「どんなに頑張っても文明は自然に勝てません」というテーマがあり、初期作品『アギーレ/神の怒り』(’72)以来、自然や原住民が都会人に抗う構図が何度も登場してきます。
現代人にとっては残虐な殺戮や儀式も、自然界から見ればごく自然なこと。『キンスキー、我が最愛の敵』(’99)や『グリズリーマン』(2005)などのドキュメンタリー作品にも世界の秘境にて、衝撃的なシーンがたくさん出てきます。
8位:M・ナイト・シャマラン
~復活したトンデモ映画の巨匠~

「オチだけ」映画監督としてバッシングもされているシャマランですが、ファンなら「そんな見方しかしないなんて遅れてるね」と返すはず。シャマラン映画にはとてもリアルでショッキングな残酷描写が次々に描かれています。『ハプニング』(2008)は「衝撃VTR集」として秀逸であり、『ヴィジット』(2015)ではウ●コであんなことをしちゃってます。最新作『スプリット』(2017)でもさりげないゴア描写がオツでした。
7位:ラース・フォン・トリアー
~神経を逆撫でさせたらナンバーワン~
「ド派手な残酷映画」というジャンルならランクインはしなかったでしょうが、暗くてジメジメした残酷であれば、当然名前が挙がります。「映画」を降ろした霊媒師が狂死しちゃう『エピデミック』(’87)のラストシーンは、映画表現そのものが抱えた暴力について考えさせられる名(迷)シーンでした。
その後も、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)、『アンチクライスト』(2009)と、映像としては地味なのに精神的にクる残酷を観客に提供し続けています。
6位:ジョージ・A・ロメロ
~原点にして頂点~
原点にして頂点とは、ロメロのためにある言葉でしょう。ゾンビ映画の礎を築いた張本人ながら、いまだ『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(’68)や『ゾンビ』(’78)を超えるゾンビ映画は生まれていません。いやあ、内臓って本当に素晴らしいですね。
それは、ロメロのゾンビ映画には特殊な状況を通して、人間側の残酷さをあぶりだす特性があるからです。『死霊のえじき』(’85)あたりから人間よりゾンビのほうがかっこよくなってきたのも、人間の醜さを強調します。
5位:マーティン・スコセッシ
~ストリート系フィルムメイカー~

最新作『沈黙』(2016)でも我らが塚本晋也を水攻めにしてくれるなど、目だったのは拷問描写のソリッドさでした。『ミーン・ストリート』(’73)のようにスタイリッシュなバイオレンスにも定評がありますが、印象度でいうと『タクシードライバー』(’76)などの生々しいバイオレンスのほうが強いでしょう。
『グッドフェローズ』(’90)や『カジノ』(’95)では、紳士的なギャングが急に豹変して暴力にいたる演出がリアルすぎました。少年時代、スコセッシの近所はマフィアであふれていたといいますが、実体験をともなった迫力がありますね。
4位:ポール・バーホーベン
~変態おじさんだから変態おじさん~
バーホーベンのエログロは描写としては明るいのですが、いつも「なんか嫌な感じ」を観客に残します。それがリアル。
たとえば『ロボコップ』(’87)の主人公の殉職シーン。残酷ですね、エグいですね、こんなことする奴等なんてどうにかなっちまえ、とか思いますね。すると観客は自分の中に生まれた暴力的な感情に気づき、呆然とするのです。
『スターシップ・トゥルーパーズ』(’97)のようなSF映画でも「巨大な虫だったらいくら殺してもいい」という道徳観が果たして正しいのでしょうか?ただの変態おじさんのようでありながら、バーホーベンは観客自身の価値観を揺さぶってくるのです。
3位:デヴィッド・クローネンバーグ
~ぐちゃぐちゃと裸大好き~
クローネンバーグといえば、化け物とか超能力者ばっか撮っている人というイメージですが、暴力描写はいちいちリアルなんですよ。
おそらく監督作で一番有名なシーンは『スキャナーズ』(’81)の頭部破壊。後に『デッドリー・フレンド』(’86)とか、いろんなホラー映画にパクられました。
クローネンバーグにとっての暴力シーンとは、肉体の脆さ。曖昧さを観客に知らしめる手段です。集大成ともいえるのが『イースタン・プロミス』(2007)のサウナ室の大乱闘。全裸で刃物の前に体をさらけだすヴィゴ・モーテンセンに観客はヒヤヒヤしつつ、美しさすら感じたのではないでしょうか。
2位:メル・ギブソン
~マッドさマックスなスター監督~

『ハクソー・リッジ』(2016)のリアルすぎる戦場シーンが絶賛、物議をかもし中のメルギブですが、『ブレイブハート』(’95)以降の過激さを追ってきたファンには「え?こんなもんじゃないの」てなもんでしょう。
『ブレイブハート』(’95)では「自由を大切に生きよ」というメッセージ以上にラストの拷問が目に焼きつき、『パッション』(2004)では信仰うんぬんはともかく鞭打たれるキリストの血と肉に呆然。『アポカリプト』(2006)のノンストップ殺戮を見たときに誰もが「メルギブは俳優としてより監督としてのほうがヤバい」と気づいたはずです。
1位:スティーヴン・スピルバーグ
~永遠の残酷映画少年~
戦場のリアリティーを格段に押し上げ、後世の作品にも影響を与え続けている『プライベート・ライアン』(’98)、ホロコーストを冷徹なまでに再現した『シンドラーのリスト』(’93)をはじめとして、スピルバーグのフィルモグラフィーは血と死体であふれています。
個人的には『E.T.』(’82)の宇宙人が干からびている描写や、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(’84)のゲテモノ料理など、ファミリー向けの映画にぶっこんでくるトラウマ映像にしびれる、憧れる!
よく言われるようにスピルバーグを「永遠の映画少年」と形容するのは間違いではありません。ただし、思い出してほしいのは、子どもってすごく残酷な生き物だという事実です。大金をはたいて、大人の倫理観では許されない残酷映画を撮り続けるスピルバーグこそ、堂々の1位なのです。
いかがでしょうか?あなたの好きなリアル・バイオレンス映画も、ぜひ教えてください!