『スター・ウォーズ』と政治論争 ─ 『最後のジェダイ』中傷ツイートを明らかにする論文を読み解く

ポップカルチャー、つまり大衆文化の観点において、『スター・ウォーズ』は常に興味深い研究材料だ。アメリカの研究者たちは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)で巻き起こったファンによるSNS上の激しい議論の実態を解明しようとしている。この事象は、単に映画オタクたちが新作映画の良し悪しをめぐって口論しているだけではない。SNS時代の大衆心理を理解するには、この上ない題材なのである。
とりわけ『最後のジェダイ』では、米ディズニーが2015年の『フォースの覚醒』より始動させた新三部作に込めた男女や人種における平等といった趣向が現れている。こうしたリベラル的な方向性が一部で波紋を広げている。政治的分裂が深刻化するトランプ政権下においてはなおさらだ。
もっとも『最後のジェダイ』は、そもそも純粋に『スター・ウォーズ』ブランドの新作映画としてその内容が相応しいかの是非を巡る議論も盛んだが、否定派の声の中には元来『スター・ウォーズ』ファンではない、つまり事実上実態のないファンによる文脈を逸脱した政治活動が含まれていたことを明らかにする論文が登場した。
壮大な調査を行ったのは、オンラインメディアやコミュニケーションといった情報学を研究する南カリフォルニア大学のモルテン・ベイ博士。このたびベイ博士は『ヘイターたちの武器化:『最後のジェダイ』とソーシャル・メディア操作による戦略的政治活動(Weaponizing the haters: The Last Jedi and the strategic politicization of pop culture through social media manipulation.)』と題した論文を発表。Twitter上に投稿された『最後のジェダイ』についての否定的な書き込みの実態を明らかにした。
オンラインでPDFがダウンロードできるこの論文は全38ページ(うち表紙や参考文献リストを除く本文部分は28ページ)。既に国内外のメディアでその大まかな部分が伝えられているが、THE RIVERではこの論文について、より詳しく細かい内容を探っていきたい。
『スター・ウォーズ』と政治の話
この論文で述べられる内容をスムーズに理解するにあたって、まず『スター・ウォーズ』の映画そのもの、および現象がいかに政治的な事実と結び付けられるかを少しだけ知っておく必要があるだろう。なぜならベイ博士は同論文の導入部分で、「現在の政治議論や、アメリカにおけるソーシャル・メディアの政治的影響戦術が、『最後のジェダイ』というポップカルチャーにいかに由来するか」にメスを入れていくことを明らかにしているからだ。
「この点について、『スター・ウォーズ』は興味深い題材である。」ベイ博士は、過去のスター・ウォーズがいかに政治性を孕む背景があったかを振り返っていく。たとえばサーガの創造主ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』にベトナム戦争における1970年代アメリカ社会の風刺を取り入れたことを明らかにしているし、帝国軍の皇帝は技術力と経済力で抜きん出るアメリカ合衆国の象徴であると述べる。また、『エピソード1/ファントム・メナス』(1999)から『エピソード3/シスの復讐』(2005)の3作から成るプリクエル三部作に登場する分離主義勢力とは、南北戦争時代に実在したアメリカ連合国(合衆国からの独立を宣言した同盟)の象徴であること、および非常大権を狙うパルパティーンによる共和国転覆における帝国武装化は、第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュによる米国愛国者法、国土安全保障省の設立とよく似ているとして、スター・ウォーズと現実における政治情勢の共通項を並べている。
『エピソード3/シスの復讐』で暗黒面に堕ちたアナキン・スカイウォーカーの言葉もまた、アメリカの対外政策姿勢を暗示している。アナキンがムスタファーでオビ=ワンに言い放った「手を組まないのなら、僕の敵ということになる(If you are not with me, then you are my enemy.)」という二極論は、2001年にブッシュ大統領が911後の対テロに関して語った「我々の側につくのか、敵対するのか、そのどちらかだ(You’re either with us, or against us.)」という一節によく似ている。また最近では、ドナルド・トランプ米大統領が現地時間2018年9月25日の国連総会にて、対外援助について「我々を敬い、友人と呼べる国だけを支援していく」とも口にしている。