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『スター・ウォーズ』と政治論争 ─ 『最後のジェダイ』中傷ツイートを明らかにする論文を読み解く

©Walt Disney Studios Motion Pictures ©2017 & TM Lucasfilm Ltd. 写真:ゼータ イメージ

先のアナキンの言葉に対し、ジェダイ(リベラル的)のオビ=ワンは「シスらしい決めつけだ」と辟易としていたように、『スター・ウォーズ』の正義は左派の観点から描かれており、ベイ博士も「ディズニー時代の新しい『スター・ウォーズ』も、中道左派の価値観を伝えていることは明らかだ」と述べる。『最後のジェダイ』についてはこう書いている。「男女平等や新しい人種や階級など、左派が『スター・ウォーズ』を支配したのである。もっとも、『スター・ウォーズ』はもとより政治的には左派だったが。」

誰が『最後のジェダイ』を否定したか?

ベイ博士のこのたびの論文は、『最後のジェダイ』に向けられたTwitter上の敵意ある書き込みは、『最後のジェダイ』の価値観とは相反する右派の政治活動家らによるネガティブ・キャンペーンだった可能性を明らかにしている。もっともベイ博士は、予め強く断っておきたいこととして、「単純に『最後のジェダイ』を駄作映画と考えて、その落胆をソーシャル・メディア上で表明しているだけのファンもある程度存在する」点を挙げておくことも忘れていない。

ベイ博士が行った研究調査はいたってシンプルだ。2017年12月13日の『最後のジェダイ』ヨーロッパ上映開始から2018年7月20日までの間、同作監督のライアン・ジョンソンのTwitterアカウント@rianjohnsonに向けられたツイート1,273件を収集、その実態を調査。ベイ博士はこの時点でツイートの感情分析を行い、同じアカウントから投稿された同じようなツイートを重複分としてふるいにかけ、対象ツイート数=アカウント数を967件にまで絞っている。

調査の結果、『最後のジェダイ』やライアン・ジョンソン監督について否定的に書かれたツイートは206件。全体のうち5分の1に満たない割合となった。否定的に書かれたツイート内容の具体例は、「お前の映画は最悪だ。よくも『スター・ウォーズ』をブチ壊してくれたな」といった具合だ。

否定的ツイートの整理

ベイ博士は、否定的なツイートを投稿しているアカウントを、次の3つのカテゴリーに分けて整理している。1つめは「政治目的(Political agenda)」。普段のツイートを辿っても『スター・ウォーズ』に関する書き込みがないため、特に熱心なファンというわけでもないと見られる。代わりに「トランプ」や「SJW(ソーシャル・ジャスティス・ウォリアーのこと。ネットで性差別や人種差別などに反対して戦う人に対する蔑称)」といった、政治や思想に関するキーワードの出現率が高い。

2つめは「荒らし、自作自演、ボット(Troll/Sock Puppet/Bots)」で、ネット荒らしを目的に自動または半自動で動いているアカウント。こうしたアカウントは、2016年の米大統領選のころより増加しているという。

そして3つめは、「本当に嫌っている人(Real fantagonists)」。政治的な思惑うんぬんでなく、単純に『スター・ウォーズ』の出来が悪かったと責める人々だ。調査対象期間よりずっと前から、『スター・ウォーズ』に関するツイートを行っていることがその証左となる。

調査の結果、206件の否定的なツイートのうち、ちょうど半数ほどにあたる50.9%が『スター・ウォーズ』の文脈から外れた政治目的のもの、さらに人間ではないもの(=ボット)からの投稿だったという。

狙われた『最後のジェダイ』

実態はこうだ。206件のうち、61件が政治目的、11件がボットだった。33件は、荒らしや自作自演によるもので、これらのアカウントは『最後のジェダイ』劇場公開の時期まで休眠状態だったアカウントや、劇場公開後、ファンの批判がネット上に現れ始めた頃に作られたアカウントだったという。

さらに興味深いことに、にわかに活発となったこの33件のうち、およそ半数にあたる16件はロシアからのものだったというのだ。そのうち7件は自動生成された情報のアカウントで、うち5件はプロフィール画像も未設定だった。

「典型的なロシアの荒らしアカウントだ」とベイ博士が断言できるのには、いくつかの裏付けがある。先程触れたように、2016年の米大統領選を契機にロシアで生成される無機質な荒らしアカウントが数を伸ばしているのである。既にいくつかの調査研究が行われているが、目的はSNSを使ったアメリカに対する印象操作。先の大統領選当時、共和党のトランプを当選させるためにロシアがサイバー攻撃やSNS上のプロパガンダ施策を行って干渉したとして、今なお「ロシアゲート」と呼ばれる疑惑が囁かれていた。この頃よりSNS上で暗躍するロシア製のボットアカウントには、投稿時間帯などに分かりやすい共通点が現れていたのだ。こうした厄介な活動は、世界的なイベントがある度に確認されており、2018年2月にはロシアの荒らしアカウントによるツイート200,000件が削除されたとの報道もある。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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