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『スター・ウォーズ』と政治論争 ─ 『最後のジェダイ』中傷ツイートを明らかにする論文を読み解く

©Walt Disney Studios Motion Pictures ©2017 & TM Lucasfilm Ltd. 写真:ゼータ イメージ

このようなロシアによる印象工作の牙が、左派思想の『最後のジェダイ』に向けられたということだ。強い女性や有色人種に光が当てられた『最後のジェダイ』は、右派の価値観にそぐわないからであろう。さらに、『スター・ウォーズ』のようなポップカルチャーを槍玉に挙げれば、彼らが普段の政治活動ではリーチできないような層にも思想流布ができると、ベイ博士は考えている。

陰謀論めいてきな臭く感じるだろう。筆者もそう感じている。ただ、こうしたロシアの荒らしアカウントはあまり恐れるに足らない。ベイ博士が見つけたところによると、ロシアの荒らしアカウントは『スター・ウォーズ』の重要キーワードをまともに入力することも出来ないようなのだ。たとえばあるツイートは、こんな調子だった。

「So, now explain why Mark Hamil didn’t like Luje in TLJ?(で、マーク・ハミルは何で『最後のジェダイ』のルークが好きじゃなかったんですかねぇ?)」

ファンが見れば一目瞭然。”Hamill”と”Luke”のスペルが間違っている。たとえ『最後のジェダイ』にどれだけ取り乱していたとしても、ファンならあり得ないスペルミスだ。

一部の否定派の実態 

ロシアの荒らしたちは、『スター・ウォーズ』への批判を政治思想転換のための情報戦争の武器に使っている。」ベイ博士はこう述べる。「右翼ファンが保守派思想を推進するための武器で、フェミニストや社会正義勢の猛攻撃とされるものに対抗しているのだ。」

この論文は、『最後のジェダイ』に否定的なファンはほとんどが男性で、およそ3分の1がミソジニスト、反急進派、反社会正義的で保守的な思想を持っていたことを明らかにした。またベイ博士は、ポップカルチャーに関するSNS上での議論が、時には特定の目的を伴って、そもそもの議題と関係のない政治戦略に扱われていることを嘆いている。

スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に対する過激な議論(批判)について、専門家による研究がなされたのはこれが初めてではない。現地時間2018年9月6日には、米The Washinton Post誌が米ニューヨークのロチェスター大学、政治学准教授のベサニー・ラシナによる研究結果を発表している。この時の調査内容は「どれほどの割合の『スター・ウォーズ』ファンが中傷ツイートを行っているのか」を明らかにするためのもので、やはりTwitter上で『スター・ウォーズ』や『最後のジェダイ』に関する数千のツイートを抽出、アルゴリズム解析にかけている。すると、攻撃的なツイートは全体のうち少なくとも6%だったという。内訳を調べた結果、「ファンは、この映画の人種やジェンダーの話題になると、好戦的なツイートになる」ことを明らかにし、「攻撃的なツイートやヘイトスピーチの出処は、右翼に限られるわけではない」という見解に着地している。

一方でこのたびのベイ博士の調査は、また別の面をあぶり出しており、右翼思想の荒らし集団が左翼思想の『スター・ウォーズ』を非難し、意図的に混乱を招こうとしていることを明らかにしている。ライアン・ジョンソン監督自身もこの論文をTwitter上で取り上げ、「序文に書かれていることは、僕のオンライン上での経験と一致している」と述べた。また監督は、『最後のジェダイ』を好きなファンとも嫌いなファンともネット上でたくさんの議論を交わしてきたということを断った上で、こうした荒らし行為はファン文化の性(さが)であり、「オンライン上での嫌がらせにおける毒性株」だと理解しようとしている。

そもそもなぜ政治論争が起きるのか

もちろん筆者は、この論文が導き出した「『最後のジェダイ』の否定的な声はマイノリティで、しかもそのうちの半分は事実上実態のない政治目的のものだった」という点を強調して、「だから『最後のジェダイ』への批判は的はずれなのだ」と主張したいわけではない。むしろ筆者は、ベイ博士の言う「単純に『最後のジェダイ』に失望している『スター・ウォーズ』のファン」の立場に近い。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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