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【レビュー】『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は『チャリチョコ』の前日譚ではない、夢見る青年の甘いアナザーストーリー

ウォンカとチョコレート工場のはじまり
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

〇〇の魔法にかかる、とは映画の宣伝文句でしばしば聞く言葉だが、映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の効き目は強力だ。鑑賞中、魔法にかけられたかのようにチョコレートが食べたくなってしまうのだ。作品自体、友達に「これ、美味しいよ」とあげたくなってしまうほど“美味”が保証された、納得の1作となった。

“ウォンカ”といえば、奇才ティム・バートン監督がロアルド・ダールの奇天烈でキュートな物語をユニークなレンズを通して映像化した2005年の映画、『チャーリーとチョコレート工場』の主人公ウィリー・ウォンカでおなじみ。おかっぱ頭で顔面白塗りメイクのジョニー・デップの姿は、公開から18年が経った今でも鮮烈だ。

そんなウィリー・ウォンカをニュートラルに、より人間らしく演じたのは、『君の名前で僕を呼んで』(2017)でハリウッドの全視線をかっさらったティモシー・シャラメ。近年では『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)『ボーンズ アンド オール』(2022)などに出演し、ハリウッドの先頭グループを走る若手実力派俳優だ。もしマルチバースというものが存在するのなら、シャラメ版ウォンカはデップ版ウォンカとは全く別のユニバース。「世界一のチョコレート店を作る」という亡き母との約束を果たすため、チョコレートの町を目指し船で旅する、まるで麦わらのルフィのようなオーラを纏う天真爛漫な青年である。

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ウォンカとチョコレート工場のはじまり
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『ホーム・アローン』シリーズや『ラブ・アクチュアリー』(2003)など冬の定番映画は多々あるが、本作もその仲間入りを果たすことは間違いないだろう。毎年冬になると埋もれにいきたくなるようなファンタジックな世界観とそれを優しく包み込む至極のミュージカルナンバーは、コタツよりもじんわりとした温かさを味わうことができる。

映画は開口一番、大海原で夢を歌に乗せるウォンカの歌唱シーンから始まり、新天地に胸を踊らせる姿は『グレイテスト・ショーマン』(2017)でヒュー・ジャックマンが演じたP・T・バーナムを思い出させる。町に到着するや、ウォンカは機知に富んだマジカルな数々のお手製チョコレートを売り始め、民衆から即座に受け入れられるが、そこは夢を見ることが禁じられた町だった。ウォンカはチョコレート市場を牛耳る3人のドンたちに目をつけられてしまう。

ウォンカとチョコレート工場のはじまり WONKA
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
ウォンカとチョコレート工場のはじまり WONKA
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

はやくもチョコレート市場から出禁をくらい一文なしのウォンカは、いかにも悪者風な安宿の女主人(オリヴィア・コールマン)にまんまとぼったくられ、多額の借金を背負うことにもなる。返済のために地下で強制労働させられることになると、同じく人生オワコンな4人の仲間と出会い、薄汚いチョコレート市場の裏社会にチョコレートで勝負を挑む。てっきりウィリー・ウォンカがチョコレート工場長になるまでの前日譚とばかり思っていたが、物語はウォンカと仲間たちが陰謀の渦巻くチョコレートの黒社会に立ち向かう、想像以上にツイストの効いたストーリーに仕上がった。

そんな物語の大きな柱となるのが、クセが強すぎる脇役キャラクターたち。オリヴィア・コールマン(ミセス・スクラビット役)やローワン・アトキンソン(神父役)、キーガン=マイケル・キー(警察部長役)、サリー・ホーキンス(ウォンカ母役)、ヒュー・グラント(ウンパルンパ役)という超強力なキャストが脇を固め、彼らはチョコレートをさらに美味しく引き立ててくれるお供のような存在。女主人役のコールマンと彼女の下で働く部下の男のコミカルコンビは、『レ・ミゼラブル』(2012)でヘレナ・ボナム・カーターとサシャ・バロン・コーエンが演じたテナルディエ夫婦の狡猾さを彷彿とさせる。「Mr.ビーン」で知られるアトキンソン扮する、口にするたびに昇天しそうになるほどチョコレート中毒の神父や、実力派コメディ俳優のキーが演じるチョコで簡単に買収されてブクブクに太りまくる警部など、いそうでいないキャラクターを名俳優たちが本気で演じているところも温かい。

ウォンカとチョコレート工場のはじまり WONKA
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
ウォンカとチョコレート工場のはじまり WONKA
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

極め付きはウンパルンパ役のヒュー・グラントだ。グラントが演じるウンパルンパはオレンジ色の小さなジェントルマンで、ウォンカのチョコレートをよなよな盗み続ける“宿敵”として登場する。この設定の脚色は想像以上にポジティブな化学反応を見せ、ウォンカとウンパルンパを対等な関係性へと昇華させている。それでいて歌と踊りが大好きなのには変わらず、シュールなリリックと振り付け、そしてコミカルなヒュー・グラントの3点盛りが最大限のユーモアを発揮している。きっと子どもたちは、膝をカクカクさせながら手を上げ下げするウンパルンパダンスをいたく気に入ることだろう。ちなみに、TikTokでは「ウンパルンパでダンスミッション」というハッシュタグがZ世代を中心に盛り上がっており、早くもバズりの予感も見られる。

 ウォンカとチョコレート工場のはじまり
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

こうした個性溢れるキャラクターたちの中心にいるのが、最も人間らしいウィリー・ウォンカという青年。デップ版はファンタジー感満載のキャラクター設定だったが、シャラメ版は真逆と言っていいくらい等身大で、そこが共感を生み出している。ミュージカル映画デビューのシャラメは安定しすぎている程の歌唱力とダンスを披露。シャラメといえば、高校時代に「Lil Timmy Tim」という別ペルソナでラップやヒップホップダンスを披露する姿がSNSでバズったが、劇中ではファンキーな部分を封印し、チョコレートの町に美声を響かせている。(ポール・キング監督はシャラメの高校時代の動画をYouTubeで観て「彼は歌えるし踊れる」と確信し、オーディションをスキップしたとか。)

一流のキャストたちで贈られる本作のテーマは、ロアルド・ダールの原作小説に通ずる“誰でも夢を見ることができる”ということ。貧乏なチャーリーが数枚目のチョコレートでゴールデンチケットを手に入れたように、若きウィリー・ウォンカも母との約束を叶えるためにいくつもの逆境を乗り越える。このテーマに、ジャングルから独りやってきたクマが居場所を見つける『パディントン』シリーズを手がけたポール・キング監督が真正面から向き合い、決して絵空事ではない共感性の高いアナザーストーリーを紡ぎ出した。きっと多くの人にとって、長いあいだ心の奥底に眠っていた大切な何かを思い出させる1作となるだろう。

ウォンカとチョコレート工場のはじまり
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ところで、本作は“デップ版ウォンカとは全く別のユニバース”と前述したが、どちらかといえば1971年に公開されたジーン・ワイルダー版『夢のチョコレート工場』のご近所さんとも言える。随所にオマージュが散りばめられ、物語のテーマ曲やウンパルンパのデザインも同作を下敷きとしている。主演のティモシー・シャラメも「姉妹作」と呼んでいるほどだ。ぜひ未鑑賞の方は公開前後でご覧いただくことをおすすめしたい。

『ウォンカ』で温かい冬の始まりを。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は2023年12月8日(金)公開。

Source:TikTok,RollingStone,The Times

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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