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【解説】『X-MEN:ダーク・フェニックス』を精神科医の見地から ─ チャールズが果たしたカウンセラーの役割、ジーン・グレイとメンタルヘルス

X-MEN: ダーク・フェニックス
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

19年間、関連作も含め12作に及んだ『X-MEN』映画シリーズが、X-MEN:ダーク・フェニックスをもって完結した。最後の敵は、X-MENの中でも最強の能力を持つジーン・グレイの暴走。孤独な出自を持つ彼女は、唯一の居場所であるミュータントの仲間たちの中にもいられなくなり、恐怖と戸惑いのまま彷徨う。そんな彼女を、X-MENたちが様々な目的で追う。

壮大なアメコミ・ヒーロー映画シリーズの完結作として、必然的に大きなハードルが設けられた本作だが、描かれているテーマは意外なほど素朴でダークだ。2019年10月9日よりブルーレイ&DVDリリース、9月25日より先行デジタル配信開始となるにあたって、THE RIVERでは『ダーク・フェニックス』を改めて堪能する機会を用意した。テーマは、「精神科医の見地から『ダーク・フェニックス』を観ると、どのような気付きが得られるのか」である。シリーズの中でも特にメンタルヘルス描写が重要だった本作について、精神科医である星野概念さんをゲストにお招きし、解説をお聞きしながら読者と共に鑑賞する特別上映会を開催した。

特別ゲスト:星野概念さん

星野概念 ほしのがいねん 精神科医 など。

病院勤務の精神科医。執筆や音楽活動も行う。雑誌やWebでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこう氏との共著 『ラブという薬』がある。

精神科医が観た『ダーク・フェニックス』のリアルさ

大学病院の精神科で勤務されている星野さんは、この日も患者さんの回診を終えて駆けつけてくださった。『X-MEN』はもともと大好きだったという。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『特攻野郎Aチーム』『オーシャンズ』シリーズなど、それぞれに悩みを抱えた登場人物らが協力しあう群像劇が好みなのだそう。シリーズ完結作『ダーク・フェニックス』で最も印象的だったのは、ジーン・グレイの圧倒的な孤独感だった。「観ていて、辛すぎました。」

サイコキネシスとテレパシーの能力を持つジーン・グレイは、幼少期にその能力を制御することができず、両親と乗っていた車で大きな事故を起こしてしまい、母を失ってしまう。その力を恐れた父からも見捨てられ、プロフェッサーX/チャールズ・エグゼビアが率いる「恵まれし子らの学園」に引き取られた。「学園には、自分が人と少し違うという寂しさを抱えている社会的少数のミュータントが集まっていて、その中でジーンは仲間との交流を持つことができた。X-MENとして活躍することで、市民から敬われることもあって、自分のアイデンティティを守ることもできていた。ところが能力が暴走してしまって、大切な人たちを傷つけてしまい、ミュータントのコミュニティにもいられなくなってしまう。本当に、とんでもない孤独だと思います。」

X-MEN︓ダーク・フェニックス
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

「ジーンのように、幼少期のトラウマが原因で生きづらさを抱えている方は少なくない」と星野さん。『ダーク・フェニックス』では、事故に遭った直後のジーンに対し、チャールズが『心の調整』を試みる描写があった。心の中に壁を作り、その中にトラウマを閉じ込めた、というのだ。星野さんは、「チャールズの能力って、人格をコントロールすることも出来るので、かなり危険なもの」と見解を述べる。

「でも、チャールズにはチャールズの仁義があって。幼少期のジーンが、その後の社会でなんとか生きていくために、やむを得ずトラウマを無意識の領域に閉じ込めたんだと思うんです。別にチャールズはそれを人体実験だとは思っていないだろうし、ジーンを自分の都合のいいように操ったわけでもないと思うんですよ。それは、『X-MEN』シリーズのチャールズを見ていれば明らかです。」

チャールズに深い共感を覚えた星野さんは、「あの人は、すごく……、あの人って言うと、なんか親しい知り合いみたいなんですが」と微笑みながら、「ミュータントの生きづらさをどう改善するかということをマス(大衆)に呼びかけたり、相手によってそれぞれ違う対応を繰り返したり、心を砕いている人だと思うんです」と、X-MENの指導者を思いやった。「他人の体験を閉じ込める能力を使うのは、大きなリスクが伴うことです。でも、そうしないとジーンが逆にどうなってたか……。」

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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