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【解説】『X-MEN:ダーク・フェニックス』を精神科医の見地から ─ チャールズが果たしたカウンセラーの役割、ジーン・グレイとメンタルヘルス

X-MEN: ダーク・フェニックス
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

チャールズ・エグゼビアが果たしていたカウンセラーの役割

『X−MEN』シリーズでは、相手の為を思ったはずのチャールズの行動が、かえって不信や反発を招いてしまう展開も少なくない。これは、星野さんも精神科医として日頃向き合っているものだという。「例えば、幻聴が聞こえて辛いという患者さんに入院を勧めると、”入院なんてしたくない、そうやって私を治療という名の下に操作しないでほしい”と言われてしまうことはよくあります。実際に、昨日もそんなやり取りを一時間半くらいしていました。だから、チャールズの苦悩がよくわかる。もうちょっと彼を分かってあげて欲しいですね。チャールズ、辛いよなって……。僕もチャールズのように、患者さんの心に直接”大丈夫ですよ”って語りかけたいです(笑)。」

『ダーク・フェニックス』では、ついに自我を失ったジーンの攻撃を受けながらも、チャールズが必死に「大丈夫だ」と訴え続ける壮絶なシーンがある。「あの場面は、すごく僭越ながら、自分と重なりました。ああいうチャールズの姿に、精神科医としての気持ちのあり方が表れていて、救われるなっていう……。」

X-MEN︓ダーク・フェニックス
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

自分自身のコントロールを失うジーン・グレイを演じるソフィー・ターナーは、役作りにあたって統合失調症や解離性同一性障害のリサーチを徹底的に行ったという。統合失調症患者の声を吹き込んだ音声を一日中ヘッドフォンで聞きながら街を散歩したり、日常生活をおくったりして、「過剰なまでに多くの声が脳内に聴こえてくる状況」を理解した。ソフィ自身も、『ダーク・フェニックス』がメンタルヘルスについての議論のきっかけになることを望んでいるという。こうしたアプローチは、専門家から見ても納得できるものだった。

「統合失調症には、”自分”という枠が曖昧になったり、壊れたりして、自分が保てなくなるという症状があります。

例えば、今こうして僕が喋っていることは、僕が自分で考えて喋っています。これは当たり前ですよね。でも、これは”自分”と”他人”という枠がしっかりあるから出来ることなんです。ところが、その自他の境界が曖昧になったり、穴が開いたり、無くなっちゃったりすると、自分で考えているはずなのに、”他の人に考えを吹き込まれている”とか”考えさせられている”というように感じてしまう。」

そこで聞こえる幻聴には様々なものがあり、中には音楽が聴こえてくるという症例もある。「代表的なのは、誰かが命令してくるとか、自分の噂が聴こえてくる、というものです。自分に向かってくる悪い声を制御しきれなくなります。だから、ジーン役のソフィー・ターナーがそういった音声を聞きながら生活していたのだとしたら、かなりリアルだと思います。」

そんなジーンが、もしも診察に訪れたとしたら?星野さんは「どうなんでしょう……」と考えてから、優しく笑った。「大ファンです、と伝えます。」

『ダーク・フェニックス』とシリーズを振り返って

X-MEN︓ダーク・フェニックス
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

上映会を終え、参加した”ねこ蔵”さんはジーンの抱えていた孤独感について、「マイノリティの中でもマイノリティ、そこですら一緒にいられないという悲しみに気がついた」と、”べーちゃん”さんは星野さんのチャールズ考を聞いてから、「言われてみれば、チャールズのやっていることはカウンセリングや精神科の先生ですね…気が付きませんでした」と新たな発見が得られた。

チャールズの人物像も改めて考えたい。「精神科医の視点から、チャールズが良い教育者であるということ、いちファンとしてとても感動しました。チャールズ・エグゼビアは、いつもミュータントひとりひとりにとても真摯に誠実に接しているのに報われないのは、本当に気の毒だと思うからです。」(”とま”さん)「チャールズは正しい人なんだけど、裏目に出たり、ひとりひとりの気持ちを無視して悪いことが起きるというのがよくある。でも、最後にジーンに思いが通じるところ、必ずX-MENを信じているところとか、チャールズは信頼の置ける人物だなぁ、としみじみ。」(”りん子くん”さん)星野さんは、チャールズの行動について「決して報われようと思ってやっているわけではない」と指摘する。掛け値なしの想いで信念を貫くことは、並大抵のことではない。『ダーク・フェニックス』では、そんなチャールズの苦悩の日々にも一段落が与えられる。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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