【考察】『007』ダニエル・クレイグ卒業後のQはどうなる ─ 現Q役ベン・ウィショーの持論から紐解くシリーズの今後

『007』シリーズ第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、6代目ジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグが有終の美を飾ることになる作品。『007』シリーズのリブートを図ったクレイグ版では、MやQ、マネーペニー、フェリックス・ライターなど、『007』の伝統キャラクターへの新たな解釈が組み込まれた。
クレイグ版では、ジュディ・デンチが演じたMを除いては、メインキャラクターが5代目ピアース・ブロスナン版『007』シリーズから一新された。それではクレイグが卒業した後のMやQ、マネーペニーを演じるキャストも、同じように次の世代へ引き継がれていくのだろうか。“現”Q役のベン・ウィショーが、英Total Film誌 2021年4月号の取材で述べた持論を参考に、思考を巡らせてみたい。
主要キャラクターの中でも、Qといえばボンドが無事に任務を遂行する上で欠かせない兵器開発課長。シリーズ第2作『007 ロシアより愛を込めて』(1963)から『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)では、ショーン・コネリーからピアース・ブロスナンまで、5代にわたってデズモンド・リュウェリンが演じてきた。(一作で降板した『007 ドクター・ノオ』のピーター・バートンと、『007 ダイ・アナザー・デイ』(2002)のジョン・クリーズが演じたQの存在も忘れてはならないが。)そのため、『007 スカイフォール』(2012)で“ニキビが目立つ”若いQが登場した時には、クレイグ・ボンドだけでなく多くのファンが目を疑ったことだろう。
そんな新たなQを任されたウィショーは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』以降のQ役としての進退について言及している。クレイグのシリーズ卒業を踏まえた上で「さらなるミッションを受けようと思いますか?」と出演継続の意志を訊かれたウィショーは、「バーバラ(・ブロッコリ/プロデューサー)が決めたことであれば何でも受け入れますよ」と返答。「演じるのが楽しい役なので、もっとやりたいです」とオープンな姿勢であることを明かしている。
ウィショーのQは、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で3度目の登場。『スカイフォール』と『007 スペクター』(2015)のわずか2作で新世代のQ像を確立したウィショーも、クレイグ版卒業以降も継続的に『007』シリーズに出演を重ねていけば、リュウェリンが演じたQのように、人間性の変化を楽しむことが出来るだろう。
Q役への意欲を示すウィショーはその一方で、個人的な見解として「もしかしたら(変わる)時が来ているのかもしれません」と述べてもいる。「フランチャイズは随分長いこと続いてきましたから、それ自体を一新することでしか生き延びることが出来ないんです」と。確かにクレイグ版でも、それまで黒髪だったボンドが金髪になり、高身長だった身長は180センチを初めて下回った。Qに関しては白髪頭のベテランから黒髪の現代風な若者、マネーペニーに関しては、デスクワークの白人女性から現場上がりの黒人女性として描かれた。
こうした“一新”を経て、往年のファンと新世代の両方から受け入れられてきたクレイグ版『007』シリーズの成功を目の当たりにしてきたウィショーだからこそ、さらなる変化が必要だと考えているのかもしれない。ウィショーは改めて、「僕は、彼ら(製作陣)が選んだどんな方向でも受け入れます」と強調。「それが正しいことだと思うので」とシリーズへの敬意を示した。
それでは、クレイグが卒業した後の『007』シリーズはどのような方向に舵を取っていくのだろうか。この方向づけを行う上で焦点となってくるのが、“時代の潮流を意識したキャラクター造形を実施していくか否か”であろう。クレイグ版『007』シリーズでも、初の黒人版フェリックス・ライター、そして先にも述べたマネーペニーなど、主要キャラクターを巡って大きな設定の変更がなされた。
この変更の背景には、多様性や男女平等を訴える世間の声が関係しているわけだが、クレイグ以降の『007』シリーズでも、新たなキャラクター像を求める声が続出することが予想される。事実、世相を反映した代表的な意見として、黒人版ジェームズ・ボンドの誕生を望む声が多数存在している。プロデューサーのバーバラ・ブロッコリも、黒人版、あるいは女性版ボンドの誕生について「どんな事だって起こり得ます」と発言してまでいる。
もっとも、時代の風潮に乗った決断をしていくことだけが、“一新”というわけではない。往年の『007』シリーズに原点回帰することもまた、ある意味ではひとつの“一新”である。半世紀以上にわたって継続してきた『007』シリーズには、何にも増して決断の一つひとつに“伝統”と“改革”両方の重みがのしかかってくる。この一大任務、果たして製作陣は大胆な行動に出るか、それとも慎重に現場を見守るか…。
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Source:Jamie Graham,“Ben Wiishaw Intereview”,75-77(2021.04),Total Film