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【レビュー】『アントマン&ワスプ:クアントマニア』はマーベル新章、離脱ファンの復帰作にもオススメ ─ 征服者カーンにひたすら圧倒されよ

アントマン&ワスプ:クアントマニア
(c)Marvel Studios 2023

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『アントマン&ワスプ:クアントマニア』は、ほぼ全編が量子世界で展開されるというSF色の強い作品だ。その世界観は、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)の惑星ジオノーシスに似たところがある。

映像のトーンは全体を通して夕暮れのように暗い。奇妙な生き物や建物、アイテムや事象が続々と登場するが、映像はやや散乱したような印象もあり、映画館での座席は後方が観やすいかもしれない。

アントマン&ワスプ:クアントマニア
(c)Marvel Studios 2022

これまでの『アントマン』シリーズでは、バスタブでの大洪水や、巨大化するキティちゃんペッツなど、日常を掛け合わせたコミカルなものが特徴だったが、全くもって非日常を描く本作ではこうしたお楽しみは見送られた。ルイスをはじめとする3バカトリオも登場しないので、トーンはやや異なったものとなる。スコット・ラングの気の抜けたギャグは健在で、何度かクスリと笑わされるものの、必要な範囲内でシリアスな要素が増している。

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それもそのはず、本作はMCUの新章であるフェーズ5をスタートさせる第一弾であり、今後のラスボス級ヴィランとなる征服者カーンを紹介する作品だ。カーンとは何者なのか、どうやって現れ、何を考えているのか、マルチバースとはどのようなものなのか……。重大な説明が多く登場するので、自然と真面目な空気を帯びる。まるで、教壇に立つ教師が「今から言うところはぜんぶ期末試験に出ます」と宣言したようで、カーンの言うことは一言も聞き逃せない。

アントマン&ワスプ:クアントマニア
(c)Marvel Studios 2023

主軸となるストーリーは単純明快だ。量子世界に引きずり込まれたスコット、キャシー、ホープ、ハンク、ジャネットは離れ離れに遭難し、それぞれが合流を試みる道中、この世界の不思議やカーンの脅威を知っていく。テーマとなるのは親子の絆で、これといってなんの捻りもない直球勝負。予告編でも示唆されていたように、かつて量子世界に30年間も幽閉されていたジャネットは、この世界の危険性やカーンの恐ろしさを知っている様子だが、なかなか打ち明けようとしない。家族はそのことに腹を立てるでもなく、もっと大きな脅威に翻弄されることになる。

事前情報ではあまり触れられていない注目キャラクターが2名登場する。1人は『ゴーストバスターズ』シリーズでお馴染みのビル・マーレイで、量子世界で暮らす特権階級の男を演じる。マーレイとマイケル・ダグラス、ミシェル・ファイファーの3名が話すシーンは、ベテランとベテランとベテランが貴重なシーンを分かち合っている。

アントマン&ワスプ:クアントマニア
© 2022 MARVEL.

また、原作コミックやゲームなどでも人気のヴィラン、M.O.D.O.K.(モードック)も実写初登場を果たす。巨大な顔から小さな手足が生えた、ハンプティ・ダンプティのような珍妙な見た目ながらも、「Mental Organism Designed Only for Killing(殺戮のために設計された有機生命体)」との名の通り、残虐行為を繰り返す凶暴なヴィランとして知られる(本作では日本語字幕にも注目)。現実離れしたモードックの見た目も、不思議な生物であふれる量子世界では違和感なし。『クアントマニア』は、ビジュアル面で彼の実写登場作としてうってつけだった。

とにかく本作のMVPとなるのは、海外レビューでも絶賛一色だった征服者カーン役のジョナサン・メジャースだ。詳しくはこちらの記事で解説しているが、原作コミックにおけるカーンとは、異なるタイムラインに何人も存在し、いくつもの異名をもち、それぞれの時空を支配しながら、別次元の自分自身との戦いを続けているという複雑な人物。本作では、まだ我々の理解が追いつかない重大な目的を抱いているようなのだが、我々の理解が追いつかないというのが、このヴィランの恐ろしいところだ。サノスの「全宇宙の生命を半分にする」という、あまりにもシンプルな野望とはまるで違うタイプの恐ろしさ。戦って勝てるタイプでは絶対にないし、ましてや話せばわかるタイプでも決してない。文字通り異次元の思想の持ち主であり、彼の前では、我々は原始人のような気さえするのである。

アントマン&ワスプ:クアントマニア
(c)Marvel Studios 2022

いよいよMCUが再加速したという見応えがある。脚本家のジェフ・ラブネスがフェーズ4を「比較的平和な時期」だったと表現したときには、「あれで平和だったのか?」と少し首を傾げたくもなったが、『クアントマニア』のカーンを知れば、「あれは平和だった」と気付かされるだろう。

とんでもないヴィランが現れた。この後、どうなるんだろう。アベンジャーズは、どうやって戦うんだろう。世界はどうなってしまうんだろう。MCUは『クアントマニア』で、再びシリーズ作としての醍醐味を取り戻す。実は『アベンジャーズ/エンドゲーム』で一旦満足して、ここのところMCUから離れ気味だったという方も、もう一度戻ってこられる一作だ。明らかに新たな物語をスタートさせる内容なので、あらゆるファンが楽しめる。心機一転の『アントマン&ワスプ:クアントマニア』は公開中。

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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