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【レビュー】『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を観てから虚脱感に苛まれている

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

いきなりで大変申し訳ないのだが、もしかしたら、僕は『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の鑑賞を人に勧めたくないかもしれない。なぜか?

上映終了後の虚脱感が凄まじいからだ。ああ、現実ってこんなに味気なかったっけか。もっとあの色鮮やかなパンドラの世界に浸っていたい。劇場を去る際の心中は、「夢うつつ」と「無気力感」が等分。いわゆる“映画の魔法”という使い古された表現が、ここまで相応しい作品は稀だ。

正直に白状すると『アバター』1作目がそこまで刺さらなかった自分でも、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は「とにかく終わって欲しくない」映画体験だった。3時間12分という長い上映時間があっても、なおである。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』言葉にできない没入感

コロナ禍をくぐり抜けた2022年の僕たちは今年、世紀の映画体験をいくつか享受していきた。奇跡とも言える夢の共演で“お祭り体験”になった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の年明けに始まり、夏には究極の“アトラクション体験”、“胸アツ体験”の『トップガン マーヴェリック』に沸いた。そして12月、大トリを飾る『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が満を持して届けるのは異次元の“映像体験”で、これはもう映画というより“小旅行”と言って全く過言ではない。全編通じて、ここまでの没入感は他に比較できるものがない。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

一部シーンはハイフレームレート(48)で描かれた、過去に例のない美麗3D HDR映像は言うならば「現実を超えた現実」。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のレビュー執筆を試みる筆者は、映像の可能性を格段に押し上げた比類なき体験を前に、その全てを伝えることができない言語表現が宿命的に持つ、あまりにもちっぽけな制約を呪う。

我々は映画を観てきたのではない。“パンドラに行ってきた”のだ。だから、海外旅行を満喫した休暇明けの、「また明日から仕事/学校が始まる」と考えたときのような憂鬱が、この映画の観賞後に襲ってくるのである。

さらに恐ろしい事実がある。ここまで『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』について、映像体験といった“ガワ”の話しかしていないじゃないかと眉をひそめている方に対してである。監督ジェームズ・キャメロン自身、前作『アバター』の頃から「誰もキャラクターの名前すら覚えていない」などとする物語性の欠如への批判があることを自覚している。けっきょく『ウェイ・オブ・ウォーター』でも、映像がすごいらしいのはわかるが、青い肌の架空の民族の話には興味が湧かないんだよなぁ、正直前作の話なんて、全然覚えてないしさぁ。そう思っている方に対してである。

予想を超えたエモーショナルな物語

別に筆者だって、“ナヴィ族”とかいうこの中途半端にデカくて青い異形人にそこまで思い入れるところはなかった。13年前当時に観たきりだった『アバター』を久しぶりにディズニープラスで復習して、「主人公がジェイクっていう軍人で、パンドラという異星でネイティリっていう女性と恋に落ちつつ、クオリッチとかいう無慈悲な環境破壊マッチョ野郎を倒すんだな」くらいの情報を得て、続編の鑑賞に挑んだわけである。

それで、どうして自分がこの青い異形人たちの絆の話に、こんなにも心揺さぶられることになったのか、悔しいことに全く説明ができないのだ。頑張って解明しようとするのなら、それはもう“映画の魔法”以外にない。だから、全編が終わってエンドロールに入り、魔法が解けた瞬間の喪失感が、寂しくて辛抱ならないのである。まだもう少し、ナヴィ族と一緒に過ごしていたいと。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『ウェイ・オブ・ウォーター』の舞台は、前作から10年後。ナヴィ族に帰化した主人公ジェイクはオマティカヤ族の長となり、『ライオン・キング』のムファサのような威厳ある野生生活を送っている。妻ネイティリとの間にはネテヤム、ロアク、トゥクという子宝に恵まれ、さらにキリという養子を迎え、スパイダーという名の人間の少年とも一緒に暮らす大家族となっている。

そこにパンドラ制圧を目論む人間らスカイ・ピープルが再び襲来。既にキャラクターや世界観の紹介を済ませているので、いきなりアクションシーンを描くことができるという続編映画の旨みをたっぷり享受して、『ウェイ・オブ・ウォーター』は『帝国の逆襲』ばりのロケットスタートを切る。

確かにややベタだった『アバター』前作の物語の続きを描く本作は、いきなり“ひねり”を効かせた導入と共に始まるので、前作の復習は是非とも行っておきたい。これはネタバレではないが、前作で死亡したはずのシガニー・ウィーバーとスティーヴン・ラングがメインキャストとして続投しているという点を見ても、かなり面白いことをやっていることはお分かりいただけるだろう。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

主人公らサリー一家は神聖なる森を追われ、未知なる海の種族(メトカイナ族)の元に身を寄せる。この美しい海辺の楽園で、一家は海の民族や、豊かな水中生物との交流を深めてゆく。登場するのは架空の生物だが、明らかイルカやクジラに見立てられた彼らの生態描写はナショナル・ジオグラフィック級。自らもプロ級ダイバーであるジェームズ・キャメロンの情熱が見て取れる。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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