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【レビュー】『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を観てから虚脱感に苛まれている

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

彼らの涙は我々の涙だ

先ほどは「なぜこの青い肌の異形人にここまで心揺さぶられるかわからない」といったことを書いたが、筆を進めるうちにフェイシャル・キャプチャーの飛躍的な進化のおかげではないかということが見えた。プロデューサーのジョン・ランドーによれば、本作での技術面における最大の挑戦とは、難しいとされる水の表現ではなく、フェイシャル・キャプチャーの技術向上だったという。

確かに前作では、人間の顔の繊細な表現に乏しく、不気味の谷に陥ることを回避するために青い肌の異星人という設定を盾にしていると勘ぐってしまうほどだった。特に、ジェイクに裏切られたとネイティリが激昂する場面では、怒りを演じるゾーイ・サルダナの表情シワなどが反映されておらず、どこか“お面”を被ったような、のっぺりとした不自然さがあった。

ところが本作は、従来のフェイシャル・キャプチャーにあったあらゆる課題を全て克服しているように見える。表情筋の非常に微妙な動きや瞬間ごとに変化するシワがそっくりそのまま反映され、限りなく真実的なニュアンスが表現された。本作は驚くほどにエモーショナルな物語だが、それを実現するための技術が、キャラクターの感情と確かに相互作用している。

もし前作を技術屋のデモンストレーション映画と考え、「目的よりも手段が先行している」と批判的に見る向きがあるなら、本作では手段と目的が本来的な関係になった……、いや、手段と目的が等しい重要性をもって芸術的に調合されていると言えるだろう。

この技術革新によって表現されたリアルな共感性は、サイエンス・フィクションというスクリーンを通過しても一切欠落するところがない。彼らの感動は我々の感動であり、彼らの怒りは我々の怒りであり、彼らの涙は我々の涙である。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

悪役は前作に拍車をかけて外道畜生になっている。本作を観れば全員漏れなく深い環境保護愛に目覚めるだろう。本作のプロモーションでは、バーチャルキャンペーンに1人参加するたびに5ドル(約700円)、最大100万ドル(約1億3,900万円)が自然保護団体に寄付されるという企画がある。

これは映画鑑賞ではなく、小旅行だ

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

改めて、本作は映画鑑賞というより“小旅行”と言って良いし、そのつもりでぜひ劇場に足を運んでいただきたい。没入感凄まじい美麗3D映像による非日常体験を期待して鑑賞すれば、思いのほかきちんとエモーショナルな物語が待ち構えていることはサプライズになるだろう。世界最高の技術とストーリーテリングが、世界最高度の場所で交差するような映画だ。3時間12分の上映時間は長すぎるのではないかと思っていたものの、鑑賞を終えてみれば、3時間12分もの間、素晴らしい世界に誘ってくれてありがとうの念である。

この先、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の映画体験を超えられるのは、『アバター』しかないのだろう。今後2年おきに5作目までの公開が予定されていると聞いた時には「おいおいホントに大丈夫かよ」なんて思ったものだが、本作を観ればたちまち朗報に聞こえるようになる。ジェームズ・キャメロンよ、『アバター』よ、これから先も、僕たちをパンドラに連れていってくれ。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』をIMAX3Dで鑑賞したあの日から、この現実世界はなんだか物足りないんだ。

はやくパンドラに帰りたい。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は2022年12月16日、公開。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。