マーベル『ブラックパンサー』エリック・キルモンガーのラストシーンに秘められた意味とは ― 監督&脚本家が解説

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品、映画『ブラックパンサー』には「MCU史上最高」とも称されるヴィラン、エリック・キルモンガーが登場する。主人公である若きワカンダ国王ティ・チャラと彼の対決は、単にスーパーヒーローとヴィランが力で衝突するのではない、より深い思想や思考の対立を象徴するものだ。
むろん『ブラックパンサー』がヒーロー映画である以上、二人の戦いには決着がつくことになる。では、その戦いの終わり方には、エリックのラストシーンにはどんな意図が秘められていたのだろうか?
脚本・監督を務めたライアン・クーグラー、および共同脚本のジョー・ロバート・コールが、それぞれラストの展開について裏話を明かしている。一つの物語を紡ぎ出した二人の才能が、それぞれ異なる視点から結末を捉えていたこともわかるはずだ。

―――
――
―
―
–
キルモンガーの選択、別の可能性はなかった
父親ウンジョブを殺された怒り、その思いをなかったことにされた悲しみ、世界に差別や苦しみが蔓延するさなか、国ごと自閉することで安全を守り、その外側に手をさしのべないワカンダへの憎しみ……。複雑な感情をないまぜにしながら、エリック・キルモンガーは、ワカンダに危機をもたらす武器商人ユリシーズ・クロウを“手みやげ”に、初めて父親の故郷へと足を踏み入れる。
エリックが求めたものはワカンダを変えることだった。ティ・チャラとの決闘に勝利し、新たな国王となった彼は、世界で苦しんでいる人々を救うため、諸外国への兵器の輸出を決定。しかし生きていたティ・チャラらによって、その計画は間一髪で食い止められる。ティ・チャラとエリックの決闘は再開され、激しい格闘のさなか、ついにエリックは敗れた。傷ついたエリックは、ティ・チャラに連れられて、父親に聞かされていた美しいワカンダの風景を見る。ティ・チャラが申し出た傷の治療をエリックは断り、そのまま彼は息絶えるのだった。
英Empire誌のポッドキャストにて、ライアン・クーグラー監督は、この結末を変更しようと考えたことはなかったと言い切っている。
「(エリックの死について)悩んだりはしませんでした。彼の結末は脚本の初稿と同じなんです。つまりティ・チャラと彼の場合、二つのものは共存しえない。ティ・チャラにとっては悲劇ですが、もうエリックは手遅れだったんですよ。」
ただし、あえて言うならばエリックの革命は成功した。実際の方法こそ彼が思い描く形ではなかったが、エリックの思想や考え方を(たとえ一部だけであっても)ティ・チャラは理解し、その結果としてワカンダは諸外国に門戸を開くことになる。その先にはきっと新たな危機が待っているだろうが、ティ・チャラはそのことを理解した上で「人々を兄弟・姉妹のように考える」のを今は大切にすることを選ぶのだ。
共同脚本を担当したジョー・ロバート・コールは、監督と同じく「(エリックを生かしておく)話し合いをした記憶はありません」と米UPROXXのインタビューにて述べている。
「彼(エリック)の最後のせりふが、すべてを物語っていると思います。ある意味で彼は、ああいった(劇中で描かれるような)状況におけるアフリカ系アメリカ人の象徴なんです。だから囚われの身であることは、彼にとって正しい答えではないんでしょう。」
この発言からは、劇中に登場する1992年(ロサンゼルス暴動と同年)やここ数十年に限らず、歴史的に黒人たちが被差別者としていかなる扱いを受けてきたかを思い起こさずにはいられないだろう。エリックは最後の最後まで、自分たちが置かれてきた、そして今後置かれることになるかもしれない環境に抵抗を続けていたのである。
映画『ブラックパンサー』は2018年3月1日より全国の映画館にて公開中。
Sources: https://screenrant.com/black-panther-killmonger-death
https://soundcloud.com/empiremagazine/black-panther-spoiler-special-ryan-coogler-nate-moore
https://uproxx.com/movies/did-killmonger-die-black-panther-spoilers-ending-writer/
©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ