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マーベル『ブラックパンサー』悪役エリック・キルモンガーは「革命家」!現実と共振する、MCU史上最高のヴィランを紐解く

ブラックパンサー
©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

「『マイティ・ソー』のロキ以来最高のキャラクター」「彼こそがヴィラン」「泣かされた」。

マーベル・シネマティック・ユニバース最新作、映画ブラックパンサーのワールド・プレミアから到着した感想には、あるキャラクターと俳優への賛辞が数多く書き連ねられていた。その人物こそエリック・キルモンガー、演じるのは俳優マイケル・B・ジョーダンだ。

本作を手がけたライアン・クーグラー監督とマイケルの間には深い信頼関係がある。監督のデビュー作『フルートベール駅で』(2013)、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)に続く3度目のタッグで、二人は“現実と共振する”鮮やかなヴィランの開発に挑んだのだ。
マイケルは自身の演じたエリックを「革命家」だと形容し、役柄へのアプローチにあたって、あの『ダークナイト』(2008)のヒース・レジャーを参考にしたという。彼はいかにしてキャラクターの造形に取り組んだのか、そしてマイケルにとって『ブラックパンサー』という作品とは一体なんだったのか。マーベル・シネマティック・ユニバース史上最高ともいわれるヴィランの裏側を、本記事では少しだけ紐解いてみたい。

この世界に存在する、観客が共感できるヴィランに

『ブラックパンサー』のエリック・キルモンガー役は、これまでヒーローを演じたこともあるマイケルにとって初めての“悪役”だ。それだけでも大きな挑戦となる本作への出演を、彼は「ライアン監督が必要としてくれている」という理由から一切ためらわなかったようだ。
英Empire誌のインタビューからは、悪役を演じることを、彼が自分自身の幅を広げる良いきっかけとして捉えていたことがわかる。

「自分自身をもっと先へ進めるチャンスだと思いました。本当に凶悪な男になれるんじゃないかと。だって、この役柄は本当にダークなんですよ。たとえみなさんが共感したり、彼の考え方を理解してくれたとしてもね。最高のヴィランたちは、彼ら自身の考え方が(観客にも)分かるものだと思うんです。」

しかし時として、マイケルはこの言葉をそのまま裏返してみせることもあった。英Total Film誌の取材では、「僕たちがいい仕事をすれば、あるいは僕がいい仕事をすれば、みなさんに彼の考え方を理解して、共感してもらえると思うんです。誰を応援するのか、決めるのが大変でしょうね」と語っているのである。これだけで、エリック・キルモンガーというキャラクターをマイケルがいかに複雑に捉えていたかが想像できるというものだろう。

では、主人公ティ・チャラ/ブラックパンサーの前に立ちはだかるエリックという男はどんな人物なのか?
Total Film誌に対して、マイケルはエリック役を「衝動的で、我慢強くて、怒っている。そして王座を求めています。ワカンダには新しいリーダーが必要だと思っていて、そのためならなんでもやる気なんですよ」と説明している。ただし、どうやら単に情熱的な男というわけでもなさそうだ。2017年2月、マイケルは彼のことを「チェスの得意な男」とも表現しているのである。「彼は、完璧なタイミングがやってくるのを待っていたんですよ。」

ちなみにライアン監督は、エリックが従来のマーベル映画に登場したヴィランといかに異なるのかをこのように説明した

「エリックが多くのマーベル・ヴィランと異なるのは――すべてのヴィランと異なるわけではありませんが――彼には、現実の世界に通じる感性があるところです。マイケルが演じてくれたおかげですが、観客のみなさんにもすごく親しみやすいキャラクターだと思いますね。マーベルには共感できるヴィランがいますが、それ以上に、彼はこの世界の住人なんだと感じてもらえるでしょう。すごく現実的な人物ですよ。」

役づくりのヒントは『ダークナイト』ヒース・レジャー

ところがマイケルは、エリック役に挑む中で「すごく落ち込んだ」ことを英Empire誌に明かしている。凶悪なヴィランでありながら、その思想を観客に伝わる形で演じきる。そんな取り組みのヒントになったのは、『ダークナイト』でジョーカーを演じたヒース・レジャーだったそうだ。

「正直に言うと、自分自身が役柄の内面に完全に入り込むという経験はできませんでした。(役柄の精神を)僕の気持ちに近い状態にしておきたかったんですが、結局は自分にしっかり引き寄せてしまって。
俳優として、それからファンとして、『ダークナイト』のヒース・レジャーの演技を見ると“うわあ、すごい”って思います。それからマイケル・ファスベンダーのマグニートー(『X-MEN』シリーズ)、あんなふうにやりたかったんですよ。役柄の中に自分自身の居場所を見つけようと、懸命に努力しました。たとえうまくいかないとしても。」

そんな格闘の様子を見つめていたライアン監督は、『フルートベール駅で』や『クリード』の撮影とは違うマイケルの姿を、日々現場で確かめていたようだ。「よく知っている俳優がまるで違う演技をしたり、新しいことができるようになったりするのを見るのは、いつだってワクワクしますよ。」(Total Film誌)

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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