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マーベル『ブラックパンサー』楽曲、太鼓のリズムは「ティ・チャラ」を意味 ─ アフリカで録られた音楽の裏側に迫る

ブラックパンサー
Black Panther (2018) Directed by Ryan Coogler ©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品、映画『ブラックパンサー』がついに日本でも公開となった。マーベル映画史上初の黒人ヒーローを描く単独映画とあって、その個性は劇中外問わず様々な形で示されることとなった。中でも映画の印象や出来を大きく左右する劇中楽曲に與えられた役割はあまりにも大きい。

この記事では、アフリカの民族音楽を大々的にフィーチャーし、『ブラックパンサー』に力強い個性と躍動感を与えた劇中楽曲について迫りたい。本作で音楽を手がけたルドウィグ・ゴランソンが様々なメディアに語ったインタビューより、製作の舞台裏を覗いてみることとしよう。

『ブラックパンサー』で楽曲を手掛けたルドウィグ・ゴランソンは、スウェーデン出身の1984年生まれ。ライアン・クーグラー作品においては、2014年『フルートベール駅で』、2015年『クリード チャンプを継ぐ男』のいずれも手がけており、これで三度目のタッグとなる。ほか、ラップ・アルバムからコメディ音楽、TV番組やドラマ、スポーツ作品にまで多岐にわたる楽曲を製作している優れたバランス感覚に恵まれた音楽家だ。しかし、スーパーヒーロー映画の楽曲を手がけるのは初めての挑戦だった。──さらに、アフリカ音楽という点でも。

注意

この記事には、映画『ブラックパンサー』のごく一部の内容が含まれています。

アフリカン・ミュージシャンとの出会い

『ブラックパンサー』音楽に挑むにあたってルドウィグは、米音楽メディアのGeniusにて「この映画のカラーやストーリーにマッチした楽曲を書くためには、実際にアフリカを訪れてリサーチする他ないと思いました」と振り返る。ところが、地球上の陸地全体の2割をも占めるアフリカ大陸だけあって、一口にアフリカと言ってもその地はあまりにも広大だ。

「まず最初に、どこに行くべきか考えました。アフリカはとても大きな大陸。国ごと、部族ごとに異なる音楽がありますから。楽器も違えば、言語まで違う。アフリカを旅している友人には、片っ端から電話しましたよ。その内の一人が、バーバ・マールという名のアフリカ人アーティストとアルバムを作っていたということで。

彼に電話して”どうも、僕の名前はルドウィグ・ゴランソン、映画音楽をやっている者です。『ブラックパンサー』っていう映画の曲をやることになりまして、フィクションの黒人スーパーヒーローもので、アフリカの架空の国が登場するんです。良ければお会いして、レコーディングか何かできませんか?”と伝えたんです。すると彼は”もちろん!これからツアーに出る所だから、君もツアーに加わるといいよ“と。」

それからルドウィグはバーバ・マールのツアーに一週間帯同し、彼のスタジオを借りて現地のミュージシャンらとのセッションを開始した。ルドウィグは「これが『ブラックパンサー』スコア始まりの地です」と述懐する。

劇中では、男性が高らかに歌うスコアが聴かれるが、この歌声の主こそがバーバ・マールだ。ルドウィグによれば、これは死んだ象について歌っていて、「象は王を象徴していて、誰かが後を継がなければならない、でも焦りは禁物である」という内容であるそうだ。

民族楽器を取り入れて

アフリカの実際の地でルドウィグは、現地の民族音楽への理解を深めていく。The Hollywood Reporterに対しては、アフリカの伝統音楽について次のように語っている。

「アフリカ部族には、700年前に行われた100種もの儀式それぞれに異なる音楽があるんです。このリズムが、伝統として今に残っている。グリオと呼ばれる伝統伝達者がいるのです。演奏家としての血筋に生まれた職業で、音楽に深い意味合いを与える存在です。」

ハウサ人のグリオ。 photo by Roland https://en.wikipedia.org/wiki/Griot#/media/File:Diffa_Niger_Griot_DSC_0177.jpg

『ブラックパンサー』劇中では、跳ねるようなドラミングを始めとするオーガニックな民族楽器の音が象徴的だ。こうした音を収録すべくルドウィグは、ILAM(インターナショナル・ライブラリー・オブ・アフリカン・ミュージック)と呼ばれる南アフリカのライブラリーを訪れていた。

「そこには、今ではもう存在しない500ほどの楽器が収められているんです。ここを訪れて、楽器の演奏を収録し、映画に取り入れさせて頂きました。信じられないような機会でしたよ。」

中でもルドウィグが多用したのは、トーキング・ドラムと呼ばれる打楽器。様々な形のものがあるが一般的には砂時計のような形状で、天と底の両面に鼓面を持つ。二面の鼓はひもでくくりつけられており、張り具合を変化させながら叩くことで、ピッチを操ることができる。

現代風のトーキング・ドラム。 photo by つ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%A0#/media/File:TalkingDrum.jpg

トーキング・ドラムはひとつでも充分な音量の打音を出せるが、ルドウィグは「これを6人同時に演奏したらどうか」と考えた。複数のピッチで異なるパターンを叩く音が次第に加わり、やがてダイナミックなアンサンブルとなっていく様を演出したのである

ワカンダのテーマでは、太鼓を三度「タカタン」と叩くパターンが象徴的に繰り返されるが、これは「ティ・チャラ」と発音した時の響きを表現しているのだという。ルドウィグは、こうした民族楽器の音色や打音を、見事にオーケストラと融合し、映像に落とし込んでいった。Pitchforkに語ったところによれば、「アフリカ音楽に映像とオーケストラを乗せてみると、ぜんぜんアフリカっぽい音にならなくなってしまう」点に非常に苦労したそうで、「アフリカっぽい響きを残せるようににこだわった」という。

『ブラックパンサー』初期カットは4時間分

アフリカへのリサーチで得られた収穫は充分だった。ルドウィグが初めて明かしたところによると、『ブラックパンサー』の初期カットでは、上映時間が4時間にも及んだという。さらに、通常では楽曲制作者にイメージを伝えるため、「テンプ・スコア」と呼ばれる仮の楽曲が挿入されることが多いのだが、『ブラックパンサー』の場合はそれがなかった。つまり製作陣は、ルドウィグに対して楽曲のイメージ作りの段階から全面的に委ねていたということだ。

これは全く問題ではなかった。何せルドウィグのアフリカ訪問は映画の撮影よりも先駆けており、「キルモンガーのテーマを閃いたときは、素晴らしいフルート奏者にお願いして録音しました。このレコーディングをマイケル・B・ジョーダンに送って、役作りに役立ててもらいました」と語っているほどなのだ。4時間分あった初期カットについては、「僕には書き上げたものや録音したものがたんまりあったから、実際に4時間分のスコアを制作しましたよ」とも語っている。

ルドウィグからは、楽曲を通じて『ブラックパンサー』に流れるエモーショナルなメッセージも伝えられている。スピーディーでスリリングな展開続く『ブラックパンサー』の中でも、ハートのハーブの力を借りて父の魂と再会するシーンは神秘的。より印象づけるべく、ルドウィグはここで民族太鼓ではなくストリングスの音色を起用した。

「ティ・チャラと父とのダイアログを読んだ時、すごく胸に響いたんですね。これを演奏で表現したかった。このテーマの一部分は、キルモンガーのテーマとも共通しています。すべて繋がっているんです。彼らも血で繋がっているようにね。

映画『ブラックパンサー』再度の鑑賞時には、ルドウィグ・ゴランソンの入念なリサーチによって蘇ったアフリカ伝統の響きを、改めて堪能してみて欲しい。

映画『ブラックパンサー』公式サイト:http://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther.html

Source:https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/black-panther-composer-ludwig-goransson-scored-4-hour-cut-1087475
https://youtu.be/0XtCnGT0B20
https://pitchfork.com/reviews/albums/ludwig-goransson-black-panther-original-score/
©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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