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お父さん方こそハンカチ用意!何故アラサー男性が『カーズ/クロスロード』で泣けてしまうのか

Mateus S. Figueiredo https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sal%C3%A3o_do_Autom%C3%B3vel_2010_01.JPG

ピクサーはたまにこういう渋いことをする。

たとえば、『ファイニンディング・ニモ』(2003)が子ども向けアニメのように見せかけて、同伴して劇場に来たお父さん方の涙をしぼりとる内容だったように。『カーズ/クロスロード』も、涙拭くハンカチを持参しなければいけないのは、「たまの休日にアニメ映画とかめんどうだね~」などと愚痴りながら子どもを映画館に連れてきたお父さん方である。もっというなら、アラサーのあなた!ハンカチは1枚だけでいいのですか?

生意気な若者に世代交代を突きつけられる主人公

『カーズ2』(2011)から6年ぶりの続編となった本作だが、前作の実質上の主人公がメーターだったことを考えれば、ライトニング・マックィーンが堂々と主人公を務める本作こそ『カーズ』(2006)の正当な続編といえるだろう。

しかしながら、序盤からして展開は重い。相変わらず順風満帆にレースで勝ち続けているように見えたマックィーンだが、ある日、新星のジャクソン・ストームに敗北を喫する。余裕でストームを称えるマックィーンに対し、ストームは「勝ててよかったよ」と返事。

「会えてよかった」じゃないのか?口の聞き方がなっていない奴だ!マックィーンはムッとするものの、それから全くレースで勝てない。最新のトレーニングを施した新世代レーサーであるストームたちに、マックィーンは太刀打ちできなくなるのだ。やがて、成績がともなわずに解雇されたり、自ら引退を選んだりする同世代レーサーたち。マックィーンは一人気を吐くものの、無理な走行がたたってクラッシュ、シーズンを棒に振ってしまう…。

もうお分かりだろう。本作はアニメシリーズにありがちな、時間や老いの概念がないファンタジーではない。レーサーたちは年もとれば、老けもする。自分の意志と関係なく世代交代を突きつけられたマックィーンの葛藤を描き出す本作は、大人にこそ深く理解できる内容なのだ。

「老い」を受け入れられない過去映画の男性たち

アメリカ映画は度々、「老い」を受け入れられない男性たちを描いてきた。『リトル・チルドレン』(2004)のブラッドは司法試験の勉強をしている専業主夫。妻への引け目と若さを失う恐怖から、ブラッドは近所に住む人妻と不倫をするようになる。

『25年目のキス』(1999)に出てくるロブは、高校時代、野球部のスターとして名を馳せていたが、結局は地元に留まって小さな雑貨店のスタッフを務めている。姉が女子高生のフリをして高校の潜入取材をしていると知ると、便乗して自身も高校に乗り込み、青春を取り戻そうとする。

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)のラッセルは大学野球部のピッチャーだが、実は年齢と学籍を偽っていた。主人公のルーキーに青春の価値を説いてくれたラッセルの言葉は、意味深な響きを帯びだす。

彼らに共通しているのは、20代中盤から30代前半、世間一般ではまだまだ「若者」と呼ばれる部類に入る点だ。しかし、世間が何と言おうと本人は自覚している。10代のようには体は動かないし、冒険心も大胆不敵さも失われつつある。昔は「夢」と呼べたものが今では「妄想」でしかない。何よりも、自分より若い世代を目の当たりにして「俺はまだまだ若い」とは思えない。だからこそ、自分の居場所に固執してしまうのである。全ては若さを手放したくないからだ。

しかし、『カーズ/クロスロード』は競技の特性上、マックィーンに否定しがたい老いの烙印を押してくる。これがサッカーやアメフトなら、ベテラン選手も経験を武器にして立ち回れただろう。しかし、スピードレースは時速が全てだ。どんなにカーブを上手く曲がり、展開を先読みできるようになっても、直線で追い抜かされては意味がない。そして、旧世代型であるマックィーンは、ストームほどのスピードを出すことができない。重い事実は、最後までマックィーンにのしかかってくる。

ドック=ポール・ニューマンが教えてくれたこと

マックィーンに「老いた者」としての生き方を気づかせてくれたのは、かつての師匠、ドック・ハドソンの思い出だ。ドックの声優を務めたポール・ニューマンは他界してしまったので、本作にも回想シーン以外の出番はない。しかし、伝説的レーサーだったドックがマックィーンにどうして自分の技術を託すつもりになったのか、マックィーンは考えるのである。

ポール・ニューマンはアカデミー主演男優賞を獲得した『ハスラー2』(1986)で、向こう見ずな若者を指導するビリヤードの達人、エディを演じた。代表作『ハスラー』(1961)から20年越しの続編だったが、トム・クルーズ演じるヴィンセントはレジェンドであるエディに対しても生意気で、野心を隠そうともしない。しかし、エディの若さに触れることで、エディもまたかつての情熱を取り戻していく。

『カーズ/クロスロード』で若い女性トレーナー、クルーズと関わることで自分を見つめ直すマックィーンの姿は、『ハスラー2』のエディにそっくりだ。そう、若さとは若者に張り合うことではない。若いころの自分に今の自分で打ち勝つことである。『カーズ/クロスロード』は我々アラサーの男たちに、過去を手放す勇気と「若く生きる」意味を教えてくれる。あ、もちろん子どもも楽しめるよ! 

Eyecatch Image:Mateus S. Figueiredo

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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