【解説】DC10年計画、発表 ─ 「これからは品質重視」米ワーナーCEO、『バットガール』異例中止の理由は

事業統合により誕生した新企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリーは現地時間2022年8月4日、第2四半期決算説明会を開催。投資家向けの質疑応答の中で、揺れるDC作品の今後の戦略を明らかにした。
同社では4月よりデヴィッド・ザスラフ氏がCEOに就任し、DC作品の抜本的な改革を行っている最中。同シリーズではこれまでに複数の世界観に基づく単独作品や続編作品が乱立しており、新幹部らは「一貫性やブランド戦略に乏しい」と批判的だった。先立っては、撮影を済ませた配信映画『バットガール』を損切りする形でリリース中止に踏み込んだ。
この会見でザスラフ氏は、DCについて「我々はリセットを行いました。事業を再構築したのです」と説明。「DCだけに10年間集中するチームを作ります。アラン・ホルンとボブ・アイガー(米ディズニー会長)がディズニーでケヴィン・ファイギと効率的に組んだ構造と非常によく似ています」と宣言し、マーベル・シネマティック・ユニバースに倣った長期計画を示唆した。
「我々は、DCから長期的かつ持続的な事業を成長させられると考えています。そのために我々が取り組むのは、“品質重視”。仕上がっていない映画は絶対に公開しません。これからはすべての映画において、どうすればより良いものが作れるか?ということに集中します。我々は、DCをもっと良くできる。これからは、そのことに集中していきます。」
かねてよりザスラフ氏は、マーベル・スタジオにおけるケヴィン・ファイギのような創作と戦略の両面を統括できる人物を求めていると伝えられていた。DC映画シリーズではこれまでも指揮者の交代が繰り返されることがあったが、ザスラフ氏は心機一転で“品質重視”の立て直しに乗り出す。
いわゆる配信映画について同氏は、「異なる見方をしています。以前までの戦略から、積極的な軌道修正を行いました」との方針を述べた。
米Deadlineによればザスラフ氏は、「映画を映画館で上映することに敵うものはありません。高額な映画をそのままストリーミング配信することに、経済的な価値を見出せない」と発言。NetflixやDisney+といった競合社がリッチな配信映画の開発に勤しむ一方で、新たなワーナーは劇場第一主義の構えを示す。
「(劇場公開)映画が配信に移行し、さらに移行するごとに、マーケティングの追い風となる関心や需要が生まれ、口コミが広がると考えています。劇場鑑賞が、コンテンツの価値や全体的な体験価値を高めるのです」とザスラフ氏。初めに映画を劇場公開させて価値を最大化させ、その後に下流にあたる配信などに段階移行させる座組みだ。
この考え方は原理的なものだが、上流にあたる劇場公開をコロナ禍で制限された業界は、配信事業に活路を見出して試行錯誤を繰り返した。米ワーナー自身、劇場とHBO Max配信の同日リリース戦略などを暗中模索してきている。
ここにきてワーナーは、劇場第一主義に立ち返る格好だ。「同じコンテンツがPVOD(プレミアム配信)に移行し、そして配信に移ると、また価値が上がる。ある枠から別の枠に映画が移るたび、全体的な価値が上がって、上がって、上がり続ける。『ザ・バットマン』と『エルヴィス』で、それがハッキリと実証されました」とザスラフ氏は続けた。また、「総合的なSVOD(定額配信)サービスを開始することが、目下の主な優先事項」とも述べ、新たなストリーミングサービスの展開予定も示唆した。
この会見でザスラフ氏は、『バットガール』のいかなるリリースも見送った理由について直接的な説明をしていないが、「仕上がっていない映画は絶対に公開しない」「ストリーミング配信に経済的な価値を見出せない」といった発言が、ほとんどその回答になっている。新体制となった米ワーナーの元では、もはや「配信独占映画」は居場所を失っており、『バットガール』の品質はいかなる基準も満たせなかったものと推測できる。
あわせて同氏は、「素晴らしいDC映画が控えています。『ブラックアダム』『シャザム!』、そして『フラッシュ』です。これら全てに取り組んでいるところで、鑑賞したところ、どれも素晴らしい。しかし、さらに良くできる」と紹介。一部作品の米公開予定変更も噂されたが、今回の会見では発表されなかった。また、主演俳優のスキャンダルなどで公開が不安視されていた『フラッシュ』の名も挙げていることから、同作は予定通り進行すると見られる。